夜と過去 2
高校三年生冬、はっきりと、ぼんやりと、覚えていることがある。すっかり厚着になって、センター試験も本格的に近づいてきた頃の友達とラーメン食べた帰り道。関東。うるさいイルミネーションに囲まれた繁華街の交差点。赤信号待ち。先頭から2番目に並んでいた。時間帯的にサラリーマンや、私と同じ学生が多かった気がする。
遠くか、近くか、凄まじい音が聞こえた。何かが爆発したかのような。瞬間、目の前の交差点に何か黒いものがぶっ飛んできた。人だった。あまりうまく思い出せないけれど、関節とかこんな曲がり方するんだ、とのんきに思った。
群衆を抜けて、気づいたら走り出していた。ドラマの撮影とか、ドッキリとか不思議と考えなかった。ヘルメットはどっかに飛んでて、顔とか手とか赤かったけどどこから血が出てるかももう分からなかったし、生きているかも分からないし、動かしたら死ぬかもとか考えてた。ふとさっきまで自分がいた群衆を見たら、スマホ画面を横向きにして、フラッシュたいてた。
パシャ やべー 運がいいなあ ニュースになるかなキャーーーーーーーーーーーー119番ヴーーンパシャパシャヤバイどうした死んでる? ウケるパシャパシャ ニヤニヤ
その場で吐いた。せっかく食べたラーメン。理由はわからない。通りすがりの車はクラクション鳴らしてた。誰もあの人を助けてくれなかった。私も一ミリも使い物にならなかった。
正直あんまり覚えていない。そのうち救急が来た気がする。私もどっかに運ばれたが、途中で何回か吐いた。口も喉も胃も全部熱かった。それ以外は冷たかった。
命、退屈、常識、スーツ、目、カメラ、病気、金、幸福。そういうものが全部どうでもよく、どうしようもなくなってしまたのは多分この日から。幸か不幸か、私の倫理はぶっ壊れた。裕福な国。戦争のない国。先進国。
どれだけ努力しても、悲しい目に、嬉しい目にあっても、結婚しても家族が増えても、親が死んでも就職してもセックスしても整形しても、何歳まで寿命が延びても、足元にある小さな幸せに気づいたって、一生お前らは絶対幸せになんかなれない。ならない。
今でもあそこにいた全員、私含めて死んでしまえばいいと本気で思っている。




