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それぞれの恋愛事情

 優しいい西日の日差しが部屋に差し込んでいた。

 どのくらいそうしていたのだろうか。私は急に恥ずかしくなって立野城さんから身を離そうとし試みたが彼の腕はそれを許してはくれなかった。

「・・・あの、立野城さん」

「ずっと、こうしてたい」

 立野城さんの声が私の耳元で囁く。好きだと言ってくれたことは嬉しいのだが私の気持ちはまだこの人に向いていない。正直、まだ好きという感情を持っていない。

「私、人を恋愛感情で好きになったことがありません」

 玲生の躰がピクリと跳ね、ゆっくりと美憂から離れる。

「それは・・・まだ、僕を好きになっていないって事?」

 酷なようだが私は頷いた。

「そっか・・・。僕は片思いはしたくない」

「以前、そうおっしゃっていましたね」

「うん。でも、君を好きな気持ちは変わらない。どうしたら僕を好きになってくれるのかな?」

 首を傾げ、可愛い顔で聞かれても困る。そんなの私が知りたいのだから。

「とりあえず、嫌いではないのでこのままでいいのでは?」

「それって僕的には辛いな」

 なにがとはあえて聞かないです。

「・・・どうしたら、好きになるんでしょうね」

「嫌いじゃないって時点で好きになっているんじゃないのかな」

「立野城さん的な解釈ですよ。それに、『嫌い』『普通』『好き』の順では?」

「一つ飛ばしもオッケーでしょう」

 私は笑った。

「確かに立野城さんへの気持ちは『普通』より『好き』に近いかもしれませんね」

 立野城さんの手が私の頬に触れる。

「なら・・・もっと『好き』に近付けるように僕の呼び方を変えてみようか」

「えっ」

「玲生」

 玲生の指が優しく美優の頬をなでる。それはまるで美憂に自分の名を促すように。

「・・・玲生、さん」

 立野城さんの唇が私の頬をかすめる。

「よくできました」

 嬉しそうに笑みを浮かべる玲生。

「でも、当分は立野城さんでお願いします」

「えっーなんで」

「すぐには無理です。徐々に呼んでいきますから」

「じゃ、2人の時は名前で呼んで。いいでしょう」

 私は仕方なく頷いた。

 

 僕は美優ちゃんを駐車場に止めてある車まで見送り、足取り軽く社長室に戻った。

「よっ、ご機嫌だな」

 部屋の中で百田がソファに座り菓子を勝手に食べていた。

「用事は」

 玲生はデスクに座り、溜まっている仕事を片付け始める。

「菓子のご相伴に預かっているだけだ」

「ここで食べるな。持っていけよ」

「いいのか。彼女の為に買ったものなのに」

「・・・なにがいいたい」

「もらいものなんてないだろ。何で変な話作ってまで彼女を呼ぶ必要があるんだ? 普通にお茶しましょうじゃ駄目なのか」

「今はまだ、彼女には理由が必要なんだ。僕は美憂ちゃんが好きだから会いたいと思うけど、彼女はまだ違うから」

「成程な。お前の片思いか」

 玲生は百田を一瞥し

「余計なお世話だ」

「余計なお世話ついでに言っとくが、もう身辺はクリーンで?」

「その言い方だと僕が凄く遊んでいるみたいになる」

「ヘッ違ったか?」

「お前と一緒にするな」

 百田は笑った。

「で、どうなの?」

「これまでの恋愛はちゃんと片が付いている。彼女とお見合いをした時点でその辺はあちらも調べ済みだろうし問題ない」

「だよな」

「もういいだろ。仕事に戻れよ」

 百田は手に持てるだけの菓子を持ち、部屋を出て行こうとしドアの前で玲生に振り返る。

「あの子がお前を好きになったら、あの兄貴の方はどうなるんだろうな」

「さあ・・・でも来人さんなら美優ちゃんの幸せを一番に考えるから、どうにか自分を納得させるんじゃないかな」

「そうかもな。それに、まだあの子がお前を好きになるかわからんしな」

 玲生が手近にあったペンを投げつける前に百田はドアから素早く出て行った。

「・・・わかってるよ、そんなこと」

 投げ損ねたペンを回しながら、玲生は息をついた。


 都内のマンションの一室。

 来人はパソコンに届いたメールで美優が無事帰宅したのを確認した。もちろん途中で玲生の所に寄ったのは護衛に者からの報告で知っている。

 自分が美憂に過保護なのはわかっているいし、それが年の離れた妹という事だけではない事も。

 来人は自分の広げた両手を見つめる。

「守るべきものを守れる・・・美憂、お前の為にそうなりたい」

 ノック音。

 顔を上げた視線の先に藤堂 奏汰かなた26歳が部屋の入口に立っていた。

「なに?」

「・・・夕飯」

「そんな時間か・・・ここを片付けたらいく」

 藤堂はデスクに座る来人の側に歩み寄る。

「奏汰?」

「相変わらず、妹の心配か」

「そう、変わらずだよ」

「・・・見合いをしたと聞いたが」

「ああ。不本意ながらな」

「不本意って、お前が言うのか」

「俺が言うべきだよ。美優に構い過ぎる俺を両親が杞憂して、あいつに見合いの話を持ってきた」

「でも、その策も今のお前のこの状況をみれば意味はなかったな」

「いや、両親的には予想以上の結果になって喜んでる。妹は見合い相手と結婚を前提に付き合いだしたからな」

 奏汰は少し首を傾げ、来人の顔を見る。

「なんだよ」

 来人はじっと見る奏汰を睨む。

「お前があんまり冷静なんでおかしいなって思って。だって来人の大事な妹が男とそれも結婚を前提に付き合うのに、なにその落ち着きぶり」

「・・・見合い相手は俺の知り合いで、美憂も俺の許しが出た男だったら悪い相手じゃないからって」

「それだけで付き合いを許したのか?」

「美憂は、俺の幸せをおもって見合いを断ろうとした。それっておかしいだろ? 俺兄貴なのに・・・妹の幸せを思えないなんて」

「だな。で、妹の幸せを思いつつ見合い相手との付き合いを監視してると」

「見守ってる」

「物は言いようだな」

 奏汰は手を伸ばし来人の頬をつねる。

「嫌われないよう、程ほどにしておけよ」

「痛ひし・・・もう怒らへた」

 来人の頬から手を離した奏汰は呆れたように息をつく。

「アホ、だな」

「いいんだ。俺は美優の兄としてあいつを守らなきゃならない・・・」

 奏汰の顔が来人に近付き、赤くなった頬に口づける。

「無理すんなよ。お兄ちゃん」

 離れていく奏汰の身体を来人は引き止め、その唇に自分の唇を重ねる。

 深くなる口づけに奏汰の身体から力が抜け、来人に支えられる。

「・・・夕飯なんだけど」

 息の上がったそれでいて甘い藤堂の声。

「いただきます」

 来人は奏汰を支えながらその体を絨毯に横たえた。 

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