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009_8体の神モドキ

敵ボス説明回。


 【這いずるモノども】。


 世界を生み出すための材料? エネルギー? とにかくそういった物で満たされた海があって、そこに発生した生物? 的なモノが【這いずるモノども】だ。


 形状はいわゆるスライム。とはいえ不定形ではなく、ほんのり星型をした透明なスライムだ。透明なマンジュウヒトデといえば分かりやすいかな? で、その内部にははっきりとした形状の、外観と同様の星型の核のようなものがある。もっとも、これは核などではなく、ただ、そう見えているだけで器官ではないとのことだ。


「奴らは大雑把に分けて3タイプいる。知能も本能らしい本能もない下位タイプ。知能を有している上位タイプ。で、知能と知性を有している最上位タイプ。

 これを分かりやすく区別すると――


 人間・天使・神


 ってな感じだ」

「……神様も元はそうだったんですか?」

「あー……そうとも云えるし違うともいえる。ルーツは一緒だけれど、奴等みたいになる前の状態のものが、世界と同時に神として生まれたもの……というのが僕たちだ。

 あぁ、そうそう。地球にも【這いずるモノども】、神になり損ねた化け物はいるよ。時折、忽然と人が消えたっていう事件があるだろう? アレの犯人だ。今は相応の知識を身に着けたから、もう余程でない限りしないだろうけど、時折、孤立した人間の集団を捕食したりしていてねぇ。

 かつては5体いたんだけれど、いまは2体に減ってる。互いに喰いあったからね」


 消えた船員のアレかな? 訊かなきゃ良かったような気がする。


「それはさておいて、こいつらには自我らしい自我はなく、知識もない。基本無害なんだが、自身にないものを求めはするんだ」

「だから、人に憑りつくんですか?」

「そういうこと。人が一番面白いからね。稀に動物にいくヤツもいるけれど。

 さて、ここでちょっと公国について話そうか。


 公国……ソルテール公国だけれど、もとはモーガスト王国の公爵領だ。200年ほど前に王家でお家騒動が起こって内戦に発展。そのどさくさに紛れてソルテール大公が独立を宣言、ソルテール公国を樹立。同じようにほかの公爵家2家も独立して公国が3つ生まれた。で、そこに周辺諸国がこれ幸いと王国に侵攻して領土を奪い、王国は消滅っていう事件があったんだ」


 私は思わずジト目で神様を見た。


「その話は必要なんです?」

「いや、特には。まぁ、この辺りは今以て尚、国同士の仲は微妙と思ってくれればいいよ。上っ面だけは平和ってだけだね。いまでもモーガスト王国の残党が、王国復活を目論んでテロを起こしたりしてるし」

「地球で云うと?」

「ちょっと前のイギリスとか中東かな。なにせ公国に女神教の聖地があるからね」

「ちょっと前と云うか、中東辺りはいまでも戦争してるじゃないですか」

「はっはっはっ。そもそも平和な時が殆どないね。まぁ、そうなるように大戦の戦勝国がお膳立てしたんだから、当然だろうけど。

 さてさて、それはこっちにはまったく無関係だからぶん投げるとしてだ。

 ソルテール公国だけれど、25年程前に凄まじくくだらない事件が起こった」

「……25年前って、【這いずるモノども】が召喚された時期ですよね?」

「うん。その原因となった事件だよ。ほら、ラノベとかで1ジャンルを築いているだろう? いわゆる婚約破棄モノっていうのが」


 ……は?


