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「ちょっと塩をね」

 僕はフフっと微笑しながら塩を振り掛けるジェスチャーをしてコロに説明する。


「コロも!」


 するとコロは僕の方へとグラスを差し出してきた。


 僕はやれやれといった感じで塩を一つまみ振り掛けてあげる。

 そんな塩水をコロは嬉しそうにくぴくぴと飲む。


「わふっ! しょっぱい後に甘いよ、ご主人様!?」

 ぷはっとグラスから口を離しながら驚きの表情を見せるコロ。



 そう、甘く感じるのだ。



 スイカなんかで塩を振ると甘みが増すというあれである。


 これは舌の先端に塩辛さを感じる部分があり、その後ろに甘みを感じる部分があるのを利用したテクニックだ。


 つまり、塩を一振りすることにより水本来の甘さを引き出したというわけだ。


 これは何にでも応用が利くテクニックで極論を言えば塩の塊に一つまみの塩を振り掛けても塩本来の甘さを引き出すことが可能になってしまう、全ての物を甘く感じさせる事ができる素晴らしい技なのだ。


 でも、甘いものが苦手な人には向かないかもね。



「フフ、美味しいね」

「はいっ!」


 僕はコロに微笑みかけながらとろみのある濃い目の塩水で喉を潤す。

 そしてしばらくすると注文の料理が届いた。


 今日のお勧めは肉野菜炒めに肉スープ、に肉の炊き込みご飯のセットだった。

 肉に肉が肉で肉がトリプルになってしまっている。


「じゃあ、食べようか」

「はいっ、頂きますわん!」

 と、二人同時に食べ出す。


「……なんていうか、あれだな」


 微妙な味だった。


 別にまずくはない。

 むしろそれぞれの素材の食感が活きていて本来なら美味しいと感じる料理のはずだ。

 だが……、何か……、何かが……。



「ちょっと塩気がたりないわん?」



「それだっ!」


 ビクッとなるコロを尻目に僕は無心で肉野菜炒めに塩を振り掛ける。

 そして肉野菜炒めが塩でチョコケーキの粉糖のような状態になった時点でその手を止めた。


「ふぅ……、これくらいか?」


 僕はそう言いながら再度肉野菜炒めを口に運んだ。

 塩辛い、だがそれがいい。

 黙々と食べる。


「ご主人様〜」

 そんな僕の姿を見てスプーンを咥えながら物欲しそうな視線を向けてくるコロ。


(やれやれ、しょうがないな)


 僕はコロの肉野菜炒めにも塩を振り掛けてやる。

 ちょっとサービスしてカキ氷くらいの状態まで盛る。


「ほら、これでいい?」

「わぁーいっ!」

 目を輝かせて喜ぶコロは肉野菜炒めに突撃した。


 …………


 その後、食事を終えた僕達は部屋へと戻って就寝準備に入る。

 僕がベットに寝転がると口元を隠すように枕を抱えたコロが側に立っていた。


「ご主人様、一緒に寝ていい?」

 ちょっと戸惑いの表情で聞いてくるコロ。

 尻尾の揺れ方も大人しめだ。


「ん、いや、折角ツインで取ったんだし……」

 口ごもる僕。



「ダメ?」

 尚も聞いてくるコロ。


「いいよ」

 僕は降参してベッドの端へと寄る。


「わふっ」


 枕を抱えたままベッドに飛び乗ってくるコロ。

 尻尾がパタパタとベッドを叩く。


「じゃ、じゃあ寝るよ」

「うん!」

 ご機嫌のコロに戸惑いつつ、照明を消す。

 僕はコロに背を向けて目を閉じた。


(……眠れない)


 こんな状況で寝れるわけもなく僕はガチガチに固まっていた。


 隣からはすやすやと可愛い寝息と共になんともいえない甘い香りが漂ってくる。

 目が冴えた僕はしょうがないので明日の予定でも考えることにする。


(まずは核をもう少し売って色々と買出しだな。時間が余ればスライムの核をもう一度取りに行くのも悪くない)


 冒険者に登録はしたが核がまだ残っているので本格的に活動するのはもう少し後でもいいだろう。核が昨日と同じ値段で売れるならまだお金に余裕はあるので焦る必要はない。折角アイテムボックスがあるのだし、色々と買って準備を整えていくのが先決だと思う。


(わわっ)


 などと考えていると、背中に何か当たる感触がする。


 柔らかくて温かい何かが。

 振り向くまでもなくコロが僕に抱き付いてきているのだと分かる。

 僕の鼓動が高鳴る中、コロの寝言が聞こえてきた。


「……パパ、ママ……」

 グスッと鼻をすする音が聞こえる。


 僕はコロを起こさないようにゆっくり振り向く。

 するとコロが泣きながら眠っていた。

 僕は優しく頭を撫でる。


「……すぅ」

 しばらくコロの頭を撫でていると穏やかな寝息に戻る。


(寝るか)

 僕は落ち着くために指先から少量の塩を出してペロリと舐めると眠りに着いた。


 …………


 翌朝、宿の一階で朝食を取った僕達は早速冒険者ギルドへと向かう事にする。

 何をするにしてもお金が必要なのでスライムの核を売却しに行きたかったのだ。


 僕達が冒険者ギルドへ入ると何やらザワザワとどよめきが起こる。

 なぜか僕の噂をしているようだ……。



「おい、あれ……、確か塩の」「塩だ……」「ああ、間違いなく塩だ……」「あいつがゴリアテに塩噴きした……」「塩の……」「塩噴きの……」「塩が……」「奴が噂の塩……」



(やれやれ、参ったな)


 どうやら昨日の新人イビリを撃退したのが噂となってしまっていたようだ。

 ちょっと塩を噴いただけなのに困ったものだ。




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