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誰かを想い、想われる気持ち

 見晴らしの良い部屋の窓から外の景色を眺める美優。

 三十数年前の東京の都心も良く知らないが、今とそう変わっていないのかもしれない。だだ、見る限るとても空が澄んでいる気がした。

 部屋のドアが開く音と共に来人の声。

「美優、どうした」

 振り向けばスーツ姿の来人らいと

「仕事中にごめんなさい」

「俺は全然かまわないけど」

 来人はデスク席に着く。

「昨日、家に来たんでしょう」

「ああ」

「にいに、アルマになにをしたの」

「何を? 少しアップデートしただけだ」

「私に黙って?」

「黙ってしたこといけなかったとは思うけど、必要なことだったからね」

 兄に悪びれたとこはない。

「どんなことをしたの」

「うーん、メールの保護?」

「具体的には」

「・・・」

「いえない事なの、にいに」

「・・・ある特定のメールのやり取りに対しての監視と通知」

 その特定の部分が完全に立野城さんに対しての事だと私でもわかる。

「にいに。それはいけないことだってわかってるよね」

「だね」

 私は大きなため息をつき、部屋を出て行こうとドアに向かう。

「美憂!」

 来人が席を立ち、美優をドア前でとらえる。

「誤解がないように言っておくけど、メールの内容まで知ることはできないからね。あくまでいつ誰から何時に連絡が来たかだけを知るだけだよ」

「それでも、でしょう?」

「ごめん・・・」

「心配してくれるのはいいけど、必要以上に過保護にならないで兄さん」

「兄さん・・・って、美憂がにいにって言ってくれない」

「反省してくれるまで、当分な間は兄さんと呼びます」

「みゆう~」

 それなりのイケメンが泣きそうになっている。

「じゃ、帰ります。またね、兄さん」

「えっ、まさか1人で帰る訳じゃないよね? ていうか1人で来たの?」

「・・・」

「美優。一人で出歩くのはダメだって言ったよな」

 べそをかいていたはずの来人の表情が一変険しくなった。

「車に乗って来たし」

「それでも、警護は必要。帰るのなら誰かつけるから待ってろ」

 来人はすぐにデスクの備え付けの電話から指示をだす。

 こうなると私がなにを言っても兄は聞かない。完全装備の自動運転の車に乗って来ただけでも十分だと思うのに・・・そんなにこのご時世治安が悪いのか? 確かにトキさんにも渋い顔されたけど。

