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008_お気楽な神様


「お疲れー」


 のほほんといつものように神様が出迎えてくれた。


 今日のお茶請けは……なんだろう? あれ。


 神様が食べているお菓子。おかしなことになってるんだけど。


 生クリームが……浮いてる?


 パイ生地だかタルト生地があって、レモンだかオレンジのスライスの差し込まれた生クリームが浮いてるお菓子。


 いや、何云ってんだって云われそうだけれど、そうとしか見えないんだよ。


 え? もしかしてアレこそが神域のお菓子という天上の代物!?


「……なんだか、ものすごい誤解をしてないかな? これ、普通のレモンタルトだよ」


 神様が困ったような表情を見せる。


 いやいやいや、神様。私の知っているタルトはそんな摩訶不思議な代物じゃ断じてありません。


「いいからこっちにおいで」


 相変わらず温度調整されて、ひんやりとした大広間へと足を踏み入れる。


 この肌寒い温度調整は、コタツにその威力を発揮させるためだ。


 なぜに神様はそんなところに全力を尽くすのか。


 コタツにはいる。そして天板に載っているそれを観察。


「……もしかしてこれ、アガーを使ったタルト、ですか?」

「そうだよ。火も使わないから、作るのは楽だよ」


 そういって神様がひと切れ切り分けてくれた。


 タルト生地の皮。透明な……本体っていえばいいの? そしてその上の生クリーム。


 え? なにこれ、脳がバグりそうなんだけれど。


「あ、おいしい」

「奇をてらうことにも、人間は全力だよね」

「……これ、神様オリジナルじゃないんですか?」

「僕たちは基本的に食事は不要だからね。ほら、透明なポテチとか一時期話題になってたじゃない。そういう方向性で作られたんじゃないの?」


 あー、そういやあったな、透明ポテチ。興味があってレシピを調べたっけ。……これはポテチと呼んでいいのか? と、レシピをみて疑問に思ったけれど。


 もうひと口


 うん。ほのかなレモンの酸味が心地よい。タルトっていってるけど、これ、タルトの振りをした透明なゼリーだ。


「それにしても面倒だねぇ」

「上はともかく、下が腐ってますねぇ。普通は逆な気がするんですけど」

「頭を挿げ替えたばかりだからだねぇ」

「あー。そういえば屋台のおっちゃんがそう云ってましたねぇ」


 さて、あのお嬢様に見つかって捕まった私は、公邸で厄介になることになってしまった。

 まぁ、すぐに逃げ出す予定だけれど。ちなみに、いまは客間のクローゼットの中で扉を開いて戻ってきている。


 さて、公邸(公爵邸?)の使用人。下働きとかは平民だけれど、各メイド……ハウスメイドとか秘書を兼ねた上級メイド? とかは、下級貴族のご令嬢(4女、5女の余り物枠)だ。行儀見習いを兼ねたもののようだ。で、警備やら何やらは下級貴族の子息。それも三男坊とか四男坊という、成人したら家から放り出されるのが確定している連中。まぁ、そいつらが酷い酷い。特権階級の考えに凝り固まっているというか……あぁ、あれだ。選民思想。それそのものに染まってる。彼らは人間ではなく、神に等しき者なのだそうだ。


 ……なにをどう考えればそこまで傲慢になるんだか。確か、教会がかなりがっつり政治に食い込んでいるから、連中も教会とは相当ずぶずぶのハズだけど、そんな考えを持っていて大丈夫なのかね?


 教会の連中も大概だけれど、それでも「私が神だ!」なんてことは云わないよ。神に選ばれし者だ的なことを云ってるのはいるけれど。法王とか大司教とか。






 さて、私があのお嬢様に捕まった後の事を話そう。


 まぁ、さして話すこともないんだけれど。


 お嬢様に連れられて、現在この町の代官となっている女伯爵と面会した。ただそれだけだ。


 あのお嬢様の名前はディアドラ・ヘッドリー。ヘッドリー公爵家の総領姫。要は次代の女公爵だ。

 彼女は王都にあるタウンハウスで生活していたが、このほどこのストローツの町の立て直しの為に、助っ人としてやって来た。後の公爵領経営のための勉強も兼ねてとのことのようだ。


 現公爵の妹であるクロ―ディアさん。近衛騎士で王族の護衛をしていた女傑。自身も伯爵位を賜っている。領地無しの法衣貴族だ。

 いや、実家の公爵領に、近隣の没落した貴族領がいくつか併合されたから、それが与えられた領地みたいなものなのかな?


