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冷血な女帝 その2

 帝国軍と竜王軍の戦いが繰り広げられている最中、近くにある薄暗い森の中、身を潜め、息を殺す一団があった。


 彼らは木々が作る影に隠れ、森に溶け込んでいた。


 時々、馬が鼻を鳴らすのが聞こえるくらいで、誰も口を開かず、口をへの字に曲げて、ただじっとしていた。


 装備からしてただの一団ではないことがすぐにわかる。 


 重圧な鎧は太陽の光を反射させないようにとフード付きのマントを羽織っていた。


 ここにいる自分たちの存在を他の誰かに知られないように気を付けていたのである。


 彼らは部隊長からの命令をただひたすら待っていた。


 そんな彼らの視線先に馬に跨る二人の騎士が同じく、戦場を観察していた。


 小柄な少年の騎士が目を細め、身を乗り出す。


「ん? あいつら、重装甲兵に正面からぶつかっていくぞ?」

「強引に攻めるつもりだろう。数は竜王軍の方が多いからな」

「マジかよ……。こんなん戦術も戦略もあったものじゃないぞ? 真面目に考える俺たちが馬鹿らしくなる」


 少年騎士が呆れたような声を漏らすと壮年騎士も口端を緩めながら落ち着いた声で答えた。


「魔物に戦い方を求めても意味がないぞ?」

「そうだけどさ……」

「こうなるように仕向けたのだ。流石は皇帝陛下。彼女の作戦通り事が進んでいる。後は我々がうまく動けば、この戦いは終わる」

「でもさ、妙だとは思わない?」

「ん? 何がだ?」

「竜王はなんでまた自分の城なんかに閉じ籠ってんだ? こんなに危機的な状態なのに、余裕ぶっこいてんの? そもそも俺さ、竜王を未だに見たことがないんだけど?」


 そう言われて見れば、と壮年の騎士も竜王の姿を見たことがない。


 少年の騎士がじょうだんめかして言う。


「実はもう死んでました、とか?」


 壮年の騎士は両肩を上げ、両手を開いた。


「さぁーな」

「結局さ、この戦いが始まったことも、どうして竜王が世界を滅ぼしにかかったのかも、なーんもわからないまま、戦いが終わるって感じだな」

「世界を滅ぼすこの理由なんているのか?」


 壮年の騎士の質問に少年騎士は苦笑いする。


「……まぁ言われてみればそうだけど。勝利を確信した皇帝のニヤける顔が思い浮かぶよ……」


 少年騎士はそう言うと腰に手を置き、ため息を吐く。


 めんどくさそうな態度に壮年騎士は何も注意はしなかった。


「……そろそろ動く。準備しておけ」

「あいあい。仰せのままに~たく、やっと戦えるぜ」


 少年騎士は腕を回し首を鳴らす。


 壮年騎士は待っていた命令が来るかもしれないと思い、皇帝ラニアスがいるカラス丘に視線を送った。


 案の定、丘の上から大きな軍旗が左右に振られているのが見えた。


 攻撃しろ、という合図だ。


 ここで、どれだけの時間を待ったことか。


 わざわざ、魔物から隠れるように森の中を進んで、迂回し、伏兵として配備させられるとは思ってもいなかった。


 自分たちが戦場の花とは思ってはいないが、自分たちが先陣を切って、戦うこそ、当たり前だと思っていた。


 だが、皇帝は聖騎士が嫌いだ。信頼におけない、とまで言った。


 まぁ、確かに嫌われる要素はある。


 我々は神の代弁者にして、代行者だ。神に代わって、悪を討ち、神に代わって、正義を成す。


 神の御言葉こそが全てであり、神以外の僕にはならない……と、そう聖騎士会の大司教様が声を高々に言われているのだから、神=自分の言葉=自分の意向、つまりは神というより、大司教の意のままで聖騎士団は動いているというのを皇帝は見破っていた。

 

 彼女は神を信じない。信じるのは自分の腕だけだ。


 だから、聖騎士が神の加護を受けて、少数の部隊でも敵を圧倒できるなど考えてもいないだろう。


 ただ、伏兵も重要な役目だ。  


 聖騎士団の団長グランツェがそう自分の心に言い聞かせた。


 息を大きく吸い、吐くと気を引き締める。


 騎士団の待つ前に馬を進め、彼らを一度見渡すと剣を掲げた。


「諸君。ついにこの時がきた。この瞬間は神が与えてくれたもの! 神が我々に人間の勝利を求めているのだ。偉大なる神は我々に勝利への道を与えて下さった。ならば我々はその期待に応える為、忠実に従うだけである!」


 聖騎士団の団員らが大きく頷く。


「諸君!! 勝利は神に約束されている! 神を信じ、神の為に戦えッ!!!――――――突撃用意!! 目標、敵竜王軍! 側面を攻撃し、壊滅させるぞ!! 深追いせず、確実に仕留めていけ!」

「「「「はっ!!!!」

「聖なる神アリナテよ! 我らにおぞましき悪を討ち滅ぼす力を与えたまえ!! そして、我ら人間に平和と勝利を!!!」

「「「「「勝利を!! 勝利を!! 勝利をッ!!!!」」」」


 聖騎士らが勢いよく腰に提げていた剣を一斉に空高く掲げた。


「全軍!!!! 突撃ィいいいいいい――――――ッ!!!!」


 クランツェがそう叫ぶと突撃ラッパが吹き鳴らされる。


 グランツェは手綱を打ち、馬の腹を蹴った。


 森の中から飛び出し、真っ直ぐ竜王軍へと突っ込んでいった。


 それに団員らも槍や剣を構えて続く。


 聖騎士団が森から突然現れたことに竜王軍は驚く。


 混乱した。脇腹を深くえぐられた竜王軍は対処ができず、考えることもなく、聖騎士団を迎え撃とうと戦闘を続けた。


 愚かだ。だが、指揮官無き軍隊など烏合の衆、どれだけツワモノを揃えていても、的確な判断と統率力を持っている者がいなければ、その時、その時、対応ができない。


 まんまと罠に嵌った。


 竜王軍の兵士らは次々に駆逐されていったのである。 


 聖騎士が突撃をかける軍馬の馬蹄に踏み潰され、地面にめり込む。


 一方的な戦いとなった。


 残った魔物兵らはついにバラバラとなって、四方へと逃げていく。


 戦局の動きを見逃さなかった二ブラスはすぐに全軍に迎撃戦の命令を下す。


 後方で待機させていた予備兵力までもすべて投入という、た徹底ぶり。


 彼女曰く、『一匹でも逃すと今度は群れとなって帰って来る。そうなれば脅威だ』、だそうだ。


 数刻の後、カラス丘での戦いは帝国軍の完勝となり、街も押さえた。


 といっても炎で焼き尽くしたため、ほとんどの街は住めほど跡形もなかった。


 街と要塞を切り崩された竜王に残されたのは竜王の居城のみとなった。


 二ブラスは遠くの方で見える黒い城を睨み付け、口端を吊り上げ、鼻を鳴らす。


 カラス丘で大規模は戦いを行ったのにはわけがある。


 それは自分に意識を集中させるのが目的だったのだ。


 警戒の目が自分に集中している間に隙を付いて、城に潜入するよう命じられていた勇者は特別編成の別動隊と共に竜王の城へと向かっていた。


 カラス丘の戦闘はあくまで、勇者を竜王の城に潜入させる大規模な囮だったのである。


 竜王も目の前に現れるまでは気が付けなかった。

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