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033_闘獣祭_①


 私は神様と手をつないで大通りを歩いていた。普段なら馬車も通るような道のようだが、今日は……というか、このイベント期間中は馬車の乗り入れを禁じているようだ。


 神様の話によると、南側と北側の大通りを馬車専用としているそうだ。なんでも混雑があまりのも酷い上に事故も多発したため、このように一昨々年(さきおととし)から馬車と歩行者とを分けたとのことだ。


 まぁ、地球のように歩道と車道と分けてないからね。もっともあったとしても、こっちの倫理レベルじゃそんなものなど無視されるだろう。規則が制定された上で、それに違反した場合の罰則が出来ない限り。いや、罰則の度合いによっては、それでも無視されるか。実際、地球じゃ交通事故なんて日常茶飯事だしね。


 さて、私が手をつないでいる神様はと云うと、今日はお子様バージョンではなく、大人バージョンだ。といっても年の程は十代後半くらい。で、私はというと6歳児。外見は変身してアイスリンとなっている。神様同様の金髪碧眼である為かなり目立つが、神様と一緒に行動するとなると外見を合わせなくてはならないからね。


 ケイトもリンダも地味な姿であるから、急造した形だ。


 見てくれ自体は非常に目立つが、服装は地味なものだ。そしてもちろん帽子を目深に被っていることもあって、無駄に衆目を集めることも無い。更には軽くではあるが神様が認識阻害の魔法――いや、神様だから奇跡か――の術を掛けている。


 おかげで私たちは観光にきた親子程度に見られている事だろう。


 向かう先は闘技場。普段はこの領の領兵が訓練場として使っている場所だ。


 確かここは伯爵領だったよね。職業軍人なんてさしていないと思うんだけれど。


 あー、でも、あの町になりそうな村に騎士が1分隊いたなぁ。出来の悪いぺっぽこ騎士が。立地的にお金が勝手に入ってくるような場所だし、領軍と呼べるようなものを持っているのかな?


 つか、あそこ、あれだけ発展しててまだ村扱いだったんだよなぁ。町に格上げしないのはなんでだろ? ……税金逃れ? いや、さすがにそれはないか。お国に知れたら大変なことになるもの。まぁ、この国の税制度がどんなのかは知らないけど。

 テクテクとそれなりに混雑した道を進み、やっと闘技場前の広場へと辿り着いた。


 闘技場はまだ開場していないらしく、広場はひとでごった返している。


 いまこそ稼ぎ時、という感じなのであろうか、屋台もたくさん出店してしているようだ。


「開場までもう少し掛かるかな?」

「なんで閉めてるんでしょうね?」

「お貴族様を優先して入れているからじゃない? 保安上の問題とかそういうのでしょ」


 あぁ、なるほど。うっかり貴族席の方へとか迷う者もいるかもしれないしね。予め貴族を先にいれて通路を閉鎖しておけば、そんな事故もおこらないだろう。


「せっかくだしなにか食べるかい?」

「魔獣肉の料理があるなら食べます」

「……キミ、やたらと魔獣肉にこだわるよね」

「寄生虫は嫌ですからね」


 火が通っていれば問題ないんだろうけどね。時たま生焼け肉の串焼きなんてものもあることを考えると、寄生虫が絶対的にいない魔獣肉の方が安心安全だ。


「正直な話さ、僕は呆れたんだよね」

「なにがです?」

「キミが初めて魔獣を討伐した時のことだよ。すっごい興奮して、血まみれのまま帰って来たじゃない」

「あー……。あの時は失礼しました。ちゃんと血を洗い流してから帰るべきでしたね」


 そう答えると、神様はなにか哀れむような目で私を見下ろした。


「違うよ。そうじゃないよ」

「でも畳を汚しちゃったじゃないですか?」


 首を傾ぐ。神様は顔に手を当て天を仰ぐ。


「キミ、あの時に開口一番なんて云ったか覚えているかい?」


 神様の問いに、私は眉根を寄せて考えた。


 あれ? なんて云ったっけ?


