人生の羅針盤
私の人生は全て、占い師が決めた
私の人生は占いによって決めてきた、と言っても過言ではない。
占いではおおざっぱ過ぎるかもしれない。
正しくは、霊能者の助言である。
私は人生で迷った時、必ずその人の元を訪れた。
一番初めに訪れたのはいつだろう。
もう、10年ほど前になるだろうか。
その人の噂は地元のみならず広く知られていて、遠方よりはるばる訪ねる人も多かった。
予約は1ヶ月待ちが当たり前。
それでもみんな、彼女に助けを求め、救いを求めた。
彼女は白髪の小柄な婦人である。
彼女がいる何もない広い部屋には机、その上には文字が大きいデジタル時計。
向かい合うように相談者用の椅子、そして彼女が座る肘掛け椅子が置かれている。
彼女は私に何も尋ねなかった。
生年月日や名前も聞かず、私をちらりと見ると目を伏せた。
その当時、私は恋人に突然別れを告げられ、去られた。
理由が分からず、過去を思い出しては自分が原因であると責めていた。
私は、この沼に落ちて這い上がれない気持ちから立ち上がりたいと、藁にもすがる思いでここにきた。
再び視線をあげた彼女は、私の方を見た。
「赤黒い色がたくさん見える。そんなに自分を追い詰めると、息が出来なくなって、自分で自分を殺しちゃうよ」
その一言が、どれだけ私の心を解いただろう。
その後、彼女は私の前世の話をした。
一番近い前世は船に乗っている最中、若くして死んだという。
男性で好きな人はいたが、結婚はしていなかった。
前世で若くして死んでいると、今世では生きた証を残そうとして生き急ぐ。
そして結果が残せないことに苦しみもがく。
私もその一人。
だから、慌てる必要はない。
自分を愛しなさいと、彼女は言った。
自然に涙が頬を伝っていた。
こんなに爽快な気持ちになったのはどれくらいぶりだろう。
彼女に心から感謝した。
あの日以来、私は少しでも迷えば占い師にお伺いを立てた。
就職する会社はどこが良いか。
そもそも、私にはどんな業種が向いているか。
転職するべきか。
再就職先はどこが良いか。
一人暮らしを始めるなら場所はどこか。
結婚相手はこの人で良いか。
親や友人たちの意見など聞かなかった。
彼らには私の前世や未来が見えないのだから。
占い師は霊能者だ。
間違いなく、私を素晴らしい人生に導いてくれるだろう。
結婚してすぐ、私は一人目の子どもを授かった。
占い師は、私が結婚を決めた時に二人の男の子を授かると預言していた。
占い師の預言通り、男の子だった。
結婚生活も平穏で、私はますます占い師の能力に傾倒していった。
占い師が主催する勉強会にも参加するようになった。
そのあまりの入れ込みように、夫は苦言を呈したが、私は夫の考えを否定し占い師を賛美した。
夫は次第に何も言わなくなっていった。
結婚して四年目。
私は二人目を妊娠した。
医者に性別は尋ねなかった。
尋ねるつもりもなかった。
一人目の時に、私はエコー画像を見ながら医師に性別を聞いてしまった。
医師は女の子かもしれないね、と答えた。
狼狽した。
占い師が男の子と言ったのに迷ってしまい、念のため女の子のお包みも用意した。
結局、産まれたのは占い師の言う通り男の子だった。
占い師の預言があったのに、迷った自分を恥じた。
神さまが言ったことを信じればいい。
赤ちゃんが産声を上げた。
助産師が、「かわいい女の子ですよ」と言った。
私は、本当に女の子ですか?と尋ねた。
やはり、女の子だった。
出産の痛みを忘れるほど、心が裂かれた。
産まれたばかりの子どもを抱くことも出来なかった。
子どもの性別はたった二分の一。
それを外したのだ。
今まで私が占い師に尋ねた選択には、もっとたくさんの選択肢があった。
二分の一の確立を当てられない占い師は、最良の道に私を導いてくれただろうか。
導けるはずがない。
なんで私は、あんなウソつきで当てずっぽな人間の言葉を信じたのだろう。
神だと信じた彼女の顔を思い出し、私は途方に暮れた。