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 小窓から大群の様子を窺い、十分な距離に達したと判断する。


 ――とうとうその時がきた。


「魔法を発動します。眼前が吹雪のようになったら爆発一歩手前と思ってください。かなりの衝撃がくるので吹雪が見えたら一旦背を向けて壁に体を預けるようにして下さい! では行きます!」


「「「おう!」」」


 僕の言葉に皆が威勢の良い声で返事を返してくれる。



「はぁあああっ! ウォームエア!」

 僕は練りに練った魔力でウォームエアを放つ。


 すると僕の掌から発生した温風がゆったりと回転した状態を維持しながら大群が進行しているエリアに留まる。


(よし、まずは第一段階)

 ウォームエアは無色なので目視で確認できないが魔力の流れから上手くいった手応えを感じる。


 が、ここで大群に異常が発生する。

 行軍スピードが落ち、止まってしまったのだ。


(さすがに気付いくよね。すぐ発動しないと……!)


 多分、異常に気づいたのだろう。

 だがまだ温風が吹いているだけだ。

 それほど警戒はしていないはず。


(次の塩とティンダーの間が肝だ……。きっちり塩が行き渡ってから発動しないと意味がないし、遅すぎたら回避行動をとられる可能性がある。早くても遅くてもだめだ……)



「しーおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしお……塩ッ!」


 僕は今の自分に出せる限界量をイメージして塩を放出した。


 ――途端。


 小窓からかざした僕の両手から塩が吹き荒れる。


 大津波と化した塩はウォームエアが吹いている辺りまで移動させると砂吹雪のように粒の間隔を空けて操り、全体の塩密度を微調整していく。一粒一粒を繊細にコントロールし絶妙な間隔を維持する。



(ぐっ、見えない……)


 しかし、塩の猛吹雪が吹き荒れるせいで大群を目視で捕らえられなくなってしまった。以前やったときはここまで激しい状態にはならなかったのになぜ……。



(そうか……レベルだ……。レベルが上がったから魔法と異能の上限が上がったんだ……)


 オークの巣に迷い込んだときはレベル五〇くらい、爆発で全滅させた後は一〇〇を越えていた。そして魔神を倒した後はステータスを確認していない。


 多分、レベルが上がったせいで魔法と異能の規模が大きくなってしまったのだろう。


 だが、今ステータスをチェックしている暇はない。

 威力が上昇したのは嬉しい誤算だし、このまま放つ。


 僕はウォームエアと塩をコントロールしながら仕上げに入る。


 掌に魔力を移動させ、最後の言葉を紡ぐ。



「ティンダーッッッ!!!」


 小さな火球が発生し吹雪へと突入する、刹那――








 無音になる。




 そして一拍置いてから、世界が真っ白になったかと思うほど視界全域が白く輝き、体を引き裂くような轟音と衝撃波が襲い掛かってきた。



 僕達は必死になってドームの壁に張り付く。


 しばらくすると音と衝撃が止み、不気味なほどの静けさが支配した。


 僕達は恐る恐る小窓から外の様子を覗き込む。


 ――すると大群のほぼ全てを全滅させることに成功していた。


 爆発の傷痕は色濃く残り、爆心地には大きなクレーターができ、周囲の平野が舗装したアスファルトの広場のように真っ黒に染まっていた。



「え?」


 撃った張本人がその威力に驚いてしまう……。

 これはひどい。



「何が四分の一だこら! ほとんど吹き飛んだじゃねえかっ!」


 驚き半分、喜び半分といった体でジェイソンさんが僕の背中を叩いた。



「だが作戦通りに行くぞ! 町で撃った方が確実だからな」

「待てっ! 何か変だ!」

 ジェームズさんが移動の準備をはじめようとしたところでジャックさんが異変に気づく。



「おい……、冗談だろ?」


 呆けた表情をするジョンさんの視線の先には拳を振りかぶる巨人の姿があった。


「巨人……?」

 僕が見つめる視線の先にはビルほどの大きさのある巨人が拳を繰り出していたのだ。


 ……さっきまであんなモンスターはいなかったはずだ。


 なのになぜ……。


「ギガジャイアントだ! クソッ、かわせんぞ!」

 突然の事に焦りの色を見せるジェイソンさん。


 だが事ここに至っては何も出来ることがない。



「来たぞおおおおおおっ!」

 ジェームズさんの悲鳴じみた声とギガジャイアントが放った拳がドームに直撃するのが同時となる。



 拳は凄まじい巨音とともに直撃したがシオハルコンのドームは傷一つつかなかった。


 完全に無傷だ。


 だが、衝撃を逃す事はできなかった。


 ドームは宙に浮き、そのまま平野まで吹き飛ばされてしまう。


 中にいた僕達も当然平野に突き落とされる事となってしまった。



「おい! 無事か!?」

 頭を振りながら立ち上がったジェイソンさんが確認を取る。


「ああ、なんとかな……」

 ふらふらと立ち上がるジェームズさん


「このままじゃまずい! 一旦出ないと!」

「急げ! ギガジャイアントは動きが遅い! 今なら間に合う!」

 ジャックさんとジョンさんはドームから出ようと扉の方へ向かっていた。



「グッ……、ドームを消しますっ!」


 何とか立ち上がった僕が塩を消す要領でドームを消し去る。

 すると金属に囲まれた空間から一瞬で外の景色へ早変わりする。



「助かったぜ……、とにかくお前らは逃げろ! 俺が引きつける!」

 ジェイソンさんはそう言って剣を抜き、ギガジャイアントへと向かおうとする。


「そいつは無理な話だぜ……。新しいお客さんが来やがった」

 ジェームズさんがジェイソンさんの肩を掴んで止め、顎をしゃくる。



 苦々しい顔でジェームズさんが見つめる先には空からモンスターが迫ってくるのが見えた。




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