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001_趣味は盗賊退治

またしても勢いだけで新作開始。


一話(一章、18本)のみ。

本日より毎日午前0時投稿となります。

よろしくお願いします。


 背後に忍び寄り、盆の窪を一刺し。


 手にしたスティレットがほぼ抵抗もなく根元まで突き刺さる。


 【Penetrate】の効果を付与してあるとはいえ、スティレットの威力が本当に如何なく発揮されている。


 スティレット。刺突型の短剣。いわゆる【鎧貫(よろいぬ)き】。英語だと【Armor Breaker】なんて呼ばれる種別の武器だ。


 私の愛用の短剣の片割れである。もう一本は普通の……いや、普通のではないな。以前、なんだかよくわからない邪教の教団を殲滅した時に手に入れた儀式用の短剣(クリスナイフ)。波打つ刃の短剣だ。いわゆるフランベルジュと呼ばれる剣の短剣版ともいうべき代物だ。儀式用に使われていたものだから、どんなことに使われていたのかを知ると(おぞ)ましく思われるかもしれないが、私は気にしていない。


 スティレットを引き抜き、音を立てないように始末したゴブリンを横たえる。


 いま私がいるところは、もはや遺跡と呼ばれるほどになった、旧時代、二千年近くも前に築かれた砦だ。石造りのお城にも見える砦。


 位置的には禁忌の地に近い場所にある。かつての公国との国境近く、いわゆる防衛拠点として使われていた遺跡。


 25年ほど前に公国のお偉いさんがやらかした結果、公国全土が禁忌の地となったことで、この砦は放棄された。防衛拠点として意味がなくなった、ということではなく、禁忌の地に近すぎてあまりにも危険だという理由からだ。


 公国との国境は以前のままだが、最終防衛線ともいうべき境界線は、ここより20キロ程後退している。


 そんな捨てられた砦で私がなにをしているのかというと、趣味だ。


 この手の場所っていうのは、大抵、盗賊だのなんだのが巣食って、そこらで悪さをしているんだ。


 そういった連中を皆殺しにしても、誰も文句は云わないし云われない。


 まさに「悪党に人権はない」というのがこの世界の社会常識だ。


 いや、そもそも基本的人権なんてないのか。一応、社会は出来上がっているけれど、感覚的にはアレだ、江戸時代とか室町時代とか、その頃の社会と似たようなものだ。


 あ、誤解のない様に云っておくけど、殺戮が趣味ってわけじゃないよ。趣味はお宝探しね。どちらかというと、はした金探し、ってことになるんだけど。


 この手の場所に巣食っている盗賊団なんかは、小金を溜め込んでいるからね。魔物も、襲った人間、旅人とか隊商とかの荷物だのなんだのを溜め込んでいたりするんだよ。


 持ち主のいないお金は戴いても問題ないからね。


 よっと。これで何匹目だ? なんか多いな。統率してるのがいるなきっと。


 これは厄介そうだなぁ。ゴブリンキングくらいなら問題ないけど、その上とか勘弁だよ。


 ゴブリン種は出世魚みたいなもので、成長に合わせて変化する。……進化するっていったほうがいいのかな? 変わらないのは寿命尽きるまでゴブリンのままらしいからね。


 まず基本のゴブリン。亜種としてホブゴブリン。ホブゴブリンはオーガ並の大柄な体格をした暴れん坊だ。


 そして一次上位種としてゴブリンチーフ。亜種としてレッドキャップとイエローキャップ。こいつらはいわゆる隊長さん。亜種の方は殺戮狂の隊長さん。普通に強い。ホブゴブリン並で、そいつらがゴブリン共統率し、集団戦を仕掛けて来るから、とんでもなく面倒だ。レッドキャップとイエローキャップに関しては、普通のゴブリンじゃなく、同種、つまりレッドキャップのみの集団、イエローキャップのみの集団で襲い掛かって来るから洒落にならない。あ、体格はレッドキャップが普通のゴブリン、イエローキャップがホブゴブリン並だ。ちなみに、レッドキャップのほうが狂暴。


 二次以降は強さがかなりバラバラだ。ゴブリンジェネラル、ゴブリンキング、ゴブリンシャーマン、ゴブリンウォーモンガー。強さだけなら、ウォーモンガーが最強。次点でジェネラル。キングは実はそんなに強くないんだけれど、ゴブリン種を強化するバフ持ちの司令塔だから、いるだけで厄介。シャーマンは魔法使いだから、強さがピンキリ。とはいえ魔法は厄介だから面倒な相手だ。


 この砦の親分はなんだろう? 下っ端のゴブリンが弱っちいから、キングはいないだろうけど。シャーマンかなぁ。でも砦の入り口には存在を誇示するトロフィーというか、トーテムというか、串刺し死体がなかったしなぁ。


 ジェネラルかウォーモンガーあたりが濃厚だなぁ。やだなぁ。狭いところだと本当、あいつら戦いにくいんだよ。無駄に強いから。


 後ろから抱き着くように口元を右手で覆い、左手のクリスナイフを首の脇、第一肋骨と鎖骨の間に突き立てる。

 ナイフ、といいつつも刃渡りは20センチくらいの代物だ。心臓……までは届かなくとも、重要器官を破壊するには十分な長さだ。


 取り押さえていたコイツは暫しもがくも、すぐに静かになった。


 ……あれ?


 今しがた殺したヤツを見る。


 人間だよね。え、なんで人間がいるの?


