同級生登場!
私、橘美優の日々の暮らしを少しお話しましょう。
通信制の高校三年生の私は勉強時間以外はやることはありません。入学当初は時間が余りまくっていたのでお手伝いのタキさんに料理を一から教えてもらいました。今では大分作れる品も多くなり食事の支度はタキさんと一緒に作ったり、私が作ったりしています。
それでも時間はあるのでネットで世界をみて回りました。時にはいけない所も覗きつつ色んなことを知ることが出来ました。まあ、使えないというか話せない事の方が大半ですが・・・。
もちろん体も動かします。学校に通わない分体育の授業もないので、毎日橘経営のスポーツジムに行って歩いています。動くマシーンに乗って・・・。
外出は基本兄である来人か警護の人がいないとできません。ジムには警護+車での送迎です。好きに出歩ければいいのですが、私自身そんなに外に用事がないので困らないと言えば困らないですし、欲しいものは大体家に届いてしまうので尚更と言えるかもしれません。
そして今、私は更に時間を持て余している状態と言えると思います。と言うのは卒業に必要な単位はすでに修得済みなので、空いた時間をどう使うか思案中なのです。一応、卒業後は父の会社を手伝う事になっていたのですが・・・両親は私の卒業と共に立野城さんとの婚約を発表し、その後の結婚に向けての花嫁修業と考えているみたいです。
働くのも楽ではないけど働かないのもどうかと思う。主婦の家事が大変な事はわかっているが美優に関しては違うんじゃないかと。私が言うのもなんだけど、多分結婚してもタキさんいてくれると思うから家事はしないよね。だとしたら私出来る事というかやれる事ってあれしかない・・・子作りというか性行為。美憂に経験はありませんし前世の私もありません。なので普通に楽しみのひとつになってはいます。まあ、その前に恋愛しないとね。好きじゃなくでも行為自体は出来るけど、気持ちがあった方がもっと気持ちいいと思うから。
・・・思いつきました。開いた時間を恋愛に邁進しましょう。が、何をすればいいのでしょう? 魅力的な人になるための自分磨きとかでしょうか。では、魅力的な人とは・・・わかりません。人にとって魅力を感じるところは色色ですし難しいですね。
そんなことをうんうん考えていたら立野城さんからのメールをアルマが教えてくれました。
「立野城カラ。『明日、ランチヲゴ一緒シマセンカ』」
ランチ。恋愛に前向きなるにはお誘いに答えた方がいいのかもしれないと、私はめんどくさいと言う気持ちを頭から払った。
「アルマ。立野城さんにわかりましたと送って」
「返事、送信完了」
「ありがとうアルマ」
小さなリスの頭を私は優しくなでた。
クリスマスの装飾が街を飾る季節のとあるおしゃれなカフェのテラス。温暖化の影響か暖かな日差しがテラス席にそそいでいた。
「やっぱりと言うべきだろうか」
玲生は苦笑いを浮かべた。
テラス席には美優に立野城、そして来人の姿。
「ごめんなさい」
「いや、美優ちゃんが謝る事じゃないでしょう。どっちかと言えばデートについてくる方が変だしね」
「兄として当然」
「来人さん・・・」
立野城さんには申し訳ないが私は兄が一緒にくるであろうと想定はしていた。
「立野城さん。にいにの事はほっといていいので、ランチ頼みましょう」
「・・・そうしょうか」
意外な事に兄は私達の会話に入ることなく静かに事の成り行きを鑑賞していた。
私は食後のデザートのケーキに手を付けながら、
「にいにが静かすぎる」
「なんかこれはこれで怖いんだけど・・・」
コーヒーを頂きながら立野城が呟く。
来人のコーヒーのカップにお代わりを注ぎにウエイターが近付き、その動きが止まる。
「来人さん?」
私達三人はウエイターに視線を向ける。一斉に集まった視線に彼は一瞬たじろいつつ再度言葉を続けた。
