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不安な奴は読め。  作者: こども
7/138

なし7

 嘘ばっかだ、全部。最後に泣いたのはいつだったか。幼い頃なんて、誰もが悲しい思い出しかないんじゃないのか。


 周囲への迎合。くだらない有象無象。自分はその筆頭にすらなれない、紛い物。私は私だ。偉くも良くもなんともない。もう電車にも乗らなくていいんじゃないか。携帯のアプリなんて全部アンインストールしていいんじゃないか。MacBookもWindowsも窓から投げ捨てて、ナイキもアディダスもドクターマーチンも履かなくていいんじゃないか。BEAMSもURBAN RESEARCHも着なくていいんじゃないか。化粧もしなくていいんじゃないか。ダイエットも自撮りも荷物も車も家もなにもかも、いらない。私たちは本当は何一つ必要としていない。死ぬほどスマホを眺めるのは現実を見たくないからだ。死ぬほど寝るのは死にたいからだ。帰る場所なんてなくなってしまえば、なにも悲しくないんじゃないのか。贅沢なことなんて、生きているだけで十分じゃないのか。嘘嘘嘘、時々紛れる糞。もう明日なんて来なくていいんじゃないか。明日っていつだ。24時間後か、寝て起きたら明日か。日が沈んで出てきたら朝か。どうでもいい。心底興味ない。時計なんてなくなってしまえば、もう誰も遅刻しなくて済む。もう誰も寝坊しなくて済む。電車も遅延しなくなる。時計さえなくなれば、もう誰1人、いなくならなくてすむ。

 

 例え全員死んでしまっても、誰も気づかなくなる。


 夢を見る。灰と化した東京。笑い狂う人々。性器以外何一つとして身につけていないありのままの姿でゴキブリのように駆け回る地獄絵図。街灯も照明もないのに、見える。血だらけで傷だらけで煤にまみれた少年少女。笑顔を絶やさずビルを壊し続ける老人。みんな楽しそうでみんな幸せだ。幸せだ。サラリーマンはスーツとネクタイとワックスをゴミ箱にぶちこんで火をつける。OLは化粧品もブランドのバッグも机も制服も全部東京湾に投げ捨てる。全裸で闊歩する愉快な大人たち。みんなが勃起してみんなが液を垂らし、誰もセックスなんてしないそんな深夜2時30分。きっと楽しいだろうな。駅員は電車を便所にし、運転手はバスをガス爆発でぶっ飛ばす。警察はパトカーを最高速度で走らせる。信号無視の速度制限無し。取り締まり無し。もう誰も泣かない。誰も悲しまない。世界中一体となって世界を敵に暴れ回り続ける。最低で淫らで感動的な夜。7日目の夜の蝉のような最高の悪足掻き。


 数時間後、やるだけやって全員死ぬ。一人残らず、土に還る。ミサイルの発射予約でもしておいて、跡形もなく消し去る。もうこれで誰にも語られない。映画にも小説にもならない。アカデミー賞も取れない。芥川賞も取れない。


そんな綺麗な、私たちの唯一の物語。

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