第一話:みなければよかった
いいかい?この世界には、魔法使いなんていない。妖術使いなんていない。霊能力者も超能力者もいない。この世界にはな。これが何を意味するか分かるか?この世界じゃないなら存在するかもしれないということだ。まったく面倒だ。何が面倒だって?いや、最近この世界たちがごっちゃになってきているらしい。。以前から世界同士が干渉するということはあったらしい。その証拠にこの世界に魔女や幽霊や妖精などのおとぎ話が存在する。あれらは昔ことらの世界に迷い込んだ奴らのせいだ。収集が付かなくなってしまったからこうやって記録に残ってしまっている。まあ、これはこれで・・・ということにしておこう。あの頃にそうなっていなかったら、バタフライ効果でこの世がどうなっていたか分かったものじゃないからな。さて、話を戻そう。最近世界がねじれてきているから、俺はある工作をした。それは、ある昔の人を現代に復元してみるというものだ。まあ、ただ復元しただけじゃパニックになるから、脳は操作しないとな。いや、操作しないで新たな人格を入れてしまえばいいじゃないか。そして、このものに世界を何とかしてもらおう。さて、どう動くのか、じっくり観察しようじゃないか。
暖かい風にほほをくすぐられ、小鳥のさえずり・・・
「コケコッコー!」
いや、にわとりか?そもそも近所に鶏。朝飯はささみにするか。まあ、目を覚ましてやろうじゃないかまったく面倒だ。正直言って目を覚ますという行為はとてつもなくしんどいものである。あぁ・・・なんで起きなければならないのだろうか・・・。
・・・ん?鶏?にわとり・・・今日は確か入学式だ。
一応確認しよう。今何時だ?場合によっては俺は真っ青になる。
コンコンと戸を叩く音。まったく・・・時間を確認しようと思った矢先に。
「いるか?遅刻だ。行くぞ。」
ああ・・・やはりそうだったか。俺の顔が真っ青になることは免れなかった。
俺の名は哀昏明。今日から高校生である。ピカピカの入学生だ。
まあ、ピカピカかどうかは今日の俺のスピードによるがな。
場合によってはしょっぱなから遅刻した不良というピカピカからもっとも離れた存在になるかもしれないこの状況。この「人間が一番いいタイミングで起きられる目覚まし」というアプリは速攻で消そう。いや、スマホごと買えてしまおう。
僕は生まれつき足が速かった。いや、壁を上るスピードだって速かった。だから俺はこんなものを用意してみた。
「さて、早速試してみるか。ハンドグライダー。」
もちろん航空局に許可は得ていない。無断で街中でグライダーを乗り回しているぐらいの危険性があるためよい子でも悪い子でも絶対にまねしないでほしい。
「ちょっと待て、俺も乗せてくれ。あー、足につかまっていく。じゃないと移動できなさそうだしな。」
全く・・・自分でグライダー展開してほしい限りだ。
この何かと俺の行動について来ようとしてくれるのが伊藤仁という何かとめんどくさがりの相棒だ。
こいつ実はワープができる。簡単に言えば超能力者というやつだ。なんで俺に付きまとっているかわからなくなるぐらいの実力者だ。まったく・・・俺の取り柄は機動力だがこいついれば移動に不便ないだろうに。しかもこいつのワープ俺連れていけないらしいし。まあ、なんにせよ急がねばならないようだ。
近くのビルの屋上に行ってグライダーを展開して走って加速して学校の方向に滑空していった。
プチ。
ん?
靴ひもが切れている。
靴ひもを見るために下げた目線の先に黒猫。
ちょっと不吉な予感がする気がするようなしないような。
「ん?どうした哀昏。何か面白いものでもあったか?」
逆だ!逆!
