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005_神様とたこ焼きを食べる


「ただいまー」


 亜空間拠点へと戻り、私は変身を解いた。私の本来の恰好は迷彩服。軍とか自衛隊とかで採用されている戦闘服だ。もちろん靴も軍用のもので、荒れ地森林どこでもお任せという出で立ちだ。


 で、頭には顔半分を覆うバイザーみたいな仮面。


「お帰り―。ついに遭遇したねー。どうだった、戦った感想は」


 申し訳程度の玄関は、すぐに畳敷きの和室と繋がっている。どこの旅館の宴会場だと思えるこの和室は、確か八十八畳間だったはずだ。


 その真ん中で、神様がコタツに入ってたこ焼きをもぐもぐとしていた。


 うん。神様。神様は私が召喚されてからずっと、こうしてこの拠点に住んでいる。正確には神様の本体は地球にいて、ここいるこの神様は端末ってことらしいけれど。


 私はなんだか大変なことになっているコタツの天板をみつめた。


 ……なんか、たこ焼きで埋め尽くされているんだけど。いったい幾つ焼いたの?


 ひーふーみー……一列20個? ってことは400個!? いや、焼き過ぎでしょ。


「早く上がっておいで。一緒に食べよう」

「……はい」


 靴を脱いで大部屋の真ん中に設置されているコタツに入る。


 おっと、入る前に汚れを落とさないと。


 魔法を使って汚れやら何やらを処分する。いわゆる【生活魔法】なんてラノベで呼ばれているようなものだ。


 これ、使えるようになるのに苦労したんだよね。正直、魔法の難易度としたら最高峰といってもいいんじゃないかな。だって考えてみなよ。人体に一切の影響を与えずに、体表、及び衣服についた汚れの類を一気に処分するんだよ。


 下手にやると全裸になるとか、皮膚が全部禿げるとか、恐ろしいことになるんだよ。


 ちなみに、応用して、対象をつるっ禿げにすることもできる。実はそっちの魔法もきちんと覚えている。正確には、汚れと一緒に全身の体毛も処分する魔法だけれど。尚、これを掛けると毛根も死滅するので、二度と毛が生えてこない。


 コタツに入り、天板を見渡す。


 もう3分の1くらい減ってる。


 一番手前の、楊枝が突き刺さっているたこ焼きを取り、口に放り込む。


 熱々、というわけではない。でも食べやすい程よい温度だ。


 うん。美味しい。


「で、初めて“アレ”と戦ってみた感想はどうだい?」

「よくわかりませんねー。戦闘の感想は『弱っ!』って感じでしたけど」

「まぁ、君は散々鍛えたからねぇ」

「倒した【這いずるモノども】って、強さ的にはどのくらいなんです?」

「あれでも一匹で国を滅ぼせるレベルだよ。正確には強いというより、しぶとい、というべきだね。始末できなけりゃ、被害は広がる一方だろ?」


 あぁ、なるほど。


「準然たる強さとしてみるとどのくらいでしょう?」

「うーん……そこらの騎士隊長レベルかな。いわゆる手練れって云われるレベル。憑りついた個体によって、多少強さは変わるけどね」

「わぉ」


 私はふたつめのたこ焼きを口に放り込んだ。


「こっちの神様はなにをしているんですかねぇ」

「なにもしていないよ」

「は?」


 私を目を瞬いた。そして3個目を口に放り込んだ。


「あの馬鹿は勇者を召喚したからもう安心とばかりに放置しているよ。つか、どこに遊びに行ったんだか、この世界にすらいやしない。どうしようもない馬鹿だ。ついでに僕のことも散々侮っているしね」


 えぇ……。


「ヤツの前任者は僕が殺したっていうのに、それすらも知らないとか。まったく、新参のぺーぺーなんだから情報は集めろっていうんだよ。普通、僕が来たら他所の神は恐れ戦くんだよ。これでも数十億の神をぶち殺したからね」


 なにやってんですか神様。


「なんでそんなことをスルことにしたんです?」

「地球を亡ぼそうなんていう喧嘩を売られたから。ただの報復だよ。

 それはもう済んだことだからどうでもいいとしてだ。ヤツからは今回の召喚の貸しを回収しよう思っていたけど、面倒だから始末して全て奪うか。どうせ後釜なんていくらでもいるんだし」