 私の側に戻って来た兄は私の頭をなでる。

「美優。今はまだ、俺に心配かけさせてくれよ。そのうちそれも・・・」

「それも?」

「他の奴に奪われてしまうだろうしな」

「家族なんだから、ずーとこのままでいいと思うけど。やり過ぎは別として」

「美優は甘いな」

 兄は私をそっと抱きしめた。貴方の方が甘いですよと心の中で突っ込んだ。

 橘コーポレーションからの帰りの車の中、私は立野城さんからの連絡を受けた。もちろんさっきの件は解決済みで、兄の元にこの連絡の知らせは行かない。

 美優は立野義からの連絡を開く。

『お茶でもご一緒にいかがでしょうか』

 私は頬が緩むのがわかった。

「行先の変更をお願い。Leo芸能プロダクションまで」


 ここも見晴らしのいい部屋で、でも先ほどよりも緑が多く眼下に広がっていた。私が通されたのはLeo芸能プロダクションの社長室。立野城さんの部屋。

「玲生はすぐ戻るからね」

 玲生の秘書である百田がテーブルにお茶を用意している。

「お誘いに甘えて伺ってしまったんですが、お仕事忙しいのでは?」

「俺の様な秘書がいるおかげで、なんとか玲生の仕事も回っているので大丈夫」

「あっ」

「えっ?」

 美憂の声に百田が振り返ると玲生が立っていた。

「お、お帰り。お茶の用意はしておいたから。じゃ、俺はこれで、美優ちゃんごゆっくり」

「彼女を名前で呼ぶな」

 玲生は百田を足蹴に部屋から追い出した。

「・・・いらっしゃい」

「こんにちは」

 窓際にいた私の側に立野城さんが歩み寄る。

「急な誘いでごめんね」

「いいえ。嬉しかったです」

 昨日、立野城さんは出来るだけ一緒に食事を共にしようと言ってくれた。それを守ろうとしてくれていると感じうれしかったのだ。

「昨日の今日でも?」

「はい」

「そっか」

 玲生は笑い、美優の手を引いてソファに座らせその横に並んで座る。

 テーブルの上にはきれいで美味しそうな洋菓子や和菓子が並べられている。

「頂きものなんだけどね」

「こんなにですか」

「この倍以上はあったかな。社員に分けても余るくらい」

「私もそんなには食べられませんけど」

「無理に食べなくていいんだよ。好きな分だけ食べてくれれば」

「はい。喜んでいただきます」

 私はどれも美味しそうな菓子のひとつを選び、口に頬張った。

 玲生はそんな美優を嬉しそうに見つめ、こんな時間が毎日あればいいのにと思ってしまう。

「立野城さんは食べないんですか」

「僕は、甘いものがそんなに得意ではなくてね」

「そうなんですか。お顔はスィート系ですけど」

「スィート系?」

「あまい、優しい顔ってことでしょうか」

「そんな事初めて言われた」

「言わないだけで皆さん思ってますよきっと」

「僕の甘い顔は、美優ちゃんだけに見せたいけどな」

 私は思わず口の物を吹き出しそうになり、慌てて飲み込んだ。

「そうだ。連絡してからここに来るまで早かったけど、出先だった?」

「・・・っはい。兄の所に」

「来人さん?」

 私はお茶を飲んでから、なぜ兄の所に行ったのかを立野城さんに話した。

 立野城は黙って美優のカップにお茶を注ぐ。

「困ったお兄さんだね」

「でも、兄らしいですけど」

「だね」

 美優と立野城は笑う。

「立野城さん。兄を怒らないでくださいね」

「僕は・・・どっちかと言ったら気持ちは来人さん寄りだから」

「?」

 美優は首を傾げた。

「来人さんは兄として君を心配してる。僕はキミを独占したい。詰まる所美優ちゃんの事が知りたいんだよね。だから、怒りはしないよ」

 なんか、さらりと危険な事を言っている気がしましたが。

「つまり、立野城さんも兄と同じことをする可能性があると?」

「その辺は来人さんと一緒にしないでね。僕はセーブ出来るから」

 でも、そのセーブって自分次第だと思うんだけ。私のお菓子を食べる手を止めた。

「不安になった?」

 私に表情を読み取ったのか立野城さんが聞いてきた。

「立野城さんは私を・・・どうしたいんでしょうか」

 玲生は目を見開く。

「・・・こう言ったら、ひかれるかもしれないけど。僕の側から離したくないと思ってます。ずっと側にいて欲しいし触れたい」

 優しいけど熱を帯びた視線と声が美優に届く。

「でも、そうしないのはキミを想っているから。美憂ちゃんが嫌がる事はしたくない」

 恋は人を盲目にさせる。でも、相手を想っていればきちんと周りは見る。

「私もいずれ、誰かをそう思う事が出来るのでしょうか」

「出来るよ。でも、その時は誰かではなく僕にだからね」

 この人の側にいたい、触れたいし触れられたいと思う時が来るのだろうか。

 私は立野城さんを見つめる。 初めてのデートの時、観覧車の中で聞いた事を再度問う。

「立野城さん。私の事好きですか」

「この話の流れでそれを聞くんだ。好きな子にじゃなきゃこんな話してません」

「でも、前は気になってるぐらいで」

 立野城さんの腕が私を強く抱きしめた。

「僕は美優ちゃんが好きです。僕も君と最後の恋をします」

 耳元で囁かれた立野城さんの言葉に私は心が震えた。

 誰かに想われる事など前世の樹の時には無かったこと。初めて知る心の喜びに胸が苦しくなり、立野城さんを抱きしめ返すと共に涙が溢れてきた。

「立野城、さん」

「うん、好きだよ。美優ちゃん」 

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