「俺、柊智也です」
はて、私はその名になぜか覚えがあった。兄を見ればその人が誰かわかったらしい。
「裕也の弟か」
「はい。ご無沙汰しています」
来人に会釈をした彼は今度は美憂の方にその笑顔を向けた。
「橘さんも久しぶり。元気だった?」
その笑顔に私の昔の記憶が思い出した。確か同級生で、兄に言われたのか学校ではいわゆるガード的な感じでいつも私の周りにいた気がする。
「仕事をしろ智也」
私が返事を返すことなく兄が彼に言い放つ。
「失礼いたしました」
柊は来人のコーヒーカップにお代わりを注ぎその場を立ち去る。
「美憂ちゃん今の方は?」
「あー私の中学の同級生です」
「ふーん。仲良かったの」
今の様子で察していただきたい。
「玲生、美優を困らせるな。器の小さな男は嫌われるぞ」
「僕だけ知らないのが嫌なだけです」
「話さないのはその必要がないからだ。そうだろう?」
兄が私に視線を向ける。
「そうかもしれない。けど、話せなければわからない事もあるから・・・気になるなら聞いてもらった方がいい。でもしつこいのは止めてほしい」
「そうだね。けど、僕が美憂ちゃんのこと好きだから気になるって事もわかってくれる?」
まあ、それもそうかもしれないと私は頷いた。
「あっ、話変わりますけど立野城さんは同窓会とか行かれますか」
「同窓会? 僕の場合学校は全て京都だから、そう言う話があってもこっちに出てきてからは参加してないな」
「そうなんですね。でも、立野城さんなら友達とか多そうです」
ていうかモテてそうです。
「多くは、ないかな。僕ひとりでも平気な方だから」
「こいつの場合、来るものは拒まづ去る者は追わづってやつだ」
「来人さん」
玲生が来人を軽く睨む。
「・・・恋愛でもですか?」
「そんなことはありません」
力強く玲生は否定をした。
「僕は自分が好きなり、相手も僕を好きという事でお付き合いをしてきました。ただ、別れた人を追うようなことはしません。その部分はあっていますね」
「未練はないと言う事でしょうか」
「未練が残る別れ方をする方が問題だと思いますよ。そもそも未練=まだ好きという事でしょう? そこで別れを選択すること事態おかしくありませんか」
「でも、お互い好きだけど別れなければいけない時もある訳で・・・」
「確かにそう言う話はありますよね。それでも、お互いの為に別れると決めたのならちゃんと話し合いをして前に進むべきだと僕は考えます」
立野城さんの言う事は正しいと思う。でも、人の感情はそんなに上手に切り替えが出来ない。嫌いで別れたんじゃないなら尚更・・・難しいんじゃないかな。
「僕の言葉は厳しいですか?」
私は俯いていた顔を上げて立野城さんを見た。彼は少し困ったような表情で私を見ていた。
「いいたい事はわかります。でも、人の心は自由であっても好きな人に関しては不自由ですよね。嫌いになって別れない限り、心はきっとその人に縛られている」
恋を知らないはずの彼女から出た言葉がとても切なすぎて玲生は不安になった。本当は彼女は他に好きな人がいて、その人を想い話しているのではないのかと。
「美優ちゃん」
強ばった声に私は首を傾げながら、
「私の心もいつか立野城さんでいっぱいになるのでしょね・・・不安であるような楽しみのような」
美優の言葉に玲生は深く息をついた。
「立野城さん?」
「・・・美優ちゃん、それ素なの? だったら僕我慢できそうにないんだけど」
その玲生の言葉が終るのと同時にその後頭部を来人によって叩かれた。
「にいに?!」
「お前が抑えろ」
「立野城さん、平気ですか」
「撫でてくれる?」
「玲生!」
私は兄の事は気にせず立野城さんの頭をなでた。
「ありがとう」
嬉しそうに笑う立野城さんに私も嬉しくなった。この気持ちはなんなのだろう?