004_彼女の事情
説明回その1。
前回との時系列のつながりはありません。
私は異世界転移者だ。
フィクションでしか聞かないような事態に陥り、神様と邂逅することになるなんて思ってもいなかった。
そう。例え厨二病真っ盛りな年齢であるとしてもね。
それは7年ほど前の事。
受験を控え、すこしの間も惜しんで勉強していたあの時。予備校の帰り、駅のホームで電車を待つ間、私は単語帳を睨んでいた。
立つ場所は決まってホームの真ん中。以前、黄色い点字ブロックの側に立っていた時、走ってきたおばさんに突き飛ばされ、危うくホームに侵入してきた電車に飛び込みそうになるなんてことが遭って以来、ホームは真ん中に立つモノと私は思っている。
ちなみに、私は乗るはずだったその電車には乗らず、私をついうっかりで殺そうとしたあのおばさんを追いかけ、階段をほぼ降り切っていたその背中に向けドロップキックをかましてとっ捕まえ、容赦なく殴り飛ばし色々と騒ぎになった。
そんな暴挙をしてもお咎めなしであったのは、運が良かったといえるだろう。
まったくもって防犯カメラには感謝である。
その後もねん挫した右足首と骨折した右手小指のことでゴタゴタしたが、それは別の話。話を元に戻そう。
私の前には女子高生がふたり、私同様電車を待っていた。着ている制服は灰色のブレザー。このあたりではそのカラーの制服は一校のみ。語学に力をいれている名門校だ。尚、私の目指している高校ではない。
よく見ると、ふたりは手を繋いでいた。それもいわゆる恋人つなぎというやつだ。
同級生でも、仲の良い子たちは良く手を繋いでいるけれど、恋人つなぎをする子はいなかったな。
なんてことを思っていたら、そのふたりはホームに侵入してきた電車に飛び込んだ。
あまりのことに驚き、嫌な音が聞こえ動転していると急に世界が真っ白になった。
呆然自失となって立ち尽くすなんて、あの時が初めての経験だった。
目をパチクリとさせていると、頭を抱えてうずくまる少年が目の前にいた。男の子というには憚られるも、私よりは年少にみえる少年。
11、2歳くらいだろうか。
ぶつぶつ云っているのが聞こえる。
「……でなんだよ。7000年も掛かってようやく終わらせたってのにまたかよ。ふざけんなよ。せっかくチャチャと遊ぼうと思ってたのに。しかも凄ぇ厄介なことになってんじゃねーかよ」
なんだかご立腹な模様。
どうしたものかと思っていると、急に少年はすっくと立ち上がって私に指を突き付けた。
「状況を説明する! 君は異世界召喚に不運にも引きずり込まれた。現状、一時的にこの場に引き留めているが、すくなくとも一度は召喚先に行かなくてはならない」
少年はそう云うと、事細かに状況の詳細を説明してくれた。
あ、少年は神様らしい。
さて、状況。
異世界召喚が行われた。対象は、目の間で電車に飛び込んだふたり。
そもそも異世界召喚というのは、基本的に死亡者に対し行われるのだそうだ。要は、必要なモノは【魂】だけであるのだそうな。
その魂を新たな生として転生させる、或いは、その世界に適合した肉体を作り、異世界転移という体にするとのこと。
なんでそうなっているのかというと、そのまま転移させると大変なことになるからだそうだ。
そう、身体の内外に付着している細菌やウィルスが世界を崩壊させ兼ねないため、防疫のためにそう決められているとのこと。
で、私はと云うと、召喚の際の術式(ふたりの魂に投げられた投げ縄のようなもの)が、運悪く私に引っ掛かって絡まってしまったために、異世界転移することになってしまったのだそうだ。
召喚時の駅の防犯カメラ映像を見せてもらえたけれど、ふたりが電車に飛び込んだ直後、私の姿が忽然と消えるのが映っていた。
「日本じゃ君が消えたことで大騒ぎだよ」
「……でしょうね」
「オカルト掲示板とかだと、君がふたりを自殺させたことになってるよ」
「えぇ……」
いやもう、驚き過ぎて却って冷静だよ。表面的には。中身はパニックを起こし過ぎて思考停止のまんまだよ。
とにかく、一度は異世界には行かなくてはならなくなった為、異世界に適合した身体をもらうことになった。
「元の体は保管しておくから安心してね。ちゃんとサルベージするから。でもって、君が消えた直後に戻すから。つか、地球上の時間をその時点まで巻き戻すから」
「悪戯しないでくださいね」
「しないよっ!!」
という、神様からの安心のお言葉をいただき、なんか、定番の能力云々の話になった。
「君はイレギュラーだからさ、向こうの神からの恩恵がないんだよね。うん。あとで殴り倒しておこう。
で、代わりに僕がなにかしら与えるよ。折角だししばらく異世界を満喫するといい。
あ、言語の問題とか、生命倫理の問題とかは大丈夫だから。向こうに合わせておくからね」
「なんだか物騒な単語が聞こえたんですけど。生命倫理って……」
「……あっちは命の価値がまさに路傍の石と似たようなものだからね」
どうやら私は大変な場所に行くことになるようだ。
さて、能力とやらをもらっても、私としては問題しかないような気がした。いずれは地球に戻るのだ。大層な能力をもらったりすると、害悪にしかならないんじゃないだろうか?
