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第七話

 二ブラスの狙い通り、勇者は竜王の城に潜入していた。


 どこまでも続く薄暗い地下道、下水が流れる音を聞きながら少数精鋭の兵士らが駆ける。


 松明も掲げず、駆ける彼らの真ん中に守られるように少年がいた。


 その少年こそ、人々の希望にして、勇気の証。


 竜王を倒す使命を帯びる少年である。


 白銀の髪、整った綺麗な顔、まさに神に愛された者と言えるだろう……実際は違っているが……。


 突然の一閃する光、剣を交える音、そして、魔物の悲鳴。


 ドサッと倒れる魔物を踏まないよう彼らは駆ける。


 横の脇道から突然、巨大なミミズが現れる。


 考える隙も与えず、一人の帝国兵が丸のみさせた。


 動揺する。


「くそッ?!!」


 仲間の仇を取ろうと別の帝国兵が剣を構える。


 しかし、赤いマントを羽織った隊長各の男がその帝国兵の肩を掴む。


「足を止めるな!! 進め!!」


 勇者も喰われた兵士を一瞥しただけで、真っ直ぐに進む。


 ボロボロになった身体を押しながら少年は駆ける。


 世界の平和を勝ち取る為には、その小さな犠牲は仕方がない。


 悲鳴が聞こえるが、それは聞こえないことにする。


 また別の帝国兵が罠にかかる。


 天井から無数の槍が降ってきたのだ。


「竜王に気が付かれたのか?!!」


 思わず、隊長が焦って叫ぶ。それを勇者は否定した。


「これは単純な罠です!! 恐らく、ここを通る予想してのこと。まだ竜王にはバレてはいません!」

「なぜわかる?!」

「バレて居たらすでにここには魔物で溢れているはずだからです! とにかく今は時間がありません!! 急ぎましょう!!!」


 そういって、勇者は帝国兵の守る隊列から飛び出した。


 後に帝国兵が続く。


 勇者は胸が痛かった。


 数多の物語、残されている伝説にこんな惨めな勇者がいるだろうか?


 たくさんの兵士に守られ、自分が戦うわけでもなく誰かに戦わせている。


 こんなところに単身で行くこともおかしなことだ。


 だか、今回は違った。


 いつも後方でいる勇者は後ろめたさを感じていた。


 それを知ってか、女帝二ブラスが前線に出ることを助言した。


 当然、無理な話だ。前線に出たらすぐにでも殺されてしまう。


 なぜなら勇者は兵士以下、剣もまともに扱えない。 


 たが、彼女は言った。


 帝国最強の護衛隊を付けるから、と。竜王を倒すのも護衛隊に任せればいい。


 そして、自分が倒したと言えば、国民も納得するだろう。


 そんなこと、人として許されることではないと思っていた。


 しかし、混沌の時代、暗い闇に包まれた人々は希望を求めている。


 その希望が最弱な者だとわかれば、人々は取り戻しつつあった勇気がなくなってしまう。


 だから、勇者は彼女の提案をのんだ。 


 勇者は息を切らせながら長くて薄暗い地下道を進み続け、ようやく人工的な通路に出た。


 二ブラスが言った通りだった。


 ここが竜王の城と外へ通じる抜け道だったとは。


 しかし、疑問に思った。どうして、彼女はここの道を知っていたのかと。


 考えている暇はない。


 竜王に気が付かれる前に見つけなければならないのだ。


 薄暗い廊下に出て、はなにか瘴気のようなものが漂っていた。


 紫の霧が勇者を覆い、それにあてられて意識が途切れそうになる。


 頬を叩き、意識を集中させ、竜王がいる部屋を探した。


 竜王の居城に潜入した。


 そこに待ち受ける壮烈な戦いを予想していた。


 だが、不思議なことに魔物とあまり出くわさない。


 廊下の角でうっかり出くわした魔物でも、こちらの存在を知らなかったようで、驚きとどまり、不意打ちを突くように勇者でも簡単に倒せた。


 斬り捨ては進み、斬り捨てては進みと竜王がいる部屋を目指した。


 叫びたくなる。竜王はどこだ?!と。城に潜入してから既に数刻が経っているのに。さっきから同じところをぐるぐる回っているような気がしてきた。


 同じ光景をずっと見ていると脳が混乱してしまう。


 ふと後ろを振り向くと自分に付いて来ていた護衛隊が居なくなっていた。


 進むことに集中し過ぎて、護衛隊とはぐれてしまったようだ。


 しまった。そう思うしかない。


 自分には竜王なんて倒せるわけがない。


 でも彼らを探す時間もなかった。


 足をばたつかせ、どうするべきか、悩んだが、意を決して、竜王を倒すことを決めた。


 戦い方を知らない。


 でも、知識だけは誰にも負けない自信がある。


 それをなんとかしてフル活用したら、もしかしたら……と浅はかではあるが、勝てると思った。


 戦っている間に援軍が来ることも期待していた。


 数分持てばいい。やつをここに留めておけば。


 なら、戦わなくてもいいのでは……? 時間稼ぎの話をすればいいのでは?


 勇者の頭の中にたくさんの言葉が出てくる。


 大きな廊下に出たところで、さっきまでとは違う空気に勇者は息を呑んだ。


 ついにこの辺りに竜王がいる、と察した。


 不意を突かれないために神経を尖らせ、周りを警戒する。


 両方に伸びる通路には誰もいそうになかった。


 護衛隊をここで待つ、という手もあるが、それでは、やがて見つかってしまう。


 意を決して、一人、竜王の部屋に入ることにした。


 勇者は傷だらけになった身体を押し、血がついた手で、もたれかかるようにして、大扉を押し開けた。


 重たいものが動く音がする。


 開き切ったところで、目の前に広がったのは広い空間に天井から黒い旗が吊り下げられていた。


 竜王の横顔を刺繍したその黒い旗が風に揺れ、不気味の悪い雰囲気を出す。


 薄暗い場所だ。


 だが、唐突に手前の両脇にあった篝火に火が灯る。


 勇者は驚くように左右を見渡す。


 肝が冷えた。胸が締め付けられる。


 恐怖だ。恐怖が勇者を支配した。


 一列に並んでいた篝火が順番に火が灯っていき、手前から奥の方へ向かって明るくなっていく。


 赤黒い長細い絨毯の先には長い階段があり、そして、玉座があった。


 玉座に誰かが座っている。


 頭には曲がった角が二つ。


 華奢な身体だったが、すぐに竜王だとわかった。


 足を組み、優雅に座るその姿に思わず魅了されそうだ。


 勇者は頭を振り、迷いを断ち切る。。頬を叩き、気合を入れ、歩む。


 靴の音が響き渡った。


 竜王は玉座に座ったまま、勇者を見下ろす。


「おぉ来たか……」


 驚くこともなく、落ち着いた声に勇者は冷や汗を流す。


 そこで自分がここにきていたことがバレていたと悟ったのである。


 だが、今は一対一だ。


 臆するな、自分、と言い聞かせ、勇者は剣先を竜王に向け叫ぶ。


「竜王、覚悟しろッ!!! 貴様はここで終わりだッ!」


 勇者の勇ましい高い声が竜王の部屋を轟く。

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