「いや、別に面白いものはなかったぞ。」
「そうか。俺は面白いものを発見した。前見てみな。」
「ん?」
前を見てみると女性が浮いてた。飛んでた。そして目が合った。
「伊藤よ。あれば一体・・・」
「んあ?多分魔女だろうな。いやーいるんだなー。珍しな。」
本当にそれですませていいのだろうか。
「どうする?伊藤。」
「いやどうするって言われても・・・。遅刻するから早く行こうとしか言えないが。」
「本当にそれでいいのか?まあ、伊藤がそういうなら・・・そうしよう。」
ということで魔女を無視して学校に行くことにした。
いやー今日は面白いものを見たなー。
はっはっはー。
そんなこんなで入学式に間に合った俺たち。会場の指定席に座る。隣にさっきの魔女。
同級生かよ。
とりあえずあれだ!何か話しかけねばならない。
「どうも。さっきぶり・・・空中で・・・ごめんなに話してるんだろう。」
普通じゃないから難しい。だって「僕たちさっき会ったんですよ。上空200mぐらいだったかな?」なんて言ったら頭おかしいだろうに。
「・・・君、見たのね。放課後、処理させてもらうね。」
はい終わった。何か間違えた。
まあ・・・うん。聞かなかったことにしよう。
勝手にみられておいて処理なんて全く・・・。
そんなこと言うなら空飛ぶなと言いたいところだが、今ここで大々的に言ってしまったら被害者と誤解者が増えるだけだ。まったく面倒だ。
俺はやれやれという感じを完全に表に出してしまった。すごくやれやれだったのでつい。
しかしその表情をあの魔女は見逃さなかった。
「チッ」
うわぁ・・・舌打ちされた。めっちゃ感じ悪い。というか怖い。できれば関わりたくない。というかかかわらないでほしい。俺は高校卒業資格が欲しいだけなんだ。そして大学に行きたいだけなんだ。
入学式中気が抜けなかった。いつ刺されるかわかったもんじゃない。
しかし、無事入学式は終わった。いや何もしてこないんかい。
入学式が終わったとたん、俺はダッシュで帰るため、「伊藤!急げ!狙われているかも!」と言って伊藤が入学式に座っていた席に前に行って言おうとしたその時にはもう伊藤はいなかった。それはそうだ。俺の隣に魔女。その隣に伊藤。伊藤ももちろんさっきの処理の話を聞いていた。
あいつ逃げたな。
わかってはいた。あいつは長距離に関しては高速移動の手段を持っているが、短距離を素早く動くことができない。そういった時にあいつのほうが死亡率が高い。それをすべてひっくるめて考えたら理にかなっている行動だ。ただ・・・一言こと言ってほしかったな。
魔女がこっちを見ている。どうしたものか。こっちに向かって来ようと席を立とうとしている。よし。こうなったら。
俺は逃げた。走った。飛んだ。跳んだ。どんな手段を使ってでも逃げようとした。
俺の唯一の特技、半径10メートルの範囲の中なら1/60秒で移動。
数十回連続で使うと後日動けなくなるというデメリットがあるが、俺は全力を尽くしてでもこの場を逃げなければならない。命かかっているからな。命は大事だ。
学校の外へ1秒以内に出て、思いっきりジャンプして上空300メートルに行ってハンドグライダーを展開して家に向かった。
これで逃げられた。
そんなことを思っていたら、なんか空中に穴が開いた。紫色の穴。
そこから魔女が出てきてしまった。
おいおい、予想の斜め上を行くじゃないか。
空中でご対面とは。俺は空中では身動きが取れない。ハンドグライダー傾けてゆらゆら揺れることはできるが、これじゃ根本的解決にはならない。
それに対して魔女は飛んでるし。おい、ほうきがないぞ。あれ飾りだったのか?
