△短編:とろっころっこ
どうぞ宜しくお願いします
「トロッコ問題ってあるじゃん?」
「うん?どうした藪から棒に」
朝の、授業が始まる前のこの時間はいつも和也とくだらないことを話している。今日の話題はどうやら、和也が言い出した「トロッコ問題」のことになるようだ。
トロッコ問題というのは、ざっくりこんな感じだ。
電車が通るレールの上に五人の人がいます。この人たちは訳あってそこから動けません。あなたはそれを見ていますが、助けるよりも前に電車が来てしまいます。あなたの横にはレバーがあり、それを引くことで電車の通るレールを変えられ、五人を助けることができます。しかし、変わったレールの先には動けない人が1人います。あなたはどうしますか?
自分の手を汚して一人ではなく五人を助けるか、見て見ぬ振りをして五人を見殺しにするか、というような心理クイズみたいなものだ。
「そうそう、それそれ。昨日姉ちゃんと話してて話題に上がったんだけどさ、ろっきーならどうする?」
「僕?僕は…そうだな、多分レールを引くだけ引いてその場から逃げるかな」
「あー、責任は取りたくありませんってやつ?日本人特有の?」
「結末は見たくないな。え、やっぱダメかな?」
「ダメだな、ダメダメ」
「和也だったらどうすんだよ」
「俺はまず五人見殺しにする」
「そっちか」
「んで、ロードしなおして自分の手を汚して1人殺すエンドも見る」
「ゲーム脳かよ!」
「エンドは回収しときたい」
「ゲーム脳かよ!」
「そして三週目にトゥルーエンドが!」
「おお、救いの手がはいる!?」
「いや、電車が通る瞬間にレバーを引いて、電車を脱線させて全員死ぬ」
「最悪の結末だ!サイコパスのゲーム脳かよ!」
「リセットボタンを押せば全部元通りになると思った」
「ゲーム脳かよ!」
「でも、現実にリセットボタンなんてないのさ、ろっきー…」
「ゲームの…お、おお、急に現実的だな」
思わず流れで、ゲーム脳かよ!って言おうとしちゃったよ。
「その一人が和也だったら迷わず引くのにな」
「引かないでよ」
「んで、その場から逃げる」
「せめて結末見てってくれよ!」
「なんの話してるの?」
そんなふうに、盛り上がって…というか盛り下がっていると、トコトコという足音と共にやって来た部長こと、中村光に話しかけられた。
「あ、部長。トロッコ問題って知ってる?」
かくかくしかじか。トロッコ問題について説明する。
「へえ、面白いね」
「部長だったらどうする?」
和也が部長に聞いてみる。
「そうだね、俺だったら…」
部長はテストでもいつも上位者に入っている天才だ。これは答えが期待できるんじゃないか?
「持ってたカラシニコフで運転手の頭を撃ち抜くかな」
「ゲーム脳だったよ!」
「ヘッドショットで一撃で仕留めてみせる」
「サイコパスのゲーム脳だったよ!」
「レールを引いて一人殺すと言ってもあくまで間接的にだろ?だったら僕が直接的に殺して電車を止めて、その罪を背負って生きていくよ」
「度胸のあるゲーム脳だ!」
「てか、運転手殺しても電車止まらんくね?」
僕らの友達なのだから真面目なわけがなかった。
いや、信じたくはないけど!
電車が止まらなかったら、部長、ただ五人の人間が電車に轢かれて死ぬかどうかって時に、その電車の運転手にヘッドショットぶちかましただけのやばいやつになっちゃうからな…
さすが、どこの部活の部長でも無いのにクラスのみんなから部長って呼ばれてる男は違うぜ…!
「そっか、止まらないか、だったら…」
「だったら?」
「まず五人見殺しにするでしょ」
「ふんふん」
「それから、ロードしなおして自分の手を汚して五人を助けるエンドもみるかな」
「おっ、話が合うな 」
「クソッ、正気なのは僕だけか!?」
キーンコーンカーンコーン♪
予鈴が鳴った。
本日はこれにて終幕だ。
中村くんはなんで部長って呼ばれてるんでしょうかね