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不安な奴は読め。  作者: こども
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21年後、雲の上で

 空は高い。絶望するくらいに。世界は広い。広すぎて窮屈だ。得てして自由とはいつも窮屈だ。


 学校の帰り道、夕焼けに染まった私はランドセルを背負ったまま土手の砂利道を走った。誰かが水色とオレンジの絵の具をこぼしてしまったのだろうか、空はいつもより眩しかった。その中を自由に泳ぐ飛行機が羨ましくて、息を切らしながら私は追いかけた。「日本では20秒に1人、人が死んでいる」って、今日先生が言っていた。とても大切なことのような気がしたけど、やっぱり違うと思う。何人死んでも、空はこんなにも綺麗だから。オレンジが私と世界を染めた。それは支配と呼ぶにはあまりに繊細で、包容と呼ぶにはあまりに無慈悲だった。


 飛行機を追いかけながら、私は自分の将来を考えた。私は死ぬってこと。33歳で私は死ぬ。このあいだ12歳になったばかりだから、後、21年。なんでわかるかって、私は未来がみえるから。例えばお母さんはあと2年後に亡くなる。こんなに大好きなのに、いなくなってしまう。そのすぐ後に、お兄ちゃんは一人暮らしを始めて家を出て行ってから、一度も連絡を取れなくなってしまう。お父さんは一人で私を育ててくれるけど、仕事との両立はやっぱり大変みたいで、どんどん痩せていくし、よく分からない薬も飲むようになって、入院もする。あんなに賑やかだった家に残るのは私だけ。あとは、もういいでしょう。もちろん楽しいことだってたくさんある。


 今までだって一つも外れたことはなくて。だからこれからのことも実現するだろうし、21年後、絶対に死ぬんだと思う。自分の未来を知りたいっていう人は意外と多いけど、それほどいいものじゃない。それでも空はこんなに綺麗だから、少し走りすぎてしまった。あと21年あるから、それまでに綺麗なものを綺麗という言葉以外で喩えれるようになりたい。このオレンジと水色の空を一生覚えていられるような、そんな言葉がどこかにあったらいいな。


 未来を知っても何も変わらない。ただ優雅に、残酷に、日々が待ち受けていることに気づくだけ。だから私ものんびりと、できるだけ笑って、できるだけご機嫌に、それでも時々ちゃんと泣いて、生きていくだけ。


 あなたがもし明日死ぬなら、あの遠い空の、淡い雲の上で、21年後また会いましょう。

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