仕方ない。
「見つけた。君、逃げられると」
なんかしゃべってるけど俺は逃げる。ハンドグライダーを閉じて自由落下。
そしてビルの上に着地。
そしてビルの中に入って地上に降りる途中でビルの屋上に戻ってまた上空300メートルの雲の中までジャンプしてハンドグライダー。
一見よくわからない行動に見えるかもしれないがこれはフェイントだ。奴が俺の前に現れることができたのは、俺の位置がわかっていたからである。それはそうだ。空中だからな。
しかし、俺の位置がビルの中となると人が多くまともに魔法を使うことができないだろうしまたばれやすい空中に行くとは考えにくい。それに人込みにまぎれて逃げた方が得策。魔女は人込みの中から俺を探そうとするだろう。そのすきに俺は上空の雲の中に突っ込んで隠れながら逃げる。
さらばだ。俺は自分が大切なんでね。まだやりたいことが決まっていない自分の人生だからこそ大切にしなければいけないんだ。しかしまあ、これも根本的解決にはなっていない。なぜならば、明日も学校に行かねばならないからだ。帰ったら編入先でも探すか。
無事家に帰ってアパートの隣の部屋の伊藤の住居を訪ねる。編入の相談だ。一緒に見てしまった以上、伊藤もターゲットなのは間違いないだろう。
インターホンを鳴らしてしばらく待ってみたが、返事はなし。
全く・・・のんきなものだ。頼むからおとなしくしておいてほしいがもしかしたらあの魔女の調査にでも行ったのだろうか。
とりあえず荷物を置かねば。
自分の住居のカギを開けようとしたとき、鍵が開いていることに気が付いた。
ありゃ?
とりあえず入ってみると伊藤の靴が真っ先に見えた。
「おかえりー」
「・・・何が「おかえりー」なんだ。部屋に入るときは連絡を入れてくれといつも言っているのに。今時スマホは便利だぞ。まあ、それもメールと電話とナビ以外使ったことないが。」
「今連絡するところだったんだ。」
ピロン
スマホがなった。
伊藤からだ。
「部屋上がってますよね自分。」
何の確認だ!今連絡するところだったまではわかるがだからって今連絡するなよわかっているよいるんだから。
「まあいい。魔女の件だ。そう見る?」
「あー、あれは非常に危険だ。魔女の中でも上位に部類される。上位魔女。普通の魔女とは比べ物にならないぞ。だからこそ・・・転校不可能なんだ。」
「いったいどういうことなんだ?」
「まあ、平たく言えば俺たちで何とかするしかないかもしれないということなんだ。」
「んー・・・もうちょっと簡単に。」
「お前が頑張れ。ってことだ。」
「内容変わってない?」
話にならないな。まあ、言いたいことは大体わかった。伊藤は能力者だ。瞬間移動ができいたり念力が使えたりと何かとできる便利な能力者。その伊藤が頑張るのはわかるんだがまさか頑張るのが俺の方だったとは。ちなみに俺は早く動ける以外凡人。少し頭の回転が速いがどんなに頭の回転が速くて周りの物全部スローに見えたとしてもIQが上がるわけではないので知能指数には限界がある。
「ということで哀昏よ、ちょっと魔女の様子見てきてくれないか?」
今必死で逃げてきたところなんだが。
もう「助けてー」て言って逃げてきたぐらい必死だったんだが。
「あの・・・普通に嫌っす。死にたくないっす。」
「あーわかった。これ持っていけ。お前の助けになるだろう。」
渡されたのはチューブニンニクと割りばしで作られた十字架と釣り用のブラックライト。
「これでどう戦えと?」
「これでおいしいものでも食べろよ。」
「だから趣旨が変わってる!」
「ほら最後のば・・・おなか減ったろ。昼食まだだし。」
「絶対今最後の晩餐って言おうと思ったろ。聞き逃すわけがない。こんなピリピリした状況で。なんで俺なんだ!自分で行けばいいのに。」
「いや、お前だから意味があるんだ。」
「・・・それは一体。」
「お前、能力系の才能皆無だから探知されない。というか能力絶対使えないある意味無能ってやつだからだ。ハッハハ。まあ、頑張れ。」
「・・・」
俺には夢があった。それは空を自由に飛ぶことだった。あの魔女を見て自由に空を飛べる方法があるとわかって少し元気が出ていたのだが・・・俺じゃ無理ということか。無能・・・か・・・。
涙腺を抑えて上を向く俺はまるで甲子園で愛する生徒たちがコールド負けしたときの監督のようだった。
「いや哀昏?そんないかにも「俺は一体・・・」みたいに泣かれても。あ、これタブレット。このナビで上位魔女の居場所がわかる。発信機付けておいた。」
なんかそれはそれで事件のにおいがした。
まあいいか。探知されないならこっそり見に行けばいい。
玄関に行く前に俺は涙を流しながら伊藤に「俺がもし夜までに帰らなかったらPCのHDDを絶対復元不可能レベルまで壊しておいてくれ。それ以外は・・・オークションにでも売って足しにしてくれ。」と言い残して出ていくのであった。
玄関出てから伊藤の方から「えーっと・・・HDDをオークション?」という最悪な言葉が聞こえたが気にしないことにした。どうせ死んだら・・・いや、めちゃめちゃかっこ悪い死後になったら困る。
まあ、生きて帰れば問題なしか。
タブレットのナビ通りに魔女のところまで進んでいった。
魔女がいる近くの高い建物の屋上に上って双眼鏡で魔女がいる・・・これは公園か。公園で何やってるんだ?とりあえずのぞいてみた。なんかJK覗いているみたいで・・・胃に来るなこれ。
銀髪のロングで自分と同じぐらいの伸長。青い瞳で目つき。よくよく見たら舌打ちした人とは思えないぐらいおしとやかな見た目しているな。俺視点からはもう恐怖の眼差し以外では見れないがな。
服は破けいたるところから出血し、片膝ついて今にも倒れそうな魔女。・・・ん?なぜに?