「今夜は生姜焼きをしましょう! ……ぅ?」


 神様の視線が途端に哀れむようなものに変わった。


「違うよ。『神様、凄いです、魔獣には寄生虫が一匹もいません!』だよ。半ば両断したゴーゴンを魔法で持ち上げてはしゃいでたんだよ。ぼたぼた垂れる血を浴びたまんま」


 あー。そういややったなぁ、アレ。でも寄生虫がいないんだもん。はしゃぐに決まってるじゃない。地球にいた時、市販の豚肉にいる寄生虫云々の動画を見てショックだったんだもん。なんか、アレ、フェイクだったらしいけど本当かどうかもわかんなかったし。


 それを考えたら、絶対的に寄生虫が存在しえない魔獣肉はまさに理想のお肉!


「寄生虫のいない魔獣のお肉、最高ですよね!」


 私は云った。


「僕はなにを間違えたんだろう?」


 買って来た串肉を私に渡し、神様は嘆いた。


「先生! 見つけました!!」


 そして聞き覚えのあるような声が響いた。


 え、誰?


 振り向いた先に見えるのは、見覚えのあるメイドさん。


 私は目を目をパチクリとさせつつ考える。


 よし、面倒事だ。まっぴら御免だ。ごまかそう!


「う? お姉ちゃん、誰?」


 すぐ背後から噴き出すような音が聞こえた。


 神様、笑わないでくださいよ!


「え、人違いですか!? いえ、その特徴的なベルトをしている方など他にいるはずもありません。では……あぁっ! 私をお忘れに!? そんな!! あの時、公爵閣下があんな酷いことをなされたばっかりに!!」


 なんだか胸元で手を組んで、祈るような仕草をし始めた。


 というか、またベルトでバレたのか。でもこれを外すなんて、仮面といっしょで考えられないし。


 あぁ、困ったなぁ。なんか目立ち始めちゃったんだけど。


「あ」


 珍しく神様が声を上げた。


「あー……。ごめん。誤魔化すの無理だ。僕が原因でバレたね」


 はい?


 神様を見上げ、そして再度メイドさんの方に目を向けると、メイドさんの背後に壮年の男性。


 パリッとした制服姿のいかにも執事な男性。それも執事の代名詞たるセバスチャン的な感じではなく、「パーフェクトだ。ウォ――」なほうの執事さんだ。


 その素敵を具現化したような執事のおじ様が、これまた美しい一礼を神様にする。


 ……神様、なにやらかしたんです?


「彼、僕の眷属的な者だよ。この星の者では3人作ったからね。そのひとりだ」

「え、そんなことしてたんですか?」

「そうしないと【支配】の手が広がりすぎちゃうんだよ。あのクズふたりの庇護者も必要だったしさ」

「あ。そういえば、保護してる方のひとりが変わられちゃったんでしたっけね」

「そ。ほっとくと取り込まれるからね。拒絶できるように加護をあげたんだよ。もっとも、僕の眼鏡に叶うだけの人物であったからだけどね」

「あー……」


 なんだか私は納得した。


「あのふたりには酷い評価しかしてませんもんね。私もそうですけど。……思うんですけど、私も相当に酷い人間だと自覚してるんですが、いいんですか?」

「問題ないよ。君は茶々同様僕のお気に入りだ。いいかい。劇薬と云うものは必要なものなんだよ。普通の薬では手遅れになると分かっている時には特にね。それに君は、放っておけば勝手に荒療治という善行をするからね」


 私は劇薬扱いですか。まぁ、やってることが苛烈なのは自覚していますけど。


「さて、それじゃ一緒に行こうじゃないか。どこに行くのかな? シュタインベッツ」


 神様が尊大に云う。そしてメイド……本当、名前なんだったっけな? メイドさんは事態を飲み込め切れず、神様と執事さんをきょろきょろと見る有様。


 そして私はと云うと――


「やれやれ、この姿でお嬢様と会うことになるとは……。あ、そうだ、神様」

「なんだい?」

「私がこの有様になった理由って、語ることになると思うんですけどどうしましょ? 適当に話をでっち上げます?」


 そういうと神様は苦笑した。


「正直に話しな。きっとその方が面白いよ」


 うわ、最悪だ。国の上層だけで秘匿されるだろうけど、それって――


「パニックを引き起こしますよ。絶対」


 私がそういうも、神様は肩を竦めるだけだ。


 まぁ、そんなものか。神様の担当世界じゃないしね。


 その様子に私も諦めたように肩を竦めると、手にある串肉を思い出したかのようにかぶりついた。



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