色々考えた結果、チート能力ではなく、チートアイテムをお願いすることにした。
そしてあれこれ神様と話した結果、某特撮の変身ベルトならぬ、変身仮面をもらうこととなった。
話は変わるが、私は【天然改造人間】などという渾名で呼ばれたりしている。理由は見た目からだ。
海を隔てた隣国は整形大国などと呼ばれているのを知っているだろうか? ミスコンで最終選考に残った女性たちが、全員が全員同じ顔、なんてことで有名になったくらいに。
そう。私、その系統の顔なんだよ。もちろん美容整形手術なんて受けていない。故についた渾名が【天然改造人間】。
で、目が大きめなこともあってか、某特撮の光の巨人に例えられることもしばしば。いや、私、つり目じゃないんだが。
ただ、私はそれまで特撮モノには興味がなかったため、大雑把に知ってはいるものの、よくはわからなかった。とはいえ、そう呼ばれると見てみようという気持にもなる。
で、見てみた結果、ドハマりした私。当然、他の特撮モノにも手を出した。意外にホラーじみたサスペンスチックな感じが私の好みにヒットしたのかもしれない。
とはいえオタクレベルでハマった訳ではない。せいぜいがフリークス程度だ。
これらのことから変身アイテムが頭に浮かび、私はそれを望んだのだ。
そう望んだところ、神様もその特撮物に興味を持ち視聴、見事にハマった。
あとはもう、ふたりであれやこれやと設定を考えて、悪ノリしつつ変身アイテムを作ることに。
結果、私専用の呪いのアイテムができあがった。
「なんで呪いのアイテム……」
「例え盗まれたり紛失したりしても、戻ってくるようにだよ」
「それが呪いなんですか?」
「仮面でなく人形だったら?」
あぁ、確かに呪いだわ。人形だったらメリーさん誕生だ。
さて、もらった私専用の呪いの仮面、もとい変身仮面。見た目はなんともいえない代物だ。
仮面と云うか、目と鼻あたりを覆うバイザーみたいな感じだ。そしてそのバイザー部分は網目だ。フェンシングの面の部分みたいな感じといえば分かるだろうか。
で、ここに変身する内容を記憶させた結晶を当てることで、変身する。
そう、変身する姿を任意で変えられる。それこそ想像次第で無限大だ。
ちなみにこの結晶はすぐに作れる。もっとも、作る際には集中しないといけないから、基本的には予め作っておいて、ガンベルトのホルダーに詰めてある。
「それじゃ、それを扱い熟せるように訓練しようか。戦闘面でもいろいろとやらないといけないしね」
「え?」
「いや、能力じゃないからさ、感覚でどーのってわけにもいかないんだよ。自転車だって練習しなけりゃ上手く乗れるようにはならないだろう? そういうことだよ。
ついでに、変身中はスタイリッシュに戦いたいだろう?」
と、ニヤリとした神様に云われ、私は訓練に明け暮れることになった。……5年ほど。
そうして召喚より大分間を置いて私は異世界に降り立った。
それから1年ちょっと。やっとこさこの世界に慣れた。生命倫理をいじられているとはいえ、初めて人型のモンスターを殺した時は呵責に苛まれたし、殺人の時はちょっと寝込んだけど。
いやはや、慣れって凄いね。いまじゃ鼻歌交じりで人を殺せるし。現代日本だったら、私は普通に危険人物だ。
さて、私は15年限定でこの世界にいることになった。5年準備で費やしたから実質残り10年。それからすでに1年以上経過しているから、あと9年……いや、8年ちょっとくらいだ。
15年っていうのは、あの自殺したふたりが転生して、成人するまでの間ってことだ(この世界は15歳で成人)。なんでも今はどこぞで勇者&聖女(6歳児)認定を受けているらしい。
ふたりが成人するまでの15年間を私たちが活動し【這いずるモノども】を抑えることで、こっちの神様により多くの貸しをつくるのだと、神様が怪気炎をあげているわけだ。
「取り立てが楽しみだねぇ。僕より下っ端の神であることを呪うことだね、僕は容赦しないよ。とはいえ、やっかいなアレ等を始末してやるんだから、泣いて感謝して、快くこっちが要求するモノを差し出して欲しいものだね」
神様は悪魔である。いったいそんな悪い顔をして、なにを要求するつもりなのか。
「君も願い事を考えておきなよ。いっしょに請求するから」
神様が悪い笑顔を浮かべて云った。
神様は最高である。私もお願いごとをなにかしら考えておこう。うん。自分の努力ではどうにもならないことを。……いくら食べても太らないスキル、とか?
ま、まだ10年近く先の事だ。
のんびりと、厄介なお願いごとを考えるとしよう。
駅で〇されかけたのは実話です(足を痛めて逃げられた)。
「あ~ら、ごめんなさ~い♪」じゃねぇんだよ!
駅では気をつけましょう。