でもまあ確殺のチャンスだろうか。
もっと公園をよく見ると、ローブを被った人が銃と剣持ってる。うわぁ。ダブルで銃刀法違反じゃん。
こういう時どうするか。
命を狙ってくる魔女を確殺するか。
ローブ被った怪しい人を倒すか。
まあ答えは簡単だな。
さて、ローブの奴をちょいと懲らしめるか。
なぜローブを被ったやつを懲らしめるという決断に至ったかはいたって簡単だ。考え方の問題だ。
命を狙ってくるやつを倒そうとしている奴の味方をするという考え方と同級生がローブを被った銃刀法違反バリバリ犯している殺人未遂すら起こしているだろう人を倒す。
どっちが日本国憲法に合っているか。答えは法律厳守の方だ。
まったく面倒だ。ただ、同級生が殺されそうなのを黙ってみているわけにもいかないしあのローブの奴から面白い情報もらえそうだしこれを貸しとして命狙われなくなるかもしれないし殺人を加担したとして俺も罰を受けることもないし。
ということで、魔女の前にさっそうと登場してみました。
「おい・・・少年、そこをどけ。その制服、その魔女と同じ学校らしいがその魔女がどんなに危険な存在かわかっているのか?世界を壊しかねないんだぞ。この世の終わりだ。」
「いやー、だからってこの国じゃ殺しも暴力も許されていないわけですよ。あんたがやっているのは殺人未遂。魔女とかどうとかよりそっちの方が見逃せないしこいつは俺の同級生。助ける義理はある。まあ、俺もこいつに命狙われているがそれとこれとじゃ話が違う。こいつがやったのは殺害予告、もしくは脅迫、それにも満たない軽いことだがお前がやっているのは・・・暴行を超えた殺人未遂。わかってるのか?貴様に選択の余地なんてない。おとなしく日本警察のお世話になることだな。逃げるんなら今のうちだ。今なら証拠が少ないしここら辺は監視カメラが少ないから逃走も容易だろう。」
「そうか・・・。」
お、引いてくれるか?
「じゃあ死ね。」
俺に向けて放たれた銃の弾丸は俺の・・・手に持っていた釣り用のブラックライトによってはじかれた。
「くそ、外れたか。」
いや、バリバリ俺の心臓一直線だったよ。あぶねぇよ全く。
「これで俺へを殺人未遂も成立か。どんなけ罪を重ねるんだ?よしじゃあ俺の攻撃もくらってもらおう。」
俺はポケットに忍ばせておいた防犯ブザーを鳴らしてローブの人の足元に投げた。
相手は壊そうとガンガン踏みつけているので、そのすきに魔女を木の陰に移した。まあまあの出血。これは急いだほうがいいみたいだな。
運んでいるときに「なんで・・・助ける?」と言われた気がするが、俺は答えなかった。いや、答えられなかったの方が正しいかもしれない。なぜなら・・・そんな余裕あるわけねぇ!こんな状況で質問してんじゃねぇよ全く黙って寝て体力温存でもしてやがれ!
