022_鬱憤晴らしと劣化魔弾
一応第2話(第二章)の一本目。
主人公は相変わらず苛烈(短気)です。
続きは2話最終が書き上がるまでお待ちください。
前方に見えるは馬車2台。1台は横転し、もう1台は街道から脱輪している。馬は逃げたのか見当たらなく、御者と思しき者は倒れている。ピクリともしないところをみると、死んでいると思われる。
周囲に集まっているのは、軽装の男達。護衛というにしては、あまりにも装備がチグハグにみえる。
人数は……全部で30人くらいかな?
うーん……これは異世界転生もののテンプレなやつかな。
襲われている貴族のお嬢様的な。
でも戦ってるどっちも革鎧主体で、賊っぽいんだけどなぁ。護衛はどっちよ。
見えることからそんな事を適当に推測する。でもまぁ、普通なら商人の馬車とかだよなぁ……って、荷馬車らしくないな。っつか幌馬車じゃなくて箱馬車じゃん。
あれ? マジで貴族の馬車? 騎士っぽいのがいないんだけど?
視線は正面を見据えたままで、馬車周囲を見回す。なんだか身なりの良さそうなガチムチな中年が転がってる。
あー、死んでんねー。いかにも護衛でございな連中が。毒でやられたかな? サーコートっぽいものの下に鎖帷子とか着てなかったなんてさすがにないだろうし。
派手に斬り合いをしている中へ、テクテクと無造作に突入する。
連中はいま相手にしている奴に夢中で、私には斬りかかってくる様子はない。まぁ、そりゃそうか。目の前のを無視して私を斬ろうなんてしたら、自分が斬り殺されるからね。
それにしても双方よくもまぁ、ここまでチャンチャンバラバラやってんなぁ。普通ならどっちかが斬られて戦闘不能にされてるだろうに。
ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていたら、どういうわけだかその戦闘地帯を普通に通り抜けた。
おーびっくりだ。なんだこりゃ。運がいいどころじゃないな。
うまい具合に抜けられたし、気分でもないし、このまま知らぬ存ぜぬで――。
右にひょいと退けた。
私がいま立っていたところに、剣が振り下ろされた。
ショットガンをアイテムボックスから引きずり出し、振り向きざま、私を殺そうとしたこいつに向ける。
銃口はやや下向き。その先は――
銃声が響きわたる。
右膝が消し飛んだ……というか、なんかゲームみたいに血煙になった。あれって、ある種の規制みたいなものだろう? グロさ軽減みたいな。絶体にリアルじゃないと思うのに、今撃ったら血煙になった。
……えーっと、神様!?
私に剣を振り下ろして来た奴は転倒し、自身の右足の有様を見て、目をパチパチとさせたあとに驚いたように目を見開き泣き叫んだ。
はぁ……。
私はため息をひとつ。
「おい。薬、持ってるんだろう? 早く飲むなりぶっかけるなりしないと、血が出すぎて死ぬぞ」
先の失くなった右足を掴み喚いている男に云った。この愚か者は慌てて薬を取り出し煽る。
ふむ。一応、必須装備は持っていそうだね。だったら、気兼ねなくやっちまっていいよなぁ。
歯を剥く。
「なぁ、お前、私を殺そうとしたな?」
男の顎を蹴り飛ばして意識を奪いながらぐるりと振り返り、馬車の周りにいる連中を睨みつける。連中は殺し合っていたというのに、ショットガンの轟音一発で手を止めこっちを見ていた。
「どっちだ?」
連中に問う。こいつはどっちの仲間かと。もちろん、答えなんて帰ってこない。
代わりに、神様が教えてくれた。
「なんだ。どっちも賊か。獲物の取り合いとは浅ましい。それじゃ、私が全部いただいてもいいよな」
これ以上にないほどに目を見開き、獣のような笑みを浮かべて見せる。
Let's Play!
