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「バアアアアアカ! 改心とかするわけないだろうが! これでお前も終わりだああ!」


 ニヤニヤと口元を歪め勝利を確信した男は僕へ向けて剣を振り下ろそうとした。


「ハッ!」

 が、黙ってやられる僕ではない。




 呼吸と共に剣の柄に触れ、男の剣を見据える。


 邪神には強烈な恐怖を感じたが、目の前にいるのはただの人だ。

 多少の傷を負っていても僕の超剣術にかかれば敵ではない。


 僕はシオハルコンの剣を抜き、振り下ろされた男の剣をスライスした。


 カットされた沢庵のようにぽとぽとと地面に落ちる男の剣。


「あ?」

 男は柄だけになった剣を持って呆けていた。



「誰が終りだって?」

 僕は立ち上がって男の顔へ剣を突き立てる。



「見えなかった……。わ、悪かった。じょ、冗談だって、な? そんな怖い顔するなって」


 両手を上げた男は再度僕に謝ってくる。


 といってもイタズラを謝るかのような表情だ。

 そんな男の瞳の奥に邪な色が見え隠れする。

 この男に軍団を率いて人を殺めようとしていたという自覚があるのだろうか。



「……」


 謝罪が信用できない。

 信用できるはずもない。


「な、なんだよ、何か言えよ。へへッ、どうせそんな凄んでもお前に俺は殺せないだろうが! ただの学生が人殺しなんてできるわけないもんな! ハハッ」


 男は顔にじっとりと汗を浮かばせながらも僕に向かって挑発してくる。



「……く」


 図星を突かれ、言葉に詰まる。


 ここは拘束しておくしかないだろう。

 とにかく動けない状態にして後はギルドに委ねよう。



「睨んでも無駄だぜ。今は捕まるかもしれんが必ずお前に復讐してやるからなぁ。お前の仲間も皆殺しにしてやる! 全員皆殺しにしてやるからなぁあああああっ!」


「ッ!」


 実際、さっき男に言われたように僕に人を殺す事なんてできやしない。


 そんな度胸、いや、人を殺せる事を度胸と言うなら僕には必要ない。



 だけどそれでは目の前の男を野放しにしてしまう事になる。


 この男の言う通り、ここで捕まえたとしてもいずれ脱出するだろう。


 それだけの力がある事はこの場で十分に証明されてしまっている。


 そして脱出すれば今言った通り僕達に復讐するつもりなんだろう。



(どうすれば……。殺すしかないのか……)


 頭でそんな言葉が浮かべど、実行に移せるはずもない。


 この世界に来て一月と経たない僕は未だに元の世界の感覚が抜けていない。


 そんな僕に人を殺す選択肢を含む決断を迫られてもまともな判断なんてできるわけがない。


 できるはずがないのだ。



「ハァ……ハァ……」


 男の言葉が胸に刺さり、皆が殺されてしまうところを想像してしまう。

 自然と息が荒くなり、手にじっとりと汗が滲む。



「んん、顔色が悪いぞ? そんな顔して今さら後悔しても無駄だからな。絶対に復讐してやる! どうした? それが嫌なら殺してみろよ! 今がチャンスだぞ!? これ以降はもうないぞ!!」


 男は僕が人を殺す事をできないと思って嘲り笑う。

 僕がそんな行動をとれないとわかっていて挑発を繰り返してくる。



(こんな奴……、塩を舐めて、超剣術を使えば一瞬だ……。一瞬の事だ……)


 そう心の中で自分に言い聞かせる。



 だがそんな自分自身への説得とは裏腹に剣を握る力は次第に弱まっていく。


 とうとう剣を取り落としそうになり、慌てて手を見つめると小刻みに震えていた。


 どうしようもなく震えていたのだ。



(どうすれば……)


 迷いが止めどなく膨らみ、冷静さが失われていく。



 が、次の瞬間――




「グアアアアアアアアッッ!」


 ――男が断末魔の悲鳴を上げて崩れ落ちる。


 そしてガスマスクの男の背後から人影が現れた。



「そのチャンス、わしが利用させてもらおう。彼は殺せなくても、わしは殺せる」


 そこには光剣を手にしたギンギンさんが立っていた。


 ギンギンさんは倒れた男の背に再度光剣を突き立て、止めの一撃を加える。



「ギンギンさん!?」


 驚いた僕はゆっくりとギンギンさんへ近づいた。




「もう大丈夫じゃ……。まさか孫を追ってこんな場面に遭遇するとは……。今回ばかりはクレアに感謝せんとな……。グッ……」


 ギンギンさんの握っていた光剣がガラスが割れたように飛び散り、消えてなくなる。

 それと同時に胸を押さえて膝を突いた。



「大丈夫ですか!?」


 僕は慌ててギンギンさんの下へ駆け寄る。


「すまない……君に人を殺す場面を見せてしまった」

 ギンギンさんは辛そうな顔で言葉を搾り出す。


「そんなこと……」


 僕が返す言葉に困っているとギンギンさんの様子が急変した。


 異常に咳き込みだし、両手を地面についたのだ。

 苦しそうに咳きこむギンギンさんは今にも力尽きて倒れそうだった。


 僕はギンギンさんの両肩を支え、倒れないようにしながら体を起こす。


「ゴホッ! すまんが……後を頼む……」


 ギンギンさんはそう言い残し、目を閉じた。

 そして全身が脱力したようになり、僕は慌てて体を支える。



「ギンギンさん! ギンギンさん!?」


 僕が呼びかけるもギンギンさんに反応はない。


 どうやら意識を失ってしまったようだった。






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