パッと戻ると防犯ブザーは木っ端みじん。
「お前・・・器物損壊まで。まあ俺も今ので迷惑系の訴訟がここら辺に住んでいる人からくるかもしれないが、まあ・・・何とかしなければな。」
「ごちゃごちゃと・・・まずは貴様から始末しないといけないみたいだな。」
「まあ、頑張りな。と言っても不公平だな。お前、剣か銃どっちかくれないか?」
「話にならないな。武器なしとはな。」
うむ、どうしたものか。あるのはスマホとタブレットと釣り用のブラックライトとお箸でつくられた十字架とにんにくチューブ。
とりあえず全部出してみた。
そしておっこどしてぶちまけた。
「あーやらかした。」
つい声に出てしまうほど面倒なことになった。
「終わりだ。」
敵は俺に向けて銃を撃った。
その瞬間に俺は敵の後ろに回り込んで思いっきり後頭部をぶん殴った。
ひるんだ敵の前に行って鼻にチューブニンニク突っ込んで思いっきり入れて腹にキックを入れた。
ノックバッグした先に回り込んで思いっきり蹴り上げた。
そして上空に先回りして砂場に投げておいた。
我ながら鮮やかに決まったな。よし。銃と剣は没収ね。君も器物損壊したし、あと何より危ないから。
敵が動けなくなっているうちに魔女を背負って逃げた。
公園からちょっと離れたビルの地下4階の駐車場の端っこで傷薬塗って包帯巻き巻き。
こいつがどうしても「病院だけは・・・行きたくないの。」なんて言い出すもんだから応急処置。そんなこと言うんなら自分で歩いてほしいのだけれどと言おうと思ったが、けが人には優しくすべきと思い、黙って背負って自分の住居にご案内。
「おかえりあい・・・ぐ・・・れ・・・元あったところに返してきなさい今すぐにそのこのためでもあるのよ全く。」
伊藤が急におかんになった。
「うーん・・・お前、行くとこあんのか?」
「あいつに消された。」
「じゃあここに住みな。」
俺は極限まで疲れていた。そして思考が単純化していた。住むと来ない同級生いたら家に住ませてあげるという完全に単純化した思考で住居提供をした。
「いいの?」
「哀昏ー!一回寝ろ!お前高速ダッシュを多用しすぎたろ!」
伊藤のそのセリフのあと、俺の意識は飛んだ。動きすぎと空腹によるものだった。結局あれから飯も食ってなかったしな。
夜9時、俺は今日、また起きる。2回目か。昼寝と思えば優しいが、事情が事情なだけどんな気持ちをしていいかわかったもんじゃないか。はっきり言って現在体調が悪いので不快だ。
俺は床で寝ていたらしい。
まだ寝足りないのでベッドに行ってみると、魔女が寝ていた。
まあ、あの怪我では仕方ないがせめて俺の下に何か敷いてほしかった。というか俺が倒れた場所から動いてないとなると放置されてたな俺。魔女と伊藤に道徳の勉強をさせねばならないみたいだな。
部屋を立ち去ろうとしたときに「まって」と魔女に言われた。
「ぬあ?なんだ?なんか用か?というか起きて大丈夫なのか?」
「・・・私を助けた理由を、教えてもらわないと寝れない。」
さっきまであんたぐっすり寝てただろうが。
「理由ねぇ。うーん・・・俺が今何を言っても後付けにしかならない。助けたかった以外なんもないさ。それよりも名前教えてくれないか?何て呼べばいいのかいまだわからないのは不便すぎる。」
「天野 雪。君は一体・・・。」
「俺は」
「君はどんな化け物なの?」
俺はこの瞬間「鏡って知ってる?便利だぞ。」と言おうと思ったがあえて無言になってみた。今しゃべるべきではなさそうだったからな。
「君には魔法が効かない。物、生物。すべてに対して魔法は効く。でもそれが効かないということは、君は生物でも物でもない。」
いや化け物は物に含まれるのだが・・・その理論だと俺は魔法が効くぞ。化け物ならな。