 そのクロ―ディアさんは現役を引退して後進指導を王宮で行っていたようなのだけれど、ここの現状が発覚したことで、領主である兄に頼みこまれて赴任したそうだ。


 貴族制度については私はさっぱりだから分からないんだけれど、この公爵家はなんとも凄いことになっているようだ。


 まず、当主の公爵様は公爵位を持っている。そして妹のクロ―ディアさんは自力で伯爵位を会得。その旦那さんも近衛騎士団長にして同じく伯爵位持ち。あ、クロ―ディアさんと旦那さんの伯爵位は別物だから、これで伯爵位はふたつってことだ。で、その息子さんもまだ十代だというのに、騎士団で色々と手柄をあげ捲った結果、現在男爵位持ち。


 完全に武門の誉れ高きお家ということだ。


 あ、公爵様も武人で、若いころはいろいろとやらかしていたらしい。おかげで空位の爵位株が5つくらいあるんだとか。


 まぁ、この辺りの事は神様から聞いたことだ。


 で、私がクロ―ディアさんと引き合わされた理由は、概ね思った通りだった。


 私を配下にしたい。ということ。


 お嬢様にあの【這いずるモノども】と戦った所を見られていたのはまずかった。


 あの場で使った魔法の大半は、恐らくこっちの魔法の常識を考えるとかなり異常なものだ。加えて下っ端とはいえ【這いずるモノども】を倒したとあっては、配下に欲しいと考えるのも当然のことだ。


 まぁ、そのお誘いはお断りしたけれど、


 そうしたら、魔法の指南をしてもらえないかとお願いされた。


 ……さすがにこれを断るのは難しいんだよねぇ。公爵家の願いを2度も断るとかさすがに。1度でもヤバいのに。


 なによりも困ったのはこのヘッドリー一族、もれなく天然チートの集まりなんだよ。いや、たぶんどっかにポンコツな部分はあるんだろうけど、スペックだけみると、完全な文武両道というね。


 だから魔法の才能もしっかりとあるんだよ。


 でも私の使ってる魔法って、こっちの魔法体系とは理論体系が違っているから教えられるのかどうか不明なんだよねぇ。


 いや、こっちの魔法って、ここの前神様が論理を決定づけて画一化したものなんだよね。だから、“呪文を唱えれば発動する”なんて代物なんだよ。そういう世界のルールなんだ。だから誰でも魔法を使える。呪文を暗記できて、魔力さえあれば。そして個々の才能の差別化は、個人の魔力量で決まっているという感じ。私はテンプレ魔法って呼んでる。


 そんなテンプレ魔法に慣れている人に、科学知識が根底にある魔術を教えるって、かなりの無理ゲーなんじゃ……。






「教えてあげればいいじゃない」


 神様が次の一切れを切り分けながら、暢気に云う。


「えー……。問題にしかならない気がするんですけど」

「んー……基本的なところだけ押さえたらいいんじゃないかな。科学知識にしても、小学生理科レベルのものならすぐに教えられるでしょ。それで使える程度の魔法を教えればいいよ」

「そうはいいますけど、私の使ってる神様直伝の魔法って、自分で効果を考えて作る代物ですよ。呪文を唱えるだけのテンプレ魔法とはまるっきり違うのに、理解できますかね?」

「それは教わる側の事情。こっちが気にするものじゃないよ。あらかじめそのことを伝えておけばいいでしょ。上手くできなくても知ったことじゃないよ」


 いや、確かにそうでしょうけど。


「最悪、また顔を変えて逃げればいいよ。素顔は晒していないんだしね。魔法にしても【閃光の衝撃】の劣化版あたりなら伝授できるでしょ」

「劣化版ですか?」

「音か光、……音の方が楽かな。それだけなら十分教えられるでしょ。音だけでも、対象の身を竦ませるくらいはできるからね。目くらましがない分、効果は瞬間的にしかないだろうけど。

 あ、そうだ。あのしくじり生活魔法を教えたらどうだい」

「なんの話ですか?」

「あの全身脱毛魔法」

「どんな嫌がらせですか!」

「面白いと思うんだけどなぁ」

「戦闘の役には立ちませんよ」

「婦女子に使うと大変なことになるね」

「恐ろしいことを。男性に使っても怖いことになりますよ。スキンヘッドに眉無しとか、そこらの美男子も漏れなく強面になりますって」


 タルトを食べ終わり、フォークを置く。


「おかわりはいるかな?」

「いえ、十分です」

「そうか。それじゃ、遂に遭遇したことだし、こっちに来ている【這いずるモノども】について詳しいところを話そうか」


 そういうと神様はどこからかティーポットを取り出して、おもむろにお茶を入れ始めた。



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