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不安な奴は読め。  作者: こども
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それ、誰、俺、誰。

 11万部突破のTwitterで話題のエッセイ、1300円。11万人のうち、いったい何人がこの本を買って後悔しなかったのだろう。この本で感動する人間はきっとどんな本を読んでも感動すると、そう思った。


 嫉妬である。間違いなく。


 売れない若いミュージシャンが「日本の腐った音楽チャートをひっくり返す」と言うのと同じである。とっくに使い古されたようなフレーズも、共感を求める気色の悪い疑問符も、少なくとも僕以外の10万9999人は必要としている可能性があるのである。結果として駄文なのは間違いなく僕の方であり、無限のネットワーク網の中のカスにもなれない文字の集合体がこれだ。


 こういうことを考える時いつも矛盾に気づく。僕は金儲けを考えているんだろうか。共感を求めているんだろうか。世間までとは言わなくとも、一個人からの反応を求めているんだろうか。多分、全部その通りなんだと思う。情けなくなる。悲しくなる。バカばっかだと見下しておきながらその馬鹿どもの共感を求めているのが僕である。馬鹿に救いを求めているのが僕である。文章でも、写真でも、絵でも、なんとかして自分のこの世界で生きていけないだろうかと考えているのが僕である。おかしくなりそうだと、いつも考える。それも悪い方向にだから救いようがない。いつか僕はおかしくなるんだろうと思う。何か僕の中のよくないものがよくない方へ爆発するんじゃないかという予感がする。


 「寂しい」というのを「寂しい」としか表現できないから素直になれない。他人に優しくするには他人に嘘をつかなければ。甘い嘘を。自分に嘘をつかなければ。本当の自分なんて誰も求めていない。本音なんて誰も求めていない。縋れる嘘を、都合のいい嘘を、明日にはついたこともつかれたことも忘れてしまうような嘘を僕たちは求めている。嘘つきが必要とされる。僕はとんでもない馬鹿じゃないはずだから、相手がその時欲しい言葉くらいある程度わかっているつもりだ。


 僕の嘘を必要とされても、僕は必要とされていない。僕じゃなくていいのだ。当たり前だ。嘘をついて優しいと言われても、苦しいだけで、また独りになるだけなのに。また傷つくだけなのに。僕がどんなクズ人間なのか知っているのだろうか。おかしくなりそうだ。他人と話すと自分が全否定されている気分になる。優しさと甘さはいつも優先される。いつも必要とされる。それがわかっている。おとなしく諦めれば、迎合すれば楽になれることもわかっている。机をぶっ叩きたくなる。パソコンごとぶっ叩きたくなる。黙れと思う。どいつもこいつも黙れと思う。頼むから黙ってくれと思う。


 「会いたい」も「かわいい」も「終電ある?」も「髪切った?」も「今日の服似合ってる」も何語かもわからないお品書きも「彼氏に怒られないの?」も「寂しい」も「ちょっと休んでから帰ろう」も「もっと自信持ちなよ」も「モテるでしょ」も「歩ける?」も「すぐ彼氏できるよ」も全部全部ぶっ壊れろ。そんなに欲しいか。そんなに相手のせいにする口実が欲しいか。人のせいにしないと恋愛もセックスもできないのか。恋愛指南書の最初の10ページに全部書いてある。そんなもんで大事な身体も心も好き放題にされて、もう、悲しくなる。


 「こう思うの俺だけ?」も「共感する人いいね」も死刑にして、『眠れない夜は大好きな人に電話するためにある』も死刑にしたら、いくらか平穏にならないだろうか。


 もう、いいやお前ら。僕が馬鹿でした。


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