「んなこといわれてもなぁ。あと名乗らせろ。俺の名は哀昏明。ただ早く動けることだけに特化した普通の凡人さ。まあ、寝言は寝て言ってた方が可愛げがあるってもんだ。おやすみ。また明日。その部屋丸ごとあげちゃう。1LDKだがまあ俺は基本リビングに住み着いている。その部屋にある家具。ベッド、机、いす、タンスぜんぶサービスだ。じゃあ。」
そういって俺は部屋を出た。
女性にはプライベートルームが必要と聞いたことがあったからな。これで大丈夫だろう。ただ、いろいろパニックだ。あと飯と風呂。どっちにするか・・・・
ということで俺はシャワーに入りながら考え事をしていた。
何なんだろうか一体。伊藤に聞いた方がよさそうだが天野雪か。なかなかの同居人ができたものだ。料理や洗濯などの家事ができたらいいなと思っているのだが、まあさすがに掃除と洗濯くらいはできるとは思う多分難しくはないだろう洗剤もボールを入れるだけの奴だし。まあ、起きたらいろいろ事情聴取だな。どこに住んでいたのかとかどこから来たのかとかどこでバイトしているのかとか何か必要なものとかあるのかとか。
今考えていることは頭乾かした後すぐにメモを取らねばならない。さて、やることはいっぱいのようだな。
シャワーを終えて体をふいてパンツをはいているところにドアがガチャっと開いて天野登場。
「・・・天野?」
「ごめん・・・。」
「いや構わんが・・・立場が逆でなくてよかったと思っている限りだ。安心しろ。ぎりぎり法律的にはOKの格好をしている。職務質問は免れない格好であるのは間違いないが・・・。」
「あのー、トイレはどこに。」
「この部屋の隣です。確か「社長室」というプレート貼ってあった気がする。」
「なんでここのドアのプレートに「会議室」って書いてあるの?」
「あー、なんとなくだ。気にしないでくれ。気に入らなかったらはがしてく」
ビり!
剥がすまでの速度がえげつない。
ビり!
トイレの方の社長室プレートも剥がされたみたいだな。
「邪魔してごめんね哀昏君。」
そういって天野はトイレに行った。・・・完全にミイラ男みたいにぐるぐる包帯だったな。まああれ俺がやったんだけど。
そんなこんなで俺はメモを完全に忘れてこの後やらねばならぬことを一生懸命思い出していた。
さて、ここの時点でお気付きだろう。個々の世界での問題。
普通に見たらただの一般的な暮らしを多くの人がしている平和な世界だが、この世界は今何かと干渉と受けている。魔女?能力者?何かが変だ。そこで僕という存在。素早く動けて魔法が効かない。
僕はもう気付いてしまったのだ。この世界はきっと何かのきっかけで変わっている。そしてその変わっているという事実自体周りの人間が不審がらないようになっていたり、なかったことになっていたりしている。ローブを被ったやつの件もそうだ。普通あんなところで銃を撃っていれば周りの人が警察を呼んでくれるはずだ。しかし、警察は来ないし人も来ない。もし仮に天野が何かしらの魔法で人を寄せ付けないようにしていたとすればその力で助けを求めなかったというのがあまりにも不可解である。
まあ、証拠があるわけではない。あくまで推測だ。しかし、なぜかわからないが明らかに普通の日常という流れからずれてきている気がするのである。俺の予想ではこれはほかの、この世界以外の外部の何かしらの影響を受けているのではないかということである。
まずもってこの世界に魔女はいない。
そして能力者なんていない。
そう、前例がない。しかし今存在している。今まで一切発見されていない生命体たちが「俺の周り」に存在している。
これも多分であり、推測に過ぎないがこの世界のよじれのキーは自分である。自分は4月の冒頭からの記憶しかない。4月の頭にバイクの免許を取っていた記憶しかない。それより前のことが思い出せないのである。
伊藤は以前から俺と知り合っている風だった。俺は何も疑わずそれに乗った。それもおかしい。なぜ俺は記憶がないのに伊藤と一緒にいる。完全に初めまして気分だろうに。