 神様、物騒です。そしてこの世界の女神、ご愁傷様。


「いっそ、君が女神をぶち殺すかい? 多分できるよ」

「いやいやいや。さすがに神殺しは嫌ですよ」

「……っち、せっかく遊び仲間(相棒)が増えると思ったのに」


 遊び仲間ってなんですか? ひと狩り行こうぜ! ってノリで神様を殺してまわるのとかさすがに嫌ですよ。私が勝てるヴィジョンが見えませんもん。


「ま、いいさ。きっと数年もすれば恨みタラタラになって、進んで女神をぶっ殺しにいくことになるだろうし」

「……洗脳とかやめてくださいね」

「しないよ。そんなことをしたら面白くなくなっちまう」


 神様は大仰に肩をすくめて見せた。


「それで、この後はどうするんだい?」

「あのメイドは始末した方が良いですよね?」

「別に放っておいてもいいんじゃないか? まぁ、放っておいたら、犠牲者は増えるだろうけど」

「犠牲者?」

「【這いずるモノども】は基本的に弱いんだよ。対処の仕方さえ知っていればね。スライムの親分みたいなもので、知性もないからね。人に憑りついて、喰らうことで知性を得るんだよ。

 人畜無害な善人を喰らえば、それこそ聖人みたいになるけれど、そんな人間なんてイレギュラーもいいところだろう?」


 うわぁ……。


「もしかして、物欲の権化とかになります?」

「物欲どころか、支配欲、権力欲、色欲、食欲と、人の欲望に忠実な化け物になるよ」


 面倒くさっ!


「ってことはあのメイドは……」

「あれは例外かな。指令を受けているから。多分、お嬢様のお家、公爵家を乗っ取る気なんだろう。アレも権力欲と支配欲にふりまわされているっぽいし。あぁ、そうそう、アレはこっちに来てる知性を持った上位個体、天使級の1体だよ。分かりやすくいうと、妙に強い中ボスみたいなもの」


 ……。


「強さはいかほどでしょう?」

「古式ゆかしいRPGの魔王くらいかなぁ」

「逃げたいんですけど」

「でも目を付けられてるからねぇ」


 私は頭を抱えた。


「ま、君は自分が思っているよりも強いから、自分の力を信じな。あれより強い8体いるボスにも勝てるって。ま、それの相手は勇者たちの仕事だけど」


 軽くいう神様の言葉を聞きながら、私はたこ焼きを口に放り込んだ。いつの間にやらもう10個目だった。



★ ☆ ★



《Transform Lindalin》

《become Adventurer》

《mode Common》


 まずは別人に化ける。


 実はこの仮面、変身によっては消えるんだよね。


 いまはありふれた冒険者に化けている。ブルネットに茶目、そばかすの目立つ小娘だ。偽名はリンダリン(通称リンダ)。装備は革鎧に短剣と短刀。そして革の小盾。よくいる軽戦士、或いは斥候という出で立ちだ。あ、ガンベルトとレッグホルダーは変身しても変わらない標準装備だ。


 誰もいなくなった森を抜け、街道に出る。


 公国に向かう方向とは正反対の方向へと進む。


 あ、公国側から歩いていくと、怪しまれそうだな。町が見えたら迂回して反対側から入るとしよう。時間的に難しかったら、町に入るのは明日だな。


 町を大幅に迂回して、反対側にまで回ったところで陽が傾き始めた。


 うん。やっぱり徒歩だと時間がかかるなー。


 街道から離れ、野っ原の適当な場所で野営をする。


 翌朝、早くからテントやらなんやらを片付け、そしてもちろん魔物他避けに設置した地雷仕様の【閃光の衝撃】を除去する。


 さて、町へと入ろうか。






 ……うん。これはどういうことなのかな?


 只今私は、留置所(拘置所? 違いが分からん)にいる。町の入り口で審査を受けるまでもなく取り囲まれて取っ捕まった。いや、本当にどういうことだよ。


 さすがに公僕相手に立ち回るわけにはいかないから、大人しく捕まったけどさ、留置所に放り込まれて放置はないと思うんだ。


 ってことで、騒ぎまくったところ、真面目そうな兵士さんが理由を教えてくれたよ。


 ひとりでやって来たからだそうだ。


 ……はぁ!?


 さらに詳しく聞いた。


 なんでも、盗賊団がのさばっているらしく、一人旅の者は確実に襲われるのだそうだ。というか、ここ数年、一人旅の者が来た試しがないそうだ。


 故に、ひとりでやってきた私は“異常である”ということ。加えて“盗賊団の一味”と邪推されて捕まったわけだ。


 酷すぎないかな?


 つーかさ、その盗賊団を始末しろよ。数年も放置とか、ここの領主はなにやってんだよ。


 まぁ、しばらくしたら誤解も解けるだろう。


 そう思っていたんだ。


 深夜。留置所の扉が急に開けられた。


 灯りを手に入って来たのは、下卑た笑みを浮かべた兵士数名。


 あぁ、そういうことね。一人旅の女なら、消えたところで騒ぎにならないもんね。やれやれ、腐ってんなぁ。


 まぁ、丁度いいから、利用して逃げるとしよう。



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