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来人の恋愛事情、玲生の心情

 車の中から見る街の夜景はとても簡素で、空にある星がよく見えた。

 前の私、真木野樹が亡くなって20年。今の私、橘美憂が生まれて18年。今はこの歳で成人とみなされる。

 20年も経てばどんな近未来的な世の中になっているのかと思うけど、これと言って代り映えはしていないと思う。ただ、AIの存在が半端なく周りにある。家族一人にAIの時代。容はそれぞれ・・・その話は家に戻ってからにしましょう。

 自動運転の車の後部座席に来人と、私が座っている。

「にいに、今日はおうちに泊まってく?」

「いや、美憂を送ったらマンションに帰るよ」

 水族館での立野城さんと兄、私の3人で遊んだ帰りです。立野城さんはお迎えの車が来て帰りましたが、本当は私を送りたかったようです。それを兄が阻止しました。

「ねえ、にいに」

「なんだ」

「立野城さんに聞いたよ。スカウトされたんでしょう」

「おしゃべりだなあいつ」

「名前しかしらない、会ったことがないって言ってのに」

 私は隣に座る兄に詰め寄る。

「なんで嘘ついたの?」

 来人は美憂の頭にコツンと頭を乗せ、美憂も来人の肩に頭を乗せる。

「俺と親しいなんてわかったら、美憂は初めからあいつに懐くだろう?」

「え―そうかな」

「そうなの。俺の知り合いってだけでお前はガードが緩くなるんだ」

「だって、にいにのお友達に悪い人いないでしょう」

「・・・美憂にはみんな悪い人。むやみに近付くなよ」

「なにそれ」

 これは兄のヤキモチなのだろう。自分以外の男性に兄という役割を奪われたくないそう思っているのかもしれない。

「にいにから見て立野城さんはどうゆう人」

 兄の瞳が遠くを見ながら、

「しょーもないやつ」

「えっ」

 私は顔を上げる。

「で、しょーじき」

 来人の両手が美憂の頬を挟み、顔を近付ける。

「玲生はいい奴じゃないから、気を許すなよ美憂」

 兄と私のおでこがぶつかる。

 正直者っていい人じゃなかったけ? 

「う~ん、それって手が速いって事」

 さっきの観覧車での事もあるしね。

 来人は頷く。

「心配するな。俺が守るから」

 それはそれでどうなのかな兄よ。

「そうだにいに。この間、お父さんに恋人がいるって言ってたよね。どんな人?」

 来人は私の頬から手を離し、腕を組んで前を見据える。

「にいに?」

 振ってはいけない話でしたか。

「もしかしてもう別れちゃったの?」

「・・・別れてないよ」

 でも、すごく顔が怖いんですけど。

「聞かない方がいい?」

「平気」

 では遠慮なく。

「どこで知り合ったの」

「飲み会」

「歳は」

「3つ離れてる」

「なにしてる人」

「会社員」

 んー、あと聞く事は・・・。

「ぷっ」

 来人が笑う。

「なに?」

「美憂、父さんみたいだな」

 確かに・・・って言うか小姑的な。

「否定しないけど、じゃこれが最後。その人のどこが好き?」

 兄は少し考えて答えた。

「側にいて居心地のいいとこ」

 そう言ってはにかむように笑った兄に私の顔は真っ赤になった。

「惚れるなよ」

 兄の手が私の頭をぐりぐり撫でた。

「恋愛って楽しい?」

 おーい、返事がないよ。仕方がない言い方を変えるか。

「にいにはその人といると楽しい?」

「そうだな・・・結構楽しいな」

 良かったよ否定しないでくれて、でも微妙な答えだね。

「会ってみたいな。もしかしたら将来私の義姉になるひとかも」

「・・・そのうちな」

「いつ?」

「だからそのうちだって」

 私は兄の顔を見上げる。その表情はなんだかとても苦しそうな感じです。

「待ってるよ。にいにが紹介してくれるの・・・大丈夫、私気が長い方だから」

 兄に負けないくらいのスマイルを向ける。

「俺だけの美憂でいて欲しいから当分会わせない」

「なにそれ」

「言葉そのまま」

「心配しなくても、私はにいにの美憂だよ・・・」

 来人は困ったように息をつき、美憂を抱きしめる。

「わかってる。でも・・・」

 聞き取れなかった兄の言葉の続きを聞きたかったが、襲ってきた睡魔によって私は確かめる事ができなかった。

「美優?」

 来人は自分の腕の中で寝息をたてる妹の姿に微笑む。

「いつかは離れていくんだよな・・・ずっと、誰も好きにならなきゃいいのに」

 妹の幸せを願いつつも離れていく現実をまだ受け入れたくない来人。美優の髪を撫でながら来人も瞼を閉じた。


 高層階の窓から見える夜景。

 玲生は窓際に立ち、人差し指で己の唇をなぞる。

「もっと、ふれてたかったな」

 観覧車のゴンドラの中、彼女の唇に触れた指先を玲生は思い出す。

 スカウト対象の妹。最初は聞き流していた来人の妹の話を気になるようになったのはいつからだろうか。

来人が話す彼女はかわいいの連発、そして家族思いのお兄ちゃん子。自分のコンプレックスに対して改善しようと努力を惜しまない一方で、下手に手をださない慎重派。

 どうやったら彼女に会えるかなと思っていたら、お見合いの話が実家の方からきてそれが偶然にも橘家からのものだった。その時の驚きと嬉しさは今思い出しても僕の胸をドキドキさせる。それに来人に借りを作りたくはなかったし、ていうかあの兄は絶対僕が頼んでも会わせてくれなかったよきっと。

 初めて会った美憂ちゃんはふつうにかわいい子。家族が大好きででも兄の来人の構い過ぎには少し困ってる感じで・・・妹のはずなのに来人を包み込むように優しく見つめる瞳。その彼女の瞳に僕も見つめられたいと思った。で、その場で結婚を前提とした交際宣言。

 あの日の彼女の言葉が僕の心を締め付ける。

『私の初めての恋愛が立野城さんになりますね』

 彼女の恋愛に関する全ての事が僕基準。責任重大だがすごく嬉しいのも事実。

 玲生は窓ガラスに映る緩んだ頬を引き締める。

「でも、美憂ちゃんは僕をまだ好きになってない」

 今日彼女は僕の事を嫌いではないけど好きになってもいないと言った。

「どうしたら好きになってもらえるかな」

 玲生は両手を見つめる。ゴンドラの中で抱きしめた美憂の身体。

「僕はもう・・・キミが最後の恋だと決まってるよ。だから」

 両手を握りしめ玲生は息をつく。

「やっぱり、キスしたかったな」  

 

 眠りに沈んでいく意識の中、私はふと思った。美憂の初恋はいつだったのだろうと。

 

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