冬眠したっていい。
朝、外に出ると吐息が白い。自転車なんて漕いだ日には顔面も耳も手も痛くて、肺に入ってくる冷気で寝ぼけた頭が冴える。体内と外界の温度差で自分が生きているんだと実感する。蝉も蛙も鈴虫も眠っているのか、死に絶えたのか、もう声も聞こえない。11月が終わる。いよいよ人間の季節がやってくる。
布団から出るのが億劫なのは人間にしかない悩みである。たったこれだけのことでも十分大問題であって、朝起床し暗くて冷たい部屋の中で身支度と食事を済ませるという一連の義務は、意外と人間を殺せるものである。現実に赤道付近の国々では鬱病というのは珍しい病気だという。太陽光と気温は思っているより大事で、干したばかりの布団の温もりとダニの死骸の匂いは命を救う。
夏に絶望し秋に全てを諦め冬に感情は死に切る。長い長い3ヶ月が始まる。今年は生きていられるだろうか。冬眠する種族に生まれたかった。死にたくなったら朝焼けを見る。日向ぼっこをする。星を眺める。湯船に浸かる。日付が変わる前には布団に入る。朝は30分早く起きて暖房をつけて2度寝する。毎朝ちゃんと汁物を取る。5分早く家を出る。そういうどうでもいい積み重ねが大事だったりする。やりたくないことなんか最悪やらなくていい。生きていればいい。運良く3月まで生きていたらまたやり直せばいい。いくらでもやり直しが効く。何がどんなに最悪の状態になったとしても、大丈夫。ただ生きていればいい。
冬っていうのはそういう季節。今年もがんばろう。