右の5番目。青灰色の結晶を弾く。
「変身」
《Change Sparrowhawk》
《become Assault Gunner》
《mode Freikugel》
いつも通りに姿が変わる。
でも、今回ばかりはちょっと違う。
あぁ、悪い癖だなぁ。それなりにいい気分でいたところをぶち壊されたもんだからさ、ちょっとばかりキレちゃったんだよ。
だから、この世界の時代になんてあわせてあげない。
これまでは基本的にあわせたけれど、あわせてやらない。
先日のガンマンモードは、演出の為に、銃撃音とお嬢様を余裕をもって助けるためにやったけれど、今回はただの私の腹癒せの為だけにやらせてもらうよ。
運が悪かったねぇ、ゴミクズ共。ひひひ。
今回の恰好は、現代の武装警察のような恰好。アメリカのSWATみたいなの。日本だとSATだっけ?
背中には『Herja』と白抜きされてる。基本細かなデザインは神様なんだけれど、これの意味がわかんないんだよね。
神様はニヤニヤして、その恰好での戦闘にはピッタリなことだよとかいうし。
さて、それじゃ殲滅といこうか。
ホルスターからオートマティック拳銃を抜く。知っている人からみたら、かなりおかしな感じにみえるだろう。
グリップからはみ出した弾倉。それはクリップでもうひとつ留められ、L字になっている。だから横からみれば、全体的なシルエットはZの斜線部を真っすぐにしたような形状に見えるだろう。
あ、つかってるオートマティックは何だかは知らない。神様がなにかしらのフィクション作品の銃をモデルに作ったらしい。反動の割に威力がおかしい。
BANG! BANG! BANG!
無造作に進みながら狙いも適当に両手の銃を乱射していく。敵は近接武器のみ。
あぁ、これじゃあ、完全に弱いもの虐めだなぁ。
膝を撃ち抜く。
でも君ら私を殺そうとしたよねぇ。
親指が千切れ飛ぶ。
私、ただ通りがかっただけなのにさぁ。
手首が半ば千切れる。
でも安心しなぁ。
絶対に死なないから。
この銃の弾丸、劣化魔弾だからさぁ、致命傷を与えることは絶対に出来ないんだよねぇ。
まぁ、本物の魔弾だったら、7発目が問答無用で私を殺すから使わないんだけどさ。
仮面による変身で引き起こされる全般の付与。能力やら限定での魔法やらは、私の偏見だのなんだのが多少なりとも反映される。
要は、私が“こういうものだ”と思っている“概念”が顕れる。たとえそれが伝承だの神話だのであっても。それに加え、私の意思も。
故にモードが“Freikugel”であっても、私の意思で弱体化され劣化魔弾となり、百発百中なるも致命とは絶対ならなくなった。その替わり、幾らでも安全に撃てるという、ある意味扱いやすい酷いものに化けた。
だからこの弾丸、どんなに明後日の方向に撃っても必ず当たる。それが射程距離内であればね。
しっかりとした姿勢で小走りに馬車の周囲を回る。
ほほぅ、それなりに状況把握のできるヤツがいるね。あぁ、【魔法の矢】とかあるからか。対処法は知っているんだ。
でも残念。うまい具合に馬車を盾にしているみたいだけれど、私の弾丸からは逃げられない。
我が眼前に敵ある限り、我が弾丸、決して逃すこと無し。ってね。
馬車の端を掠めるように銃撃。弾丸は絶対に有り得ない軌道を描いて目標を撃ち抜く。
どこに当たったのか知らないが、その弾丸で死にはしないよ。それはそう云う弾丸だ。だから存分に痛みを楽しめ。
そうこうして、一弾倉分を撃ち切る。
……っち、諦めが悪ぃな。手足が一生使い物にならなくなったくらいじゃ諦めないとかおかしいだろ。
くるりと銃を回し、弾倉部を脇に挟む。銃から弾倉を抜き、脇から正面に飛び出してる弾倉を装填する。
横からみたシルエットが今度はコの字を描く。
