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好きという気持ち

「あ・・・中までぐちょぐちょ」

「一緒に、いこうか」

「んっ・・・」

 会話だけ聞くとなんかピンクな感じですが、種明かしは数時間前の話に戻ります。

 週末の水族館。お見合い後初めて立野城さんとお出掛け、もちろん兄の来人も同伴。

 兄曰はく『2人きりなんてもってのほか』。まあ、私も美優としては家族以外の男性と出掛ける事など初なので兄がいてくれるのは安心。これでいいのかなと思うところもありますが、そのうち兄も離れていくでしょう・・・多分。

 仲良く三人で館内を見て回り、イルカのショーを見ていた時でした。

 バシャーン!

「・・・うそ」

 濡れてもいいようにカッパ被り、座席も真ん中より後方に座っていたにも関わらず思った以上の水しぶきが3人を襲いました。

「大丈夫か美優」

「うんっていいたいけど」

「そうですね。これは大丈夫の範囲を超えています」

「ぷっ、くく」

 自分を含め3人ともずぶ濡れの様子に私は笑ってしまった。

「確かに笑うしかないけど、このままだと気持ち悪いし風邪引くぞ」

「にいにどうする?」

「車に着替えがあるから持ってくるよ」

 私と立野城さんは兄を見る。

「にいに、着替えって」 

「不測の事態に備えていつも用意している。ここで待ってろ」

 走っていく兄。

「さすが橘警備の方ですね」

「立野城さん、それって褒めてます?」

「・・・もちろんです」

 間がありましたが、まあいいでしょう。

「クシュ」

 半分屋外の会場は海風が流れ込んでくる。まだ初秋とはいえ、濡れた体には冷たい。

「移動しようか」

 頷き席から立ちあがると水が滴る。

「あ・・・中までぐちょぐちょ」

「一緒に、いこうか」

「んっ・・・」

 と、最初の会話になる訳です、あしからず。

 数分後、兄のおかげで着替えを終え私達は館内に併設されたカフェでお茶をしておりました。

「本当なら風呂にでも入ってさっぱりしたいところなんだけどな」

「うん。拭いたけどちょっとぺたぺたするね」

「今日はもう帰るか?」

 兄が私と立野城さんを見る。

「う~ん・・・」

 帰るにはまだ早いと私は思っているのだが、立野城さんはどうなのだろうか。ちらりと彼を見ると目が合った。

「遊び足りない?」

「でも・・・」

 立野城さんは自分で起ち上げた芸能プロダクションを運営している。いわゆる若手社長だ。本当なら休日ぐらい体を休めたいのではないのだろうか。

「美優。こいつの心配はしなくていい。無理して美優に付き合う程、器用な奴じゃない」

 兄よ・・・あなたは立野城さんのなんなの?

「遊び足りないと言うか・・・まだ、一緒にいたいかな」

「かわいいな」

 来人と玲生の声がはもる。

 えっと、兄が言うのは何となくわかるのですが、立野城さんまで・・・。

「玲生、お前が言うな」

「つい、声に出てしまいましたね」

 これもモテキと言うのだろうか。いや、一人は実兄だし。

 ところでこれって初めてのデートっていうのかな。あれ、そもそも恋愛なのかこれ。う~ん・・・。

「美優?」「美優ちゃん?」

「あっそうか」

 私は大事なことを忘れていた。


 観覧車のゴンドラの窓から水族館のイルミネーションが見渡せる。まだそう高くない窓から下を見れば来人の姿が見え、なにか叫んでいた。

 観覧車の中、美優と玲生は向かい合わせに座っていた。

「どうしたの、話しってなにかな」

「あの・・・」

 どう聞けばいいのかわからない。

「来人さんが心配してるね」

 立野城が下の様子を見ている。

「立野城さん」

「うん?」

 立野城さんは優しく私を見て首を傾げる。

「・・・好きですか、私の事」

 そう、恋愛って人を好きになって初めて成立するものだと思うのです。今更ですが。

 心臓の鼓動が速い。懐かしき胸の痛み・・・狭心症ではないよね。

 立野城は少し思考し、

「美優ちゃんは、僕の事好き?」

 問いに問いで返さないで。

「嫌いではないです・・・でも、まだ好きでもないみたいな」

「正直」

「・・・で?」

「そうだな、僕が最初に興味を持ったのは来人さん」

 もしかしてあの世界ですか。私好きですよ前世も今も。美優の部屋の本棚の奥に並んでおります。

「期待を裏切るようで悪いけど、そっちじゃないから」

 あ―残念。

「顔にでてる」

 すいません。

「来人さんをうちにの事務所に欲しかったの」

「スカウトてことですか」

 立野城は頷く。

「でも全然」

「にいにはそうゆうのに興味ないでしょうね」

「そう。来人さんが見てるのはキミだけ。彼に会って話をするたび美優ちゃんの話ばかり」

 恥ずかしい・・・って言うか兄の話では立野城さんの事は名前を知っているだけで会ったことは無かったはず。なにやら隠し事の匂いが、後で問い詰めてあげよう。

「そのうちその子の事がきになりだしたんだ。そんなに可愛くていい子なら会ってみたいなって」

 兄よ、なにを言ってくれているんですか。

「そう思ってたら、お見合いの話が来たんだ。まあ、京都の実家の方にだけどね」

「・・・会ってみて、どうでしたか」

「驚いたよ。来人さんの話が本当だったから」

 私の周りの人なんか変じゃない? 本当にそんな話ってある? 

「橘警備の娘っていうところは?」

「そこ気にするんだ」

 気にするなと言う方がどうよ。今でも言うかわからないが逆玉でしょう。

「僕は・・・美優ちゃんに興味がある。キミが大会社のお嬢さんで僕の手が届かない人でも、気持ちが君に傾いてる」

「それって、好きってこと?」

「どうかな」

 おいっ!

 2人が乗っているゴンドラが天辺にさしかかる。

「美優ちゃんはまだ僕をすきになってない。若干僕の方が・・・」

 立野城さんの腕が伸びて、その手が私の頬に触れる。

「恋愛って難しいよね。でも、片思いはしたくない」

「辛いからですか?」

「片思いが辛いってどうしてわかるの? 誰か好きな人がいたのかな」

 むかし昔の話です。

「本の中の話ではそうだから」

「なるほどね」

 立野城の指が美優の唇をなぞる。

「・・・欲しいな。だめかな?」

 どう答えればいいんだこれ。

「出来れば我慢してほしいです」

 近付きつつあった立野城の顔が止まる。

「私が貴方を好きになるまで」

「好きにならなかったら?」

「・・・そんな事、考えたくないですけど」

「ああっもう」

 玲生が美優の横に移動し、その腕に抱きしめる。

「本当に困るんだよね。そんなに可愛いと」

 一体どこが可愛かったのかわかりませんが、立野城さんの腕の中にドキドキしちゃいます。


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