これらのことをまとめるとこれから恐ろしいことが起こるに違いない。誰も想像できないような恐ろしいことが。これを運命と受け入れるか。それともひねくれたずるい方法を探すべきか。どちらにせよ情報が必要だ。そしてこれに関する情報を多く持っていると予想される人物は・・・伊藤と天野。
この二人には申し訳ないが調べさせてもらおう。この世の理ってやつを。
そして協力してもらおう。俺が平穏に過ごせるようになるその日まで。
嫌な予感はとてもする。しかし、それと同時に燃えている。なぜなら、この出来事の重要人物は俺だ。人間たるもの必要とされているときが燃えるものである。
そういえばだが・・・
天野がリビングに戻ってきたので、素朴な質問をしてみた。
「そういえばなんであのローブの奴に負けてたんだ?話によると君は強い・・・はずだ。」
「哀昏君を探すのに必死で不意を突かれたの。」
・・・俺のせいだったか。
責任・・・俺のせい・・・俺が原因・・・。
俺の顔はどんどん暗くなっていく。
「ごめんな。俺、必死でさ。わざとじゃないんだ。許してくれると嬉しい。」
「哀昏君って・・・もしかして単純?素直ということにしておいてあげるけど、まあ気にしないで。私が哀昏君を狙わなかったらこうはならなかったし、今こうして安全な住処が見つかったことがかなり幸せ。」
「まあ、用心棒は任せとけ。俺は相手が運動能力で俺を上回ないならば大体勝てる。」
天野は「期待してるね」と言ってベッドに戻っていった。
さて、何か食べるか。天野は・・・枕元に栄養ゼリーでも置いてあげよう。俺は・・・近所の300円ソースカツどんでも食べて何とかしておこう。
250ccのバイクにまたがり、一人でふらっとかつ丼やに行くとしたその時に「お疲れさん、俺も連れてってくれないか?」という言葉が後ろから聞こえた。
「伊藤、構わんが・・・飯おごって。」
「あぁ・・・そう来たか。まあいいだろう。」
伊藤を載せてかつ丼やに行って衝撃的なことを思い出す。
そういえば伊藤は車の免許持ってたよな。
でも今俺と同じ高校一年生。
・・・これに関しては効かないで置いた方が正解なんだろうな。
「哀昏よ。」
うわぁ!急に話しかけんでくれ!
「まさか魔女を仲間にするとは・・・恐れ入ったよ全く。あの魔女のこと頼むよ。かなり強い味方になってくれるはずだ。」
「ん?というと?」
「上位魔女はな、10人もいない。何よりも最強の存在なんだ。まあいい。ちょっと昔話をしてやろう。」
伊藤は急に「むかーしむかし」なんて言い出した。
「むかーしむかし。あるところに魔法使い、妖力使い、邪力使いなど、今この世じゃ考えられないような力を使うやつらが戦争をしていました。はやり特殊能力ということもあって、無能力者には太刀打ちできませんでした。しかし、ある時、完全に能力も才能もない人間は敵の攻撃にも干渉しないのではないかと考え付いた人がいましたとさ。」
ん?
なんか強引な切り方しなかったか?
この時感じた俺の違和感、後々になって「詳しく聞いておけばよかったー」と後悔することになる・・・はずだ。
ほう、魔女か。それも上位の魔女。予想外だが、まあ計り知れない膨大な敵に向けて、多少の戦力になりそうだな。上位の魔女は血族的に魔法使いのトップだ。魔力量はたぶん地球を簡単に破壊できるぐらいあるだろう。しかし、あいつはまだ使い方わかっていないみたいだな。今のうちに哀昏との信頼関係を厚くしておいてほしいもんだ。地球消されたら今回の作戦全部台無しだ。しかし、あの魔女狩りただものじゃないな。まあいくら魔法が使えるからってあいつじゃ相手じゃかわいそうだ。相性が悪すぎる。あいつは魔力に干渉できないように肉体が作られているし仮に魔法攻撃を食らうとしてもそもそもあいつの速さに追いつく魔法攻撃なんてないだろうしな。光よりも早い標的に攻撃を当てるなんて目をつむって100km先の動く的にダーツの矢を当てるぐらいの難易度だ。しかし、今回も面白いデータがとれたな。さて、もっと暴れてくれないもんかな。