013_うーさぎウサギ、首見て刎ねる♪
「通りすがりの【仮面の魔術師】だ。
あぁ、覚えておく必要はないぞ。お前たちはここで終わる」
銃口を連中に向けつつ、二本指を立てた右手でクイッとテンガロンハットの鍔をあげ、私はニヤリと笑った。
「お前……なぜ生きている!? 殺したハズだ!!」
露わになったケイトリンのソバカス顔に、マウラが声を上げた。
「そんなこと知ってどうするんだ?」
そういって私は銃をホルスターに収め、レッグホルダーから“結晶”をひとつ抜き取る。
物騒すぎるが故に別枠としたピンク色の石を。
さて、ここまで格好つけたんだから。派手にやるとしようか。
そう、派手に。となれば“蹂躙”っていうのが一番合うよね。
「変身」
そのピンク色の石を額に当て、唱える。
《Change Rabbit the Vorpal》
《become Berserker》
《mode Acceleration》
うわ、うるさっ!?
なんかどこぞの格闘技の試合のリングコールみたいなんだけど!?
って、もしかしてボス戦だからか? いや、神様、力の入れどころが違う!
かくして私は変身する。
ウサギ仮面の金髪ゴスロリ少女の姿に。
裾や袖がボロボロとなった深紅のドレスにうさ耳。仮面は白ウサギを模し、その目は血のように赤い。
かくんと首を傾いだウサギ面に銀の懐中時計を首から下げたゴスロリ少女。その手にする武器は大振りの歯毀れの酷い出刃包丁と月鎌。
ハハハ。まるでホラー仕様の“アリス”だ。
カチッ!
懐中時計が時を刻み始める。
おい、貴様、そうやって馬鹿にしたように厭らしく笑っていられるのもいまの内だけだ。
【首刈兎】。
コイツがどれだけイカれているか、知っている者は戦くハズだ。
対峙した者はそれこそ理不尽に、理不尽に、理不尽に、ただタダ只唯“首”を刈られて殺されるのだから。
ユラリ。
一歩目はゆっくりと。
フラリ。
二歩目は力強く。
フッ……――
三歩目は。
奴の後ろに控えていた魔術師共の首を月鎌でまとめて刈る。
誰もが目を見開く。
すぐ隣、反対側の魔術師共の首を出刃包丁で次々と落とし跳ぶ。
右にいた騎士たちの首を刎ねる。
左にいた弩弓持ち連中の首を斬る。
お前らの目になど留まってやらない。
気付く間もなく死ぬがいい。
我が斬撃は【Vorpal】。造語故に正式な意味はない。
創りあげた者も“説明できない”とした言葉。
だが、この言葉はそれを物語で知った後の者たちによってある意味を付けられた。
それはこの言葉のもつ概念をいくつか確定させた。
即ち【鋭利】にして【致命】。
ハハハ。神のエンチャントだ。
如何に【這いずるモノども】であろうとも、“死”ぬことができるよ。
たちまちの内に減って行く軍勢。
「ヒャハハハハハハハハハハハッ!」
狂ったように私が哄笑する。
これも仮面の効果だ。変身したモノの影響をモロに受ける。
【狂戦士】は有象無象の多勢には滅法強いけど、私も狂気に侵され毀れるのが大問題だ。さすがにそろそろ解かないとヤバいかもしれない。
懐中時計はまだ時を刻んでる。私が完全にイカレルまでまだ時間はある。
残りはたかだか十数名。ハハッ! ここで頑張らなきゃ女が廃るってね!!
奴は左を見ている。そこに私はいないよ。
慌てて振り返る。だから、そこにはいないって。
顔をひきつらせ、下をみる。正解。
出刃包丁を振り上げる。
躱された。
マウラは仰け反るようにバックステップを踏む。
逃がさない。
右足を軸にローリングしつつ追うように跳び、逆手に持った左手の月鎌をヤツの首に掛ける。
殺った!
ずりゅん。
首を刈った。刈れたはずが、月鎌の刃はマウラの首をすり抜けた。
チッ、斬撃無効化――
ごぎゅっ!
嫌な音と衝撃を受け、私は吹き飛ばされた。
ヤツが放った回し蹴りをまとも喰らった。だがこっちだって蹴りをくれてやった。
――が、心肺機能が逝った。
マズい。肋骨どころか胸骨が潰れた。このままだと普通に死ぬ。
緊急時用の結晶を、両手首に嵌めてあるバングル状に形成した特別なそれを使う。
左手首のバングルを額に当てる。
「変身」
《Change Phenix》
《become Flame lord》
《mode Resurrect》
劣勢だと静かなのかよ。いや、死にかけの状態で騒がしくされてもあれだけどさ。
仮面が赤い孔雀に変わる。そして服装が炎を模したような古代日本の巫女衣装のようなものへと変じ。背に翼が生まれる。
危うく心臓まで潰れるところだった。そうなったら“一回休み”になるところだった。あれだけ格好つけておいてデスペナとか、恥さらしもいいとこだ。
蹴り飛ばされゴロゴロと転がりながら、そんなことを考える。
身体は再生した。
そう、文字通り“再生”した。いまの身体は完全な“新品”だ。不死鳥は死して灰となり、その灰よりあらたに生まれ出。
変身と同時に、破壊された身体は消滅し、新たな身体となったのだ。
転がり、跪いた姿勢となったところで回転をとめ、奴を睨む。
奴も脇腹を押さえ跪いていた。
なるほど。斬撃は無効でも、打撃は有効ってことか。
付与は【Vorpal】。私のあらゆる攻撃全てが【致命】だ。それが慌てて入れた気の抜けた蹴りであっても。
もっとも、【不死鳥】のいまはその付与は解けているけれど。
私はのそりと立ち上がった。バッと、背の炎の翼を広げる。辺りを熱気と火の粉を撒き散らす。
正直、不死鳥は戦闘には不向きだ。【炎】を扱うのならこれ以上ないが、威力があり過ぎて周囲への影響が酷すぎるためにまともに使えない。周囲千メートルを跡形もなく灰にするとかなら簡単なんだけどね。
とはいっても、今ここで更に変身するのは、ある意味弱みを見せたことになりそうだ。幸い。斬撃が効かないと分かっての変身と思われてるだろうし。
ちょっとこれで頑張るか。取り巻きは排除したし。あとは天使級のメイドだけだ。
魔法をぶっぱなすのは無しだけれど、能力を武器に通すなら問題ないだろう。
右手を後ろ腰に回し、そこからアイテムボックスにアクセスして凶悪そうなメイスを取り出す。
タングステンのモルゲンステルン。トゲトゲ鉄球メイスって云えばわかるかな。ただ、一般的なモルゲンステルンより、トゲ鉄球部分がひと回りほど大きい。
こいつに熱エンチャをかける。温度的には2000度くらいでいいだろう。熱伝導もアルミと同程度でいい感じだ。【不死鳥】の能力を使ってこいつを熱する。
さすがにこれなら、打撃+炎熱追加だからダメージが入るだろう。
思わず私は歯を剥くような厭らしい笑みを浮かべた。
「やれやれ、まさか斬撃無効とは恐れ入ったよ。さすがは【這いずるモノども】の端くれってことか? それとも“天使モドキ”って云った方がいいか?」
「……欲しいな」
「話す気はないか。ま、無意味か。私は呉れてやらないよ。云ったろ。お前はここで終わる」
ばさりと羽ばたく。
さぁて、一対一となったことだし。ここから仕切り直しだ。
ぶっちゃけると、今回と次回を書きたかっただけなんだ。