「いやぁ、次期公王たる公子(プリンス)が、婚約発表パーティで婚約者に冤罪を仕掛けて婚約破棄なんていう、まさにテンプレな展開をやらかしてねぇ」


 えぇ……。


「婚約破棄にはなったんだけれど、冤罪を晴らすべく父である公爵が動いている間にその婚約者が自害。結果、母親である公爵夫人が怒りのあまり狂気に堕ちて、自身を贄に大公家へ呪いを掛けたんだよ」

「あの、もしかして……」

「そ。お察しの通り、その呪いが世界に“穴”を空けて【這いずるモノども】を呼び寄せた。

 この世界に侵入した【這いずるモノども】の数は不明。というか、まだ穴は開きっぱなしだ。ただ、侵入した最上位級8体の内1体が、これ以上同クラスのモノが入り込まないようにしているから、“神モドキ”がこれ以上増えることはないよ」


 うわぁ……。


「で、この世界の女神は、その状況に対処せずに、ただ単に臭いものに蓋をしただけで旅行に行っていると」

「そう。中途半端な結界を張って終わり。一応、僕のところからふたり+ひとりを攫って、あとは放置だ」


 ひっでぇ。


「それじゃ、【神モドキ】8体について一応教えておくよ。


 ・マクファーラン公爵夫人サーシャに憑りつき、神モドキとなったモノ。サーシャの復讐心の強さもあって、【復讐】を司る神モドキとなっている。いまはすっかり復讐を終えたこともあって落ち着いてはいるよ。とはいえ、物騒な思考の存在になっているから、危険ではあるよ。なにかの拍子に暴れ出しかねない存在だ。


 ・マクファーラン公爵令息ルーサー。彼は妹に対する仕打ちに激怒し、もはや大公家に国を任せる訳にはいかないと、同士を掻き集めて叛乱を起こした。もっとも、その実は妹のための復讐心や義心からではなく、単なる王の座を奪わんとする野心、【支配】心からだ。だが軍をまとめ進軍を開始するも、公宮まであと一歩という時に溢れた【這いずるモノども】に憑りつかれ、彼は【支配】を司る神モドキとなった。

 【支配】なんてものを司っていることからわかると思うけれど、かなり危険だ。公国の外へ出ることにもっとも精力的だ。救いは、神モドキとしては弱いってことだな。ベースがカリスマだけの残念な男だからな。いわゆる“優秀な馬鹿”だ。

 【復讐】が大公家を亡ぼした後は、彼、【支配】が公国を取りまとめている。

 そうそう、あのメイドはこいつの配下の上位種に憑りつかれているよ。


 ・マクファーラン公爵令嬢専属侍女アメリア。彼女は令嬢の自害を止めることができなかったことを悔やみ、悲しみに暮れていた。公爵夫人サーシャの行った呪術の影響により、令嬢の愛した屋敷や庭が失われていくことに更に絶望した。そんな彼女も憑りつかれ、【悲嘆】を司る神モドキとなった。彼女はこれ以上令嬢の愛した世界が穢れるのを食い止めるため、世界に空いた大穴を塞ぎ、いまも嘆いている。

 彼女自身はあれだ、もはや地球でいうところの泣き女(バンシー)の強化版のような存在になっている。彼女の嘆きを聞くと精神を同調させられて、もれなく自殺するという傍迷惑さだ。だから彼女の嘆きの聞こえる範囲に入ることは危険極まりないが、近づかない限りは無害だ。とはいえ、穴をきちんと塞ぐためには彼女を始末するしかない。まぁ、彼女は勇者たちに任せておけばいいよ。


 ・テニエル伯爵夫人ターラ。彼女はなんというか美食家だ。食べることが好き……というか、美味しいものを食べること、探求することが好きな人物だな。それこそ突き抜けたレベルで。だからこの辺りではタブーとされている食材でも、一度は口にしたりするような御仁だ。で、憑りつかれた結果【貪食】を司る神モドキとなった。まぁ、微妙に【貪食】の言葉の本質とズレてはいるけれどね。なんでもかんでも食べるわけじゃないし、底なしの胃袋というわけでもないからね。

 ただ、カニバリズムに目覚めているから、危険ではあるよ。


 ・神殿男娼アンドルー。男娼、と云ったように、彼は神殿で身体を売ることを生業としていた。

 あれ? 知らない? 神殿に寄進した者にたいして、神の力を与えるとかなんとかいって性行為をする役職の者だよ。もちろん、神殿娼婦なんて者もいるよ。

 で、彼はその美貌と知性から、かなりの人気の人物だった。とはいえ、歳をとれば美貌も衰えて来るし、身体も職業柄、残念なことになって行く。それに伴って彼の神殿での立ち位置は落ちていく。