 ほとんど流れ作業で、始末する相手の事なんて見てなかったから気がつかなかったよ。いや、なんで人間が居るんだよ。


 見るからに盗賊っぽい男。そもそも堂々と歩哨? をしていたのだから、まっとうな者ではないのは確かだろう。


 問題なのは、ゴブリンだらけのこの砦に、普通に居たということだ。


 え、ゴブリンと共闘? ってことは、ゴブリンを人間が従えてるって感じ? どうなってんだここの犯罪者共は?


 とにかく、人を殺してしまった。ゴブリン共は、仲間が殺されたところで原因を追求せんと組織だって動くことはないけれど、人間は別だ。


 あー、面倒臭いな。


 こっからは時間勝負。侵入者がいると騒ぎがはじまるまでに、出来うる限りゴブリンの数を削ってしまおう。人間は……まぁ、遭遇した際に考えるか。






 かなり無茶をしたけれど、ほぼこの砦を制圧。しかも私が殺しまわっていたことも露見しなかったぜ。ふふん、さすが私。


 うん。人間が一個所に固まっていなかったから助かった。とはいえ、急いで砦中を周ったから、お宝探索ができてないよ。ちくせう。


 さて、あとは砦中央部の大部屋を残すのみ。


 というか、いま入り口から覗いているんだけれど、ここは大会議室というか、大食堂というか、そんな感じの部屋だ。テーブルをとっぱらえば、大広間としても使えるだろう。


 いや、それはないか。


 なんか、部屋の奥が牢になってんだけど、この砦の作りはどうなってんだ? しかも鉄格子だよ。随分と無駄に金を使った作りだなぁ。普通なら、日本の座敷牢みたいに木製の格子とか、ここらの西洋文化っぽい感じなら、普通に格子付き小窓のついた頑丈な扉の部屋ってところだろうに。


 こうやって外から見えるようにするのが目的ってことなんだろうな。


 ……ってことは、ロクでもない事しか思い浮かばないな。


 中に入れられているのも女性ふたりだし。ゴブリンだのオークだのを一緒に放り込んで、女性が犯されるのを見てあざ笑うとか、もしくは猛獣をいれて殺されるところを見て愉しむとか、そういった感じの使われ方でもしたのかな。悪趣味な。


 ま、どーでもいいや。


 なんか予定とは大分変わっちゃったけれど、あのふたりは余裕があれば助けてあげよう。


 さて、この大部屋にいる人数は3人。人間2、ゴブリン1。ゴブリンは……多分アレ、ジェネラルかな。ウォーモンガーが人間とつるむとは思えないし。


 まずはジェネラルを殺す(ヤる)か。人間よりずっとしぶといからね。それに、いい塩梅に端っこの暗殺しやすい位置に突っ立っている。


 問題なのは私のいる側とは反対だから、一番遠いってことだけど。コソコソと広間を突っ切らねば。


 で、人間のひとりは、なんだか金持ちっぽい服装。もうひとりはいかにも騎士にございと云わんばかりの金属鎧でガーブも装備してる。


 騎士は真面目腐ったような感じで立っているが、偉そうなほうは、まだ昼間だっていうのに燻製肉を齧りながら酒を飲んでいる。


 これは【暗殺者(Assassin)】モードだとつらいかな? ジェネラルを毒で戦闘から排除したら、切り替えないとだめだな。あの騎士は固そうだ。


 現在の【暗殺者】モードは、名称の如く暗殺に長けた状態だ。これは身に着けている仮面の効果――のひとつ? 半面、鼻より上部分を覆う仮面は、()()蛇を模したものとなっている。それに合わせ服装も、赤黒い、身体にぴったりとフィットした革鎧となっている。


 部屋の端、壁沿いをコソコソと進む。灯りは簡易のランプ(壁に付けられた皿に油を入れ、そこに芯を浸して火をつけただけのもの)? だけであるため、かなり薄暗い。そこを能力で“透明化”して進んでいる私を見つけるのは至難だろう。


 3人の位置を確認しつつ慎重に進む。


 お? 捕まってるふたりの片割れ、鎧は剥がれてるけれど騎士さんかな? でなければ、お嬢様を護る衛兵か。どっちにしろ、あのゴージャスなお嬢さんはお偉いさんとみた。


 よし、あの偉そうなヤツは殺さずに生け捕りにしよう。でもって、そこのふたりに丸投げだ。絶対なにかの陰謀の真っ最中だ。


 人間とゴブリンがつるんでるってだけでキナ臭さしかないし、それに付き合うなんてやってられない。丸投げが一番ってね。


 食堂みたいに並んでいるテーブルの合間を抜けて、ジェネラルの背後へと回り込むことに成功。まともに戦うとなると厄介だけど、こうして問答無用に先制できるなら話は別だ。


 さて、問題はこの突っ立っているこ奴の背丈が高いこと。私の背丈だと、これまでみたいな調子で延髄を一突きってわけにはいかない。


 うん。きちんと致命の一撃を打ち込むには、ちょっと私の背丈が足りない。


 ジェネラルはホブ並にでかいから、2メートル以上あるんだよ。で、姿勢はゴブリンらしく猫背でやや前のめり。


 一応、私も背丈は年相応以上に高くて170ちょいあるんだけれど、盆の窪に一撃となるとちょっと難しい。


 ということで、毒の出番。仮面の能力で毒を生成、得物に塗布する。スティレットには麻痺毒。即効性で持続時間も長い優れモノ。

 クリスナイフにはヘビ毒。ブラックマンバの毒だ。ちなみに、今の仮面のモデルとなっている蛇だ。確か、ヘビ毒としては最強だったかな? 地球だと。


 麻痺毒はともかく、ヘビ毒の方はナイフを刺してからさら能力を使うことで、多量の毒を対象流し込める。確実に麻痺してもらって、ぶっ倒れている間にお亡くなりになって欲しいからね。


 よし、それじゃはじめるか!



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