玲生の溢れた白い想い、美優は?
ベットの上、僕の腕の中に美憂ちゃんがいた。
僕こと立野城玲生はそっと彼女の髪に触れる。柔らかく細い髪質が手の平をくすぐる。
「美憂、ちゃん」
名前を呼ばれ無意識なのだろうがさらに僕の体にすり寄ってきた。どうしてこうなったのか今考えるのは野暮だと言うものだろう。
僕の手は髪から彼女の頬へと移行し、その頬をなでる。
「すべすべ・・・」
胸がドキドキしている。こんなにも愛おしくて欲しい存在。
「美憂」
名前と共に僕は彼女と唇を重ねる。離れたくない思いからその唇を舌でなぞり、その隙間から中に舌を滑り込まる。
無防備な彼女の舌に僕は優しく触れる。ピクリと彼女の身体が反応し、抗うように僕の舌から彼女の舌が逃げ惑う。でも僕は逃がさない。
互いの舌を搦め合い、涙目で彼女は僕を見る。その表情が少し怒って見えるのはキスの所為か睡眠の邪魔をされたからかのどちらかだろう。
音を立てて唇を離し、彼女を抱きしめ耳たぶをはむ。
「んっ」
彼女の甘い声。
あっ、もう無理かも。己の下半身が熱い。
「・・・欲しいな」
美憂ちゃんの耳元で囁く。彼女は僕の腕の中でこくりと頷いた。僕は嬉しさのあまり全身が震え、再度彼女を強く抱きしめる。彼女の体の感触を自分の全身で感じたのと同時に僕はイッた。
『ごめんね』
そんなメールが立野城さんから届いたのはランチの前でした。
「なにが?」
美憂は用意されたお昼のカレーライスを前に首を傾げる。
訳が分からないので私は昼食を優先することにした。
平日のお昼、普通は学校に通い勉強するのだろうが私こと橘美優は通信制高校に通っているため私宅で用が足りてしまう。
楽だけどなんかさみしいような・・・それは前世の私とのジェネレーションギャップ。
「アルマ」
私の隣の席で丸まっていたリスが顔を上げ、その可愛らしい姿に笑みがこぼれる。実はこの子はAI。前世の樹の時代には余り一般的ではなかったがそれなりにあったと思う。今はそれがさらに進化し1人に一つのAIである。
アルマとなずけられたこの子はリスの容姿をしている。自由に動くこともできるので私が家に居る時はこんな風に側にいる。使い方はそんなに変わっていないがこの子は問いに答えるだけではなく自ら話す事も出きた。まあリスが話すって画が映画の吹き替えみたいな感じで面白い。ちなみに父のAIはイヌ型で名を勇君、母のは鳥型のミミである。兄の来人は多分普通に置き型タイプだったような気がする。
「立野城さんにメールお願い」
「メッセージヲドウゾ」
「『こちらこそごめんなさい。立野城さんが何に謝られているらわかりません。もしかしてお付き合いはのお話はなしと言う事でしょうか』終わり」
「オアズカリシタ。立野城ニ送ル」
なぜアルマが立野城さんを呼び捨てにしているかと言うと、立野城さんの連絡先の登録を兄である来人がおこなったから。後で直しておかないと。
「ピコン」
アルマから着信の音。顔を上げたアルマの瞳から空中に画面が投影される。
『違う! お付き合いがなしなんてそんなこと絶対ないから。ただ、僕の気持ちの問題で、出来れば美優ちゃんに許すと言ってもらいたい』
立野城さんの心の問題とはなんだ? まあお付き合い続行なら安心したけど。
「アルマ、返信。『私が言う事で立野城さんの気持ちが楽になるのでしたら別に構いませんよ。私は貴方を許します』終わり」
「立野城、送ル」
18歳の女の子に謝らせてこれは何かのプレイかしら? 私はカレーを頬張る。
「ピコン。立野城メール」
「早っ」
『ありがとう』
「ピコン」
『会いたいな。今度はいつ会えますか?』
立野城さん、お言葉ですが昨日お会いしたばかりではありませんか? 何て言うかお誘いを嬉しく思うより少し面倒くさいと感じている部分が私はこの人をまだ好きではないのだと実感する。
「このままだと前世の二の舞だわ・・・とりあえずカレーをお代わりしましょうか」
考えながらの食事は消化に良くない。私はお皿を手に立ち上がった。
Leo芸能プロダクションの社長オフィスの席に座っていた玲生はほっと息をついた。
自分の見た夢の後ろめたさから美憂ちゃんに謝りのメールを送り、彼女に許してもらえた。彼女にしてみれば何の事だかわからないだろうが、わからなくていい知ってもらいたくない話である。
「夢精なんて・・・」
「はっ、なんて?」
「百・・・部屋には入る時はノックをしてくれるか」
「一応したけどな。で」
百田 亮はドアを後ろ手で閉め、
「夢精がどうした」
「何でもないし、話す必要はない」
「別に悪い事じゃないだろ。健全たる証拠」
「いいからこの話は終わり。で何の用」
百田は残念そうに肩をすくめる。
「お昼どうするって話」
「午後の予定はスポンサーとの打ち合わせだったな」
「そう、2社と約束してる。もしかしたら夕方まで食い込むかもしれないから、しっかり食事をとった方がいいかも」
玲生は頷いた。
百田は25歳で僕の高校の先輩。それなりに顔もよく口も達者なので会社を設立する時に声をかけた。営業と僕のスケジュール管理をしてもらっている。
「外に行くか、デリバリーするか」
「そうだな・・・」
デスクの上、パソコンの画面に着信メール。
僕は急いでメールを開く。
『お時間が宜しければ欲しい本があるので買物におつきあい頂ければと思います。立野城さんの予定に合わせますのでご連絡ください』
「百、僕の休みはいつ?」
「・・・ない」
玲生はパソコンから顔を上げ冷たく百を見る。
「休みは?」
「言っとくけど昨日の休みだってやっと調整して空けたんだぞ。昨日の今日言われても無理に決まってる」
「何も丸一日くれとは言わない。半日とか数時間でも無理なのか?」
「はあ・・・駄目だ。けど、夜の時間帯なら少しは空いてる。譲歩できるのはそこまでだ」
「夜」
夢で見た美優ちゃんの肌の柔らかさが思い出せれる。
「例のお見合いの子か」
僕は頭を振り頷いた。
「じゃ、夜は難しいな。んー仕方がない。夕方から夕飯コースでどうだ」
「やればできるじゃないか」
「なんか納得できかねるが、日時と時間を後でだしとく」
「ありがとう、百」
僕は早速美優ちゃんに返事を送るべく、パソコンと向き合う。
そんな僕の様子を百田が楽しそうに眺めていたことなどつゆ知らず、彼女に会える嬉しさに心が浮きだっていた。もちろん彼女の兄が一緒なのはわかっているけど、そんなことは気にならない。僕は彼女しか見ていないのだから。そう、まだ彼女が僕を見てくれていないとしても。
「立野城カラメール」
『お誘い嬉しいです。日にちと時間は追ってご連絡します』
私はアルマの柔らかい毛並みの頭をなでた。空中に投影されていた画面が消える。
「・・・プロダクションの社長さんて、暇なのかな?」
それが自分に好意を持ってくれている人の恋する行動などだとわかりもせず私は呟いた。