 彼はそれが許せなかった。なにより衰えていく自身の美貌に我慢ならなかった。その思いたるや狂気のレベルさ。ほら、地球でも吸血鬼伝承の元のひとつになった伯爵夫人がいただろう? 彼女と同じようなことをはじめたのさ。丁度、懇意にしていた貴族の協力もあってね。うん。先に云ったターラね。

 そしてその美貌に対する執着心は【這いずるモノども】に気に入られ憑りつかれた。彼は【高慢】を司る神モドキとなった。コイツは危険なのかどうなのか微妙なところだよ。単なる行き過ぎたナルシストだからね。ただ、自分よりも美しく見えた者は徹底して殺すだろうね。

 ……君は絶対にヤツに素顔を見せちゃダメだよ。いや、珍獣とか……あぁ、まぁ、いいか。普段は別人に化けてるわけだし。


 ・第8聖女オリアーナ。教会の認定した聖女だけれど、現在は死亡したとされて除籍されている。当時、彼女は聖女としては最も若く、最も強い能力を持っていた。そして聖女認定なんてされていることから分かるだろうけど、実に傍迷惑な思想の人物だ。まぁ、彼女たちの云うことに賛同する者が多いのも確かだけれどね。首を傾げているね。考えても見なよ。【慈愛】に溢れた聖女たちは弱者たちの味方だ。

 弱者を救うことを使命のひとつとしている。云い換えれば、【慈愛】の名目のもとに、弱者が自身の足で立ち上がる必要もないほどに庇護するんだよ。完全な甘やかしだ。そんなもの害悪にしかならないだろう?

 とはいえ【慈愛】の神モドキは攻撃性は皆無だし、放っておいてもいいよ。害悪でしかないけれどね。


 ・騎士アルトゥル。第8聖女を守っている神殿騎士だ。もっとも、彼女を【守護】しはじめたのは公爵令息が叛乱を起こしてからだけどね。彼は唯一残った公国の神殿騎士だ。なにせ神殿の大司教が公子のでっちあげた冤罪内容を真実であると神の名の下に認定するなんてことをしでかしたからね。その結果ルーサーが教会を否定したこともあって、神殿騎士たちは公都にて叛乱軍と激しい戦闘となった。彼らは奮闘するも多勢に無勢、アルトゥルは早々に戦線を離脱、聖女を連れて公都より脱出。その後聖女ともども憑りつかれ、彼は【守護】を司る神モドキとなった。

 彼の目的は聖女オリアーナを護る事だけだから、彼女に手を出さない限りは危険はまったくない。


 ・イリシア。大店の娘に生まれ、商才を発揮し、兄共々将来を期待されていた娘だ。だが不幸なことに妬み嫉みから起きた事件が元で、彼女は不幸な身となった。子供を身籠ることができなくなったんだよ。ここまでいえばわかるかな。彼女が切望していたのは幸せな結婚をし、子供を産むこと。彼女は子を産める身体を欲していた。なにせその事件が原因で婚約が白紙となって、彼女はひとり歳を重ね、仕事に打ち込むことしかできなくなってしまったからね。そうこうして不惑の歳も間近というときに、【這いずるモノども】に憑かれた。そして彼女は【増殖】を司る神モドキとなった。そう、子供を産み続ける存在と成ったのさ。

 子供と云っても、いわゆる自己増殖。【這いずるモノども】を生み出す存在。唯一の救いは生み出すスパンが人と同じでほぼ丸九ヵ月。休養期間が1ヵ月。だからだいたい丸10ヵ月毎に1、2体ほど下級、ないし上級の【這いずるモノども】を生み出している。

