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(これってまずいんじゃあ……)


 塩粉塵爆発を一度しか使った事がなかったのと急な呼び出しで動転していたせいで気付かなかったがこうやって一つ一つゆっくり質問されるとその危険さに気付く。



 現場まで来て検証してみると僕の魔力が持つ持たないにかかわらず、モンスターとの距離関係からせいぜい二発程度しか撃てないのではないだろうか。


 ……いや、逃げる事を考えると一発が限度かもしれない。


 引き付けすぎては撤退したときに追いつかれてしまうのは必至だ。



「まじかよ……」

 言葉を失うジョンさん。


「だから問題が……。一応魔力残量的に連発は可能なのですが二発目を撃とうとするには相手との距離が近すぎるんです。多分二発目を撃とうとするとモンスターがこちらへ押し寄せてくる事になるかと……」


 といっても魔法が成功すれば近距離の群れは全滅させられるので擬似的に距離が空いた状態にはなる。だから一発撃ってからの離脱は可能なはず……。



「つまり一発撃ったら撤退ってことになるな」

 遠眼鏡で様子を窺いながらジェイソンさんがそう告げる。


「ちなみに一発でどのくらい減らせると思う?」

 ジェームズさんが腕組みしながら険しい顔になる。



「はっきりとした数が分からないですしなんとも……」


 数えた事がないのでわからない……。


 なんともお粗末なことだ。

 ただ今回の作戦はギルドマスターの依頼である。


 爆発を目撃したギルドマスターの目から見ても最悪一発撃てれば充分効果的と思えるだけの数は減らすことが可能なのだろう。



「もう肉眼でも分かるし、遠眼鏡を使えばはっきり見える距離まで近づいてる。ちょっとこれで見てみろ」

 ジェイソンさんが僕に遠眼鏡を渡してくる。

 僕はそれを受け取り小窓からモンスターの群れが居る方を見た。


「はい。……な、なんて数だ…………」


 実物を見て改めて理解する。

 凄まじい数だと。


 ……これが四〇〇〇。


 モンスターの群れは事前の報告どおり一種類ではなく多種多様な混合の群れだった。四足歩行の獣のような個体もいればオークやリザードマンのような人型の姿も見える。


(モンスターの群れってこんな感じなのか……?)

 はじめて見たが何とも整然としている。


 混合なのでもっと混沌としているものかと思ったがそんなことはない。

 とても統制がとれている。

 きっちりと隊列を作り、進行速度が統一されているのだ。



「どうだ、どのくらい減らせそうだ?」

 ジェームズさんが隣の小窓から様子を窺いながら聞いてくる。



「多分四分の一くらいかと……、すいません」


 実際に見た感じをオークの巣の時と比較すると少な目に見積もってその位だろうか。


 あの時、オークの数は一〇〇〇匹もいなかったと思うが周囲の山も大きく削り取っていたので効果範囲を含めるとその位には到達するだろう。


 今回の相手は綺麗に隊列を組んで密集しているのでかなり巻き込めるはず。

 それでもぴったりの数を言うと失敗したときに怖いので少なめに報告しておく。


「はぁっ!? すげえじゃねえか!」

 突然大声を上げるジャックさん。


「それはなんとかして二発目も撃たせたいな……」

 ジョンさんは目を閉じて思案する。


「そうだな……。ここで二発撃って残りの二発を町から撃てば上手く行けば全滅できるかもしれないしな」

 ジェイソンさんもジョンさんの言葉に頷く。


「いや、安全を期すなら一発だけにして残りを町で撃つべきかもしれんな。ここで足止めをくらったら町での二発はゼロ発になっちまうわけだしな」

 が、ジェームズさんは確実な方を推す。


「……一発撃ったら確実に気付かれる。場所もある程度バレると見たほうがいいだろうな……」

 小窓から様子を見ながらジャックさんが呟く。


「気付かれたら多分脚の早い奴らが来る。今は群れの速度に合わせて移動しているだろうが得物を見つけたら真っ先に来るはずだ」


 ずっと群れを見ていたジェイソンさんが予測を立てる。

 モンスターの群れは一種ではなく混合。

 そうなると足が速い個体が一気に距離を詰めてくるのは考えられることだ。


「やはり、一発だな」

 ジェームズさんが再度一発で退くことを提案する。


「「「ああ」」」

 それに三人が頷いた。


 僕は結局口を挟めず一発撃って撤退する事が決まってしまう。

 ギルドマスターは僕が判断しろと言っていたが今の話し合いに口を挟む余地はなかった。


 それに僕もその提案に賛成だ。


 なるべくなら誰も傷つかずに町へ帰りたいしね。



「俺が残る」

 と、ジェイソンさん。


「俺が囮になる」

 と、ジェームズさん。


「中間地点は任せろ」

 と、ジャックさん。


「殿は俺だ」

 と、ジョンさん。


「よし、決まりだな」

 皆の顔を見てジェイソンさんが深く頷く。



「え? ちょっと待って下さい!」


 てっきり全員で逃げると思っていたら僕と同行するのはジョンさんだけということになってしまっていた。



「聞いた通りだ。一発撃ったら即離脱だ。お前は町まで撤退。後は町で三発かましてやれ」

 僕の肩に手を置きニカッと笑うジェイソンさん。


「そ、そんな……」


「お前を無事に町まで届けると約束した。撤退のタイミングはお前が見極める話だったが今の話を聞く限りどうしようもない。わかってくれ」

 ジェームズさんが僕を見据えて説き伏せようとしてくる。


「く……」


「そろそろくっちゃべってる時間は無さそうだぜ。奴らが迫ってきてる、準備しな」

 小窓を除いていたジャックさんからモンスターとの距離が縮まったと報告が入る。


 残念だがここでごねている時間は無さそうだ……。


「ああ、おいでなすったぜ」

「準備を整えておけ。ここからが本番だ」

「任せな」

 ジャックさんの言葉に三人は頷き合うとそれぞれ配置についた。


 僕は遠眼鏡をジェイソンさんに返すと小窓に張り付いた。


 小窓からはモンスターの大群がじれったい速度でじわじわとこちらへ向かってきているのが見える。


(ギリギリまで引きつけて最大の効果を出す……)

 僕はタイミングを図ろうとじっと群れの動きを見つめた。



「撃つ時は言ってくれ」

 ジェイソンさんの声が聞こえてくる。



「わかりました。でもまだまだです。三〇分はかかると思って下さい」

 はっきりと見えるようになってはきたが魔法を撃つとなるとまだまだ遠い。

 最低でもあと三〇分は引きつけたい所だ。


 僕達は緊張感に耐えながらじっと群れが迫るのを待ちかまえるのだった。


 …………


(行ける。発動までのタイムラグを考えるともう大丈夫だ)


 小窓から大群の様子を窺い、十分な距離に達したと判断する。



 ――とうとうその時がきた。



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