マジカルバナナで前口上
紹介された部屋の扉を開け、案内されたソファに座るや否や彼の語りが始まった。
君はマジカルバナナって知っているか?
一昔前に流行ったテレビ番組の中でやっていたんが、まぁ、所謂ただの連想ゲームだ。
「バナナ」からスタートして連想される単語を繋げていくんだよ。バナナと言ったら黄色、黄色と言ったら蜂蜜、蜂蜜と言ったら甘い、ってな具合だ。
勿論、これはただの連想ゲームだからあまりに突飛な回答はダメ。甘いからの連想で醤油ってのは意味が分からないだろう?あぁ、あとは個人的な感想や感性とか、とにかく他の参加者が連想ができないとダメだな。だから甘いと言ったらだし巻き卵、とかはダメだな。俺は関西に行ったときに食べた塩味が効いただし巻き卵が忘れなくなってしまってな、もう甘いのが食べられなくなったんだ。ん?ここは関東だから甘いほうが正解だって?ふぅ…、一度本場で食べてみるといい。俺の言っていることのほうが正解だと気が付くさ。
食わず嫌いはよくないぜ?
…っと、話がずれたな。
で、さっきの続きなんだがこのゲームには制限時間がある。制限時間ってよりもリズミカルに4拍で次へ繋げれないとアウトってな感じだ。
さて、連想ゲームにおいて時間制限があると緊張感が生まれる。思考ゲームに関して言えばなんでもそうだけどな。リズミカルに次から次へと変化していく単語に思考が追いつけなくなってくるんだ。
するとな、次第に回答者は反射のみで解答せざるを得なくなっていく。回答者が持つ知識、経験、思想ってのが反映された、いわば心象風景とも言える答えが導き出されてくる。
ここら辺はしりとりと似ているかもな。延々と最後に「る」で回してくる奴とそれに対して延々と「る」で始まる言葉を返し続けている奴の応酬を目の前で見てたことがあるんだが、あれは、なんだろうな。勝ち負けが明確でない雪合戦を傍で見ているような…、不毛な争いを見てる気分だったな。最初は素直にすごいと思えるんだが、終わりが見えなくなるとじゃれ合いみたく感じるんだよな、第三者目線だと。おかげで酒が進んで気が付いたら寝ちまってたんだが、起きたら次は「ろ」に代わってやがった。うん、すまない。また話が飛んだな。要は引き出しの多さと瞬時に引き出す力が勝負の決め手になるんだ。
言葉に詰まって咄嗟に突飛なことを言ってしまうってのは連想ゲームの常だ。危殆に瀕して出した答えが周囲の誰からも、何なら自分自身でさえも理解できないだろう。
でもな。その時に絞り出されてきた回答には、見失うほど小さく、刹那的で、説明のつかないはずの整合性があったと言えると思うんだ。でなければ回答として口から出るわけがないだろう?
そして同じ整合性の欠片もない答えだったとしても、これが時間無制限で出されたものだと途端に話が変わる。どれだけ筆舌を尽くし説明を行い、事象を再現し、法則を開示されたとして。それに対して周りのあらゆる人間が理解できなくとも、その答えを導き出した回答者の中では辻褄があっている。道理が通っているんだ。たった一人だけに用意された法則が確かに存在しているんだよ。
それを完全に読み解けたとき、別世界の扉が開くような、未知なる世界に足を踏み入れたような、開放感が、充実感が俺を、脳を包み込むんだ。
随分と前置きが長くなったな。ここは探偵事務所で、俺は探偵で、君は依頼主。
今までの話でやることはもうわかっただろ?
さぁ、マジカルバナナを始めようか。
※作者の知識、力量不足により続きを作成することは出来ません。