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家族団欒? 敷かれたレールという守り。

 誰かを好きになったことはあっても、好きになってもらったことは前世の樹のときにはなかった。嬉しいのに心がざわざわするのはなぜなんだろうか? 私のどこがよくて好きになってくれたのかと考え出すと心配になるし、怖くなる。もしかしたら何気ない事でその好きが無くなってしまうかもしれないという不安が出てくる。やっぱり想われることも想う事も難しいと思う。そして私こと橘美優は今の所まだ立野城さんを好きになっていないのです。

 週末の夜、美優と両親は食事を終えリビングでお茶をしていた。

「ところで美優。立野城さんとのお付き合いは順調かな」

 父が何の前触れもなく聞いてきた。

 私はそっと母茉里を見る。母はこういう人よと言う感じで私に仕方なさそうに微笑んだ。

「・・・まあ、普通かと」

「そうか。では、美優の婚約者として彼を公表したいと思うんだがどうだろうか」

「公表って、誰にどこに?」

 いきなりの事に私の思考が追いつかない。

「美優落ち着いて」

 母が私の背をさすってくれる。

「良樹さん。順序良く話さないと。美優が混乱するでしょう」

「ああ、話が飛びすぎた」

 お願いします父よ。

「実は、このところ美憂に縁談の話が多く来ていてね。美憂も来年は卒業だしそれを機にそうゆう話が舞い込んでいる訳だ」

「でも、私立野城さんとお見合いしましたけど」

「うん。でもそれだけだよね。結婚を前提としてのお付き合いだけどそれは身内だけの話だから」

 公にはお見合いのひとつでしかないと言う訳か。

「だから、相手が決まっているのにこのままお話をいただいても申し訳ないですし、公表してお見合い話を断ろうかと思ってね」

 父の話には一つひとつ断るのが面倒になったから公表しちゃえと聞こえるのは私だけだろうか。

 婚約・・・立野城さんに異議はないだろう。でも、私は少し怖い。漠然とした不安が胸に広がる。

「美優」

 不安げな表情の娘に茉里はその肩を抱く。

「婚約は絶対じゃないし、公表したからと言って婚約をなかった事に出来ないなんて考えなくていいの。それに美優が縛られる事はないわ」

「お母さん・・・」

「ただ、公にすることで貴女に言い寄ってくる人を少なくできるし、もちろんそれは立野城さんにも言える事よ。恋愛は人生を豊かにしてくれるかもしれないけど、時には狂わせもする。親ばかかもしれない、でも私達は美優に穏やかな道を用意しておきたいの」

 それは決められたレールの上を歩いて行くと言う事でしょうか。昔もその手のセリフはよくドラマや漫画・小説なので聞きましたが、まさか自分がその立ち位置になるとは思いませんでした。

「・・・私、今それを公表する必要性を感じません。どんな生き方をしようとも少なからず心を痛める事はあります。それは恋愛に関してだけではないと思います。どんなことがあってもそれを自分で乗り越えて、ああ昔こんなことがあったねと思い出話に出来る自分でいたい思うんです。2人の気持ちはなんとなくわかるんですけど」

「でもな美優」

「良樹さん」

 父をたしなめる母の声。

「もう暫く様子をみましょう。美優にくるお話は私達できちんとお断りすればいいのだから。でもね美優、いずれ公表する時はくるからその時は迷わないようにね」

 優しくもきっぱり決断を求めた母の言葉に私は黙って頷いた。

 その時私の中で一つの疑問が浮かんだ。

「兄さんはどうなのかな?」

 兄である来人には恋人がいる。その人との仲は公表しないのだろうか思いと発した言葉に両親の空気が変わるのを感じた。

「俺は必要ないんだよ、美憂」

「兄さん」

 リビングに入ってきた来人が悲しそうな表情を美優に向けた。

「美優がまだ、にいにと言ってくれない」

 気にするとこそこですかお兄さん。

「・・・なんで必要ないの? にいに」

 私の『にいに』の言葉に兄は感動して胸を押さえた。そこまでじゃないと思うんだけどね。

「それはね、俺の恋人が」

「来人!」

 父の声が来人の言葉を遮った。

「それこそ話す必要はない」

 私は兄と父の様子を交互に見やり、母に視線を向ける。

 茉里は娘の視線を受けて頷く。

「来人、その話はまた今度にしてくもらえると嬉しいし、良樹さんも怖いわ」

 母の言葉に兄と父は黙ってしまう。私としてはとても気になる。後で兄に聞いてしまおうか。

「それと美優。貴女の婚約も来人の話も一旦これで終わり。だから来人にこれ以上話を聞いてはダメよ」

 母よ恐るべし。私は渋渋頷いた。

「あっそうそう、美優に同窓会のお知らせが来ていたよ」

「?」

 なぜ、兄の所に私宛の知らせが届くのでしょうか。

「にいに」

「これは父さん達も公認だからね。家に届く美優宛ものは俺が確認することになっている」

 そんなルールがあったのを私はこれまで知りませんでしたが、これも私の身の安全の為とでもいうのでしょうね。

「欠席でメール返しておいた」

「えっ?」

 もはや開いた口が塞がらないですが、これと言って私的には問題ありません。小中どちらの同窓会であろうと私が会に出席する意思はないので。

「えっ! ダメだったのか」

 兄が若干心配そうに私を見た。

「かまわないよ。にいに、私の代わりにありがとう」

 来人はうんうんと頷いた。

 前世の樹の時も一度もその手の集まりに出たことはなかった。理由は会いたい人も思い出話も無かったから。美優の場合もほぼ同じだが、橘と言う大会社の娘と言う事もあり周りから孤立していた。仲のいい知り合いなどもいなかった・・・あっ、兄の子分みたいな子がひとり私の周りいたがそれだけである。

「じゃ、その日は俺とお出かけしよう」

 私を含め父母の視線が兄に向けられた。

「・・・にいに、そこは立野城さんでしょう」

 父母が頷く。

「そんなの早いもん勝ちだよ」

 そんな事言ったらずっと兄の独り勝ちですけど・・・。

「立野城さんに予定があったら、にいにと出掛ける。それでいいでしょう?」

「うーん、仕方がないな」

 来人は少し残念そうにそれでいて嬉しそうに美優の頭をポンポンした。

「美優とお出かけどこに行こうかな」

「いや、まだにいにと出掛けるって決まってないよ」

「うん? いいのいいの」

 スマートホンを取り出し検索をし始めた兄の姿に両親は軽く息をつく。

「にいに・・・」

「うん?」

 私に画面を見せながら兄が楽しそうに返事を返す。

 恋人は? その問いを声に出せず飲み込んでしまったのは、さっきの兄と両親とのやり取りがあるからで・・・。

「美優?」

「なんでもない」

 家族でも知らない事はある。他人なら尚更・・・私はいつか立野城さんを好きになり、知りたいと思う時がくるのだろうか。

  

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