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不安な奴は読め。  作者: こども
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新世界より

 太陽に照らされ、色を取り戻した世界に僕はいる。体の奥底の腐ったものが蒸発していくような、そんな感覚に包まれて。若干の花粉症と、消えない痛みを引き連れて、それでも少しだけ前を向いている気がする。気がするだけかもしれないけれど、気がしなかった頃に比べたら大きな変化だと思う。


 新年度、新学期、新しい出会いに新しい生活。誰もが何かしらの淡い期待を抱かずにはいられないこの季節に、やはりたくさんの命は失われた。少なくとも僕の乗った電車は4日連続で人身事故で大幅に遅延していた。


 「この一年はどんな一年になるだろうか」、「昨年遂げられなかったことを今年こそは」、そんな思いを馳せている僕たちの傍らで死んでいった人々がいる。最後の桜を眺め、死んでいった人たちがいる。


 青春が終わり、人生が始まった人がいる。なんとなくという理由で電車に飛び込んだ人もいる。


 僕は生きている。なぜかわからないけど、なぜか生きている。必死に、毎日なんとなく生きている。笑いたいと思って生きている。美しいものに出会いたいと思って生きている。時には泣いて、情けなく暴れて、机も壁もぶっ叩いて、自分以外全員死なないかなと思って生きている。会いたい人がいる。会えない人がいる。悔しいことばっかで、ムカつくことばっかで、些細なことで何をする気力もなくなってしまうこともある。失ってばかりで得ることはなく、8年前の傷は未だに癒えず、一度も立ち上がれない一日もある。全く絶望しないことなど、誰にもできはしない。


 それでも冬は始まり、終わった。かじかんだ心はきっと熱を取り戻す。死んだ彼らの分までなどというくだらない理由ではない。自分が自分であるために、生きているということは大したことではないと思えるように、もう一度だけ立ち上がってみようと思う。


 悔しいならば泣けばいい。眠れないなら歩けばいい。胸が苦しいなら暴れればいい。


 死にたいならば死ねばいい。


 でも、死ぬのは最後でいい。

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