こうなったら残りの弾丸も全て撃ち込んでやるよ。よかったな。痛みが増えるぞ。
そして私は足を止め、容赦なく銃撃を始める。
鷹は目がいいんだ。どこに隠れようと無駄だよ。
ひとしきりあっちこっちへと銃を向け乱射する。
そこかしこから悲鳴と呻き声があがる。確か、30人くらいいたか? ってことは、ひとりあたり4発だ。
なに、運が悪くなければ死なないよ。出血を止めるくらい、魔法のお薬があれば簡単だろう? 砕けた膝や千切れた手首や指は元に戻らなくてもさ。
弾丸を撃ち尽くし、弾倉を落とす。もちろん、地面に落ちる前にアイテムボックスへと回収する。
二丁拳銃は撃ち尽くしたあとの弾倉交換が面倒だよねぇ。
【鷹の目】で敵集団が完全に無力化されたことを確認し、私は順繰りに銃に新しい弾倉を突っ込み、一挺はホルスターに収める。今入れた弾倉は、ちゃんと銃のグリップに収まる弾倉だ。
さてと、リーダーらしきヤツは、あの横転した馬車の前輪あたりに転がってたよな。
銃を持った左手をブラブラとさせながら、そいつの元へと向かう。
お、元気だ元気だ。両膝を砕かれて、右腕は親指脱落、左腕は手首がとれかけのまま治っている。
この世界の錬金術師は凄いね。でも腕をまるごと作り出したり、折れた足をしっかりと元に戻して治すなんてことはできないから、魔法の薬と云っても理不尽な感じはしないね。だって、傷を無理矢理治すだけなんだから。
解放骨折なんて、しっかりと折れた骨を元通りに継いでから飲まないと、きちんと正しく元通りにならないからね。
ザッ!
私はズリズリと地面を尻で擦りながら逃げようとするそいつの前に立った。なんだか化け物を見るようなめ目を私に向けて来るけれど、そんな化け物に喧嘩を売ったの君たちだ。それを買ってやったんだから喜びなよ。
支払代金の弾丸は、代金以上にくれてやったろ?
じゅ。
銃口を無様な男の額に押し付ける。熱を持った銃口が、男の冷汗に触れ音を立てた。
「ねぇ、あんたらなにさ」
私は問う。
……失禁することはないんじゃないかなぁ。臭いし汚い。
「小便なんか求めてないんだよ。とっとと質問に答えろ」
銃を空に向け撃つ。背後で悲鳴と転倒する音。
死角に隠れていても撃ち抜かれたんだ。背後から忍び寄ったところで無駄と思わないのかね。……あぁ、盗賊だしな。そんな頭はないか。
「ほれ、答えろ」
歯を剥くような笑みを見せると、そいつはガタガタと震え、引き攣ったような笑い声を上げた。
尋問を終え、盗賊団のアジトについても聞き出せた。つか、ご近所さんで盗賊団がアジトを作るんじゃないよ。なにやってんだ。だから獲物の取り合いになるんだよ。
さてと、ここまでやったんじゃ、面倒事にしかならないな。暗殺者なんて苛々の種にしかならないし、潰しにいくとするか。
まったく、海に向かってたハズなのに、とんだ寄り道だ。
私は立ち上がると、横転した馬車をノックするように叩いた。
「馬車の中の人ー。賊は全部片付けたから、あとは自分たちでなんとかしなー」
私はそれだけを云う。馬車の中からガタッとした音が聞こえた。護衛とかいないけど、まぁ、どうにかすんだろ。お偉いさんなら側近なり侍女なりいるだろうし、そういうのは戦闘訓練も受けている者だ。
よし、それじゃ、こいつらの根城へいってみようか。多分、神様に聞けば、詳しい位置を教えてもらえるだろう。
そんなことを考えながら私は街道をはずれ。右一面に広がる森に向かって草原を進み始めた。
一応、魔法で姿を消しておこう。追いかけられても困るし。……少し急ぐか。
案の定、森へと足を踏み入れた時、背後から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
※『Herja』ヘリヤ。ワルキューレのひとりの名。その意は“壊滅させるもの”。