 彼女は絶対に滅ぼさなくてはならない。でなければこの世界が終わる」


 私は口をへの字に曲げながら、いまにも「むぅ」と唸りだすような顔をしていたに違いない。


 神様が意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「で、聞いてみた感想はどうだい?」

「なんか女性が多いですね」

「そうかな? 男3人、女5人だ。たかだか8体じゃ、男女比がどーのってこともないだろ? これが男1人、女7人だったらともかく」

「それもそうかぁ……。でも好戦的なのが1体だけっていうのは予想外でしたね」

「突出した意思や感情を発揮している者に惹かれるからね、奴らは。いま云った8人の内5人は病んでるレベルで感情を発露させていたんだ。ヤツらに目をつけられるってものさ」


 ……復讐鬼。世界征服を目指す愚者。敬愛する人を亡くし絶望する者。美食の権化。アイデンティティの崩壊しかけのナルシスト。そして子を産むことを切望した女。


 並べるとなんだこりゃって感じだけど、相手にしたくはないね。面倒臭いのが分かり切ってる。

 これに加えて、話の通じない聖女様と聖女様万歳の護衛騎士。


 うん。全部勇者に押し付けよう。つか、私が相手をする義務もないし。連中の抑止をちょっとするのが私の仕事だからね。

 やり合っても【支配】くらいかなぁ。なんか結界の外に出てき始めてるわけだし。


「現状問題なのは【支配】だけみたいですね。それなら私は、外にでてきたその配下を始末することに従事しますよ。勇者たちのお仕事を横取りなんてする気はありませんし」


 ……いや、ちょっと待て。


「もしかして私が【支配】を討伐したりしたら、【復讐】が私を殺しに来たりしません?」

「来るね。それこそ刺し違えてでもぶち殺してやるって勢いで。ついでにいうと、【復讐】は【慈愛】を娘みたいに可愛がっていたよ。【慈愛】は【復讐】の自害した娘と姉妹のように仲がよかったからね」


 神様の答えに私は頭を抱えた。


 ってことはなに。【支配】を倒したら【復讐】が「よくも息子をぉぉぉっ!」て感じで殺しにやってきて、それを返り討ちにすると【慈愛】が出張ってくると。そうなると漏れなく【守護】が来て――ってことに?


 面倒臭ぇ。ゲームでいうならボスの連戦じゃんかよ。ゲームじゃないんだから、リアルでそんなことやりたくないよ。


「前言撤回です。全部勇者に任せます。そもそも連中の使命ですし」

「あいつらに倒せるのかねぇ。あっさり心中することを選ぶような薄弱な精神の持ち主だよ、あのふたり。今も変わらずね。ヤツらと対峙したら、尻尾巻いて逃げそうだけど」


 いや、まぁ、聞くからに強烈な感性をもっているような神モドキですしねぇ。


 血を浴びるのが大好きなナルシストの神様とか、絶対に対峙したくないよ。慈愛の聖女様なんか、討伐したら絶対に周囲(現在も生存しているだろう公国民)から恨まれまくるだろうし。なんのかんので人間は堕落を望んでいるんだろうしね。


 ま、私は結界の向こう、中へと入る気はないし、外に出てきたヤツを叩くだけにしよう。


「ま、問題なのは【支配】の手下があれこれやってることかなぁ。あのメイドだって、()()で憑りつかれたわけだし」


 は?


「え、もしかしてこの国、かなりヤバいのでは?」

「まだ大丈夫だよ。手始めとして、公爵家を乗っ取ろうとしはじめたってところだから。読み違えて、令嬢がこっちに来るなんてことになったわけだけどね。あのお嬢さんが憑りつかれなければ、厄介なことにはならないよ。ここの責任者になったあの女傑は死んだところで問題ないしね」


 おぉう。相変わらず神様はこっちのことに関しては情の欠片も無いな。


 まぁ、立場を考えると、クロ―ディアさんが死んだところで影響は少ないか。とはいえ、私が関わって酷い状況になるってのは気に入らない。


 一応、正義の味方の真似事をしているんだ。できるだけのことはやってみるとしよう。


「信玄餅、食べるかい? 余ったアガーでつくってみたんだけど」

「あ、それはいただきます」


 タルトだと多いけど、それくらいならお腹に入る。


 かくして、私は黄粉のかかった透明な信玄餅を頂くのであった。



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