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不安な奴は読め。  作者: こども
113/138

軽率に。

 死ぬ程モテなかった過去がある。死ぬ程。今思えば夜眠れず、金がないから美味しいものも食べられず、異性にはフラれた経験しかないなんていう状態では真っ当に生きるなんて土台無理な話である。男子校出身が悪い方に作用したパターンの、完全な拗らせ学生だった。この日記を書き始めたのも鬱憤がピークに達した時だったように思う。


 それなりにお洒落もしていた。こだわりなんかなかったからひたすらに異性に受けが良いものを選んだ。髪型も知り合いの美容師さんに切ってもらったりしていた。たぶん見た目で言えば十分だったはずだ。暇だったから見た目ばかり磨いていた。一向に恋人はできなかった。原因はわからなかった。


 人間は見た目か中身かという話がしたいわけではない。そもそも中身なんか気にならない程の容姿をもっている人以外、見た目よりも誠実な中身を持っていなければいつか飽きられる。


 なんとかして愛されなければならない。恋人がいなくても幸せな人たちはたくさんいる。僕は生きていけなかった。頼れる人がいないならせめて慰めてくれる人が欲しかった。無条件じゃなくていいから優しくしてくれる人が欲しかった。そのためには軽率に連絡したり、会う約束をしたり、電話をかけたりするのが手っ取り早かった。返ってこないならさよならするしかなかった。赤の他人に無償の愛を求めるのは馬鹿である。軽率に愛してしまうのが一番手っ取り早い。人間不思議なもので自分に好意を向けてくる異性は素敵に見えるものである。


 結局浮気症になった。何がしたかったのかはよくわからない。

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