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不安な奴は読め。  作者: こども
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なし8

 人をいじめたことがあった。中学時代。成績は良かったし部活も真面目にやっていた。先生から好かれていたし友達もきっといたし彼女もいたりいなかったりだった。学校は嫌いじゃなかったしある程度の我儘は貫き通せていた。不満なんて特になかったけど、漠然と退屈だったし、寂しかったし、怖かった。実はクラスの優等生は嫌な奴だったというよくあるオチだ。一応言っておくが、懺悔したいわけでも、反省の表明でもない。ただただ、クズ人間の思考を思い出しながら書いていこうと思う。

 

 言葉と同じで、嫌がらせだろうといじりだろうと、受け取る相手次第だ。結果的に相手の身体が、心が傷つけば、死ねば、それはいじめだ。最初は退屈だったからからかっただけだった。それがほんの少し、今思い返してもほんの少しだと思う、エスカレートした。相手は女の子だった。面白かった。なぜかは分からない。人を馬鹿にするのは気持ちが良かった。先生のご機嫌をとるのもテストでいい点を取るのもクソだったが、それは面白かった。自分が上だった。強者だった。周りも笑ってくれた。自分は勇気のある面白い奴だった。


 何の前触れもなく、復讐は始まった。怖くはなかった。私一人に相手二人だったからだ。私の嫌がらせも、相手の復讐も、日々エスカレートした。だが、向こうの怒りを舐めていた。完全に甘く見ていた。これほどまでに人は執念深く、残酷になれるのかと、そして私がそれを引き出してしまったのかと、初めて恐怖した。負けた。そう思った。私は嫌がらせをやめた。向こうはやめなかった。眠れない日が続いた。なぜだか分からないが涙が出た。


 全部錯覚だったと、この時初めて悟った。


 あの面白さはとんでもないものを代償にして生まれたものだった。中学生のゴミのような頭脳では到底理解できぬほど真っ黒で、真っ赤なものと引き換えに、私は快感を得ていたのだった。誰より最低で臆病なのが私だった。端から見ていた奴らは、とっくにそんな風に見ていたのだろうか。


 私は先生、親、兄弟の誰一人にも本当のことを言わなかった。被害者面を貫き通した。結果的に皆私を信じていたし、私を守った。涙を流せば慰めてくれたし、相談にも乗ってくれた。


 この時思ったのは、「ごめんなさい」でも「バレませんように」でもなく、「何もかも全部ゴミだ」、だった。こうなったのは私のせいだ。彼女は当然のことをしたまでだった。私はどうだ。死刑を下されても文句が言えない罪人だったにも関わらず、口八丁で無罪放免、お咎めなしのアフターケア付きだった。裁判官も陪審員も私の味方だった。不思議と一ミリも嬉しくなかった。ホッとすると思っていたが、逆だった。裏切った罪悪感も、彼女への贖罪の気持ちもどうでもよかった。ああ、この先一生、クソだクソだと罵倒しながら生きていくんだ、と思った。人の信頼なんて、簡単に裏切れるのだから。


 その日から、あんなに好きだった学校も、先生も、友達も、全部嫌になった。便所には尿と糞しか集まらないのだと思った。綺麗事と真直ぐな目を見せれば、何とかなってしまうのだ。人は信じたいものを信じるのだ。善も悪も、真実も嘘も、誰一人興味がないのだった。端から見ていた奴らも誰一人告げ口をしなかった。こんな世界終わってしまえ、と世界で最も醜い生き物は思った。


 「何もかも嘘」


それが唯一経験から得たことだった。私がした悪事も嘘になってしまったのだから。誠意一つで何とかなってしまったからだ。結局私は一度も彼女に謝らなかったし、卒業以来一度も会っていない。生きているのか死んでいるのかも分からない。どうでもよかった。反省も後悔もしていない。私と彼女だけの真実は、もう永久に誰にも届かない。


 信じれば真実、疑えば嘘。疑っても真実、信じたら嘘。万全の証拠も当事者の証言も、全て主観と妄想。口に出して耳に入ったら、もうそれはまったく別の話だ。この話は全部作り話。思春期の夢。どうか人間に気をつけて。さよなら。

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