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勇者の眠る墓 その2

 薄暗い扉の奥から足音と共に二つの赤い光が動いている。それが目だとわかった。ギラギラと光るその瞳はまっすぐ自分を見つめているように思えた。


「赤目……」

「赤目の人間もいるからもしかしたら……?」


 赤い瞳を持った人間は存在する。


 南の砂漠地帯にいる戦闘民族グラファサだったか。


 彼らは超人的な肉体、研ぎ澄まされた瞬発力、そして、装備なしの素手だけで重武装兵と渡り合うという人間離れした能力を持っている。


 ムスタシア帝国が一度、グラファサの土地を征服しようと軍を送ったことがあった。


 帝国軍精鋭の四個軍団を南砂漠へと派遣した。


 数日の後、帰って来た報告は征服の成功ではなく、四個軍団全滅という驚くべきものだった。


 結果に驚いたムスタシア帝国は急ぎ、関係改善への方向に話を進め、グラファサ民族との何度かの和解交渉を続けた。


 最終的に帝国が起こした損害と帝国の不可侵の確約を条件にグラファサ民族の怒りを収めることで、話がまとまる。


 ムスタシア帝国が唯一グラファサ族に屈したのである。


 それからはムスタシア帝国はグラファサ族に対して、一切の不可侵、何かあっても静観という立場をとっている。


 そんな戦闘民族であるグラファサ族でも、どうしても勝てないものがあった。


 それは寿命である。


 人間誰しも、決められた寿命があると言われているが、グラファサ族はどういう訳か、全員が短命なのである。


 長生きしても四十歳くらいで、死んでしまう。


 短命の理由はいろいろな憶測があるもの、悪魔に呪われてしまったからというのが定説となっている。


 では、ならなぜ、彼らは呪われてしまったのか。


 神の怒りを買ったのか。はっきりとした理由を知る者はいない。 


 ただ、その超人的な能力を見ると彼らが呪われていると言われても納得がいく。


 ある書物には彼らは悪魔とある契約をしたという。


 それは自らの命を悪魔に食わせる代わりに強さを与えてもらう、という呪いの契約が成されたそうだ。


 彼らは砂漠の厳しい世界で生き残るための苦渋の選択だったとされる。

 

 そんな南の砂漠地帯に住んでいるグラファサ族でもこんなところに来るとは思えない。


 恐らく、魔物だろう。


 廃墟や人が寄り付かない場所には魔物が多く棲みついている。


 ここ数日は魔物の生息範囲も広がっているようで、人が集まる街の近くで、臆病で知られるゴブリンが見つかった。


 いよいよ、この世界も終わりか、と感じる瞬間だ。


 この地下墓地にも魔物がいるだろうとは予想していたが……まさか、というところ。


 いても骸骨だけになって動く魔物や豚と人間が合わさったような醜い姿のゴブリンくらいだと思っていた。


 カイは顔を引きつらせ、長剣を引き抜き、戦える姿勢を取る。


 そして、部屋の扉のくぐったのが間違いなく魔物だと確認できた。


 人の姿をしているが頭にはヤギの角のように湾曲した二つの角が印象的で、威圧感を醸し出していた。


 黒いマントを羽織って、黒いコルセットドレスを着ている。


 動きからして、人間に近い。ということは人型の魔物だ。


 人型の魔物は知性があり、戦うのは厄介で、ただ、剣を振り回す敵とはレベルが違いすぎる。


 さらには魔法を使うこともできる。


 そうなるとただの人間ごときではとうてい歯が立たない。


 こんな時に魔導師を雇っておけばよかった、と後悔する。雇う金がないので、どの道魔導師は連れていけないが……。


 カイは剣術にちょっとだけ自信はある。


 あるはあるのだが……相手がどれだけ強いのか、わからない。


魔物の腰辺りに視線を送る。すると、細い細剣を装備していた。


柄頭は髑髏の形をしている。


 カイはどうするか、出方を考える。


 なんとかして、逃げるか? それとも正面から斬り込む? 二手に分かれて挟撃? どちらかを囮にした前提の作戦? 頭の中でいろいろなパターンを探るも生き残れる可能性は極めて低い。


 刹那、ダルドが動いた。


 流石は脳筋ダルド……頭を使うのが苦手な彼は動くことしかできなかったらしい。


 手に持っていた鉄斧を人型の魔物へと投げつけた。


 鉄斧は回転しながら魔物に向かう。


 乾いた音がする。


 魔物は何食わぬ顔で左手で、鉄斧を掴み取ったのである。


 刃の部分を掴んでいるようで、それでも怪我をしているようには見えない。


「な、んだと……?」


 呆気にとられる様子から、これで決めるつもりだったようだ。


 一撃必中にかけた……防がれたけど。


 魔物は左手に持っていた鉄斧の刃を握り潰す。バラバラに砕けた鉄斧が地面に落ちるのを目の当たりにした二人は言葉を失った。


 魔物は攻撃されたのにも関わらず、顔色一つ変えず、真っ直ぐゆっくりと自分たちの前へと歩いて来る。


 動じないその余裕さ、そして、自分たちが眼中にないと知り、ダルドが声を震わせる。

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