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 と、部屋の扉を開け、中に入る。


 すると――


「お布団が二つしかありませんわん!」


 ――コロが言ったとおり、部屋には二つの巨大な布団が敷かれていた。


「枕は四つありますし問題ありませんね」

 布団は二つでも枕が四つだった事を確認し、安堵するリリアンナ。


「あうぅ……」

 尻尾を抱きしめ言葉数が少なくなるエイリーン。



「これは……ギンギンさんが一枚かんでいる気がする……」

 僕のこの予感は的中しているのではないだろうか。


 ――と、多少の問題はあったものの僕達は大きな布団で川の字になって寝るのだった。


 …………


「だ、だめだよ……。こ、こらぁ」


「……ん?」

 妙に艶っぽい声で目が覚める。



「ん、そんなに強くしちゃ……、だめ……」

「んん?」


 意識が段々はっきりしてくる。

 どうやら声の主はエイリーンのようだった。



「ソルト……、ダメだったら……」


「え?」

 僕が何かしたの? と急に頭が冴える。


 ――そして気付く。


 エイリーンの尻尾を抱き枕のようにしっかりと抱きしめていたことに……。


「わわっ、ごめん」

 気がついた僕は慌ててエイリーンの尻尾を放した。


「……こらっ。だめだぞ?」


 声を忍ばせながら注意してくるエイリーン。

 だけどその表情は特段怒っているようには見えなかった。



「ご、ごめんね。無意識だったんだ。きっと抱き心地が良かったんだと思う」

 不慮の事故とはいえやってしまったことに謝る僕。


 抱き枕サイズでもふもふでフカフカでいい匂いのする物体が夢見心地の人間の眼前にあれば誰でも抱きしめてしまうと思うわけで……。



「もぅ、………………もっと優しくしてね?」


 ジト目気味に見つめていたエイリーンだったがほのかに桃色だった頬が真っ赤になった瞬間、背を向ける。


 怒ったのかなと思ったけど大きなリス尻尾が僕の頬を優しく撫でてきた。


「うん、気をつけるよ」

 僕は尻尾を優しく撫でると再度抱きしめ、深い眠りにつくのだった。


 …………


「楽しかったね。ちょっと帰りたくなくなっちゃうよ」

 翌日、帰り支度を整えた僕は皆に話しかける。



「はいっ。居座りましょう!」

 僕の言葉を真に受けて籠城準備をはじめようとするコロ。


「いつかまた来たいですね」

 窓の景色を見納めに楽しむリリアンナ。


「新婚旅行はここがいいかも……きゃっ」

 大きなリス尻尾をぬいぐるみのように抱きしめ頬を赤らめるエイリーン。


 三者三様である。

 僕達は旅館で名残惜しさを感じながら楽しかった事を話しつつロビーへと向かう。ロビーヘ到着すると見送りに来てくれた支配人のレイチェルさんが待っていた。



「そういえば他にお客さんがいなかったような……」


 結局、宿泊中に他のお客さんに出会わなかったことを思い出す。

 オフシーズンなのだろうか。


「実は街道に現れたモンスター騒動でこちらに人が来なくなってしまいまして……」

 僕の呟きを聞いてしまったレイチェルさんがそんな言葉を返してくれる。


「そうだったんですか」

 そういえば数日前にそんな話を聞いたっけ、と思い出す。


「ええ、この辺り一帯には強力な結界が張られているので心配ないのですが……」


 レイチェルさんの話ではこの宿は強力な結界で守られているらしい。

 たしかにこの旅館は町から離れた場所に建っているわけだし独自の防衛手段ないと大変なことになりそうだ。


 などと話していると血相を変えた男の従業員がロビーへと駆け込んできた。


「た、大変だぁあっ! 結界が破られているぞ!」


 と、大声を出す。


 どうやら今説明を受けた結界が壊れたらしい。



「ええっ!?」

「すぐに修復の手配を!」


 その話を聞いたレイチェルさんが指示を出し、従業員達がきびきびと動き出す。


「今、人をやっています! ですが直るのは昼過ぎになりそうです」


 従業員の報告を聞く限り、結界の破損を確認した時点で修理をはじめたらしい。

 だが、結界の修理と言うのは時間がかかるらしく直るのは昼過ぎになるそうだった。


「そんな……、強力な結界なのに……なぜ……」

 結界が壊れてしまった事実に驚くレイチェルさん。


「ご主人様……」

 僕の袖を引っ張りながら何か言いたげな視線を向けてくるコロ。


「ここは我々が……」

「昼までなら私たちでもなんとかなるよ」

 もうどうするか決めている素振りのリリアンナとエイリーン。


「うん、わかってる」

 僕はそんなみんなに頷き返すとレイチェルさんの方へ向き直った。



「よかったら結界が直るまで僕たちが護衛しましょうか? まだまだ新人ですけど……」


「よろしいのですか!?」

 僕の提案に驚きの表情を示すレイチェルさん。

 お客に協力してもらうという考えは端からなかったようで僕に言われてはじめてそのことに気付いたようだった。


「僕たちにできることがあるなら協力させてください。ね、みんな?」


「「「おー!」」」

 四人でレイチェルさんに笑顔で応える。


「あ、ありがとうございます! この施設にも護衛はいるのですが数日前から風邪をひいたり、ギックリ腰になってしまって難儀していたのです」


「そういう事なら尚更お任せ下さい」

 僕はレイチェルさんに頷き返す。


「助かります。では結界が破損した場所に案内しますね」

「わかりました」


 と、いうわけでレイチェルさんの案内で僕達は結界の破損場所へと向かうのだった。


 …………


「こちらです。なにか鋭利な刃物で引き裂かれたようですね」


「おお、こんな風になっているんですね」


 案内された場所は旅館の裏手に当たる場所だった。

 結界は無色透明のようだったが破損した辺りが切れかけの蛍光灯のように明滅していてどのくらいの規模で壊されたのかがよくわかる。


 破壊された跡はまるで大きな斧でも振り下ろしたかのような巨大な切れ目が入っていた。この規模や痕跡から見て破壊したのはモンスターで間違いないだろう。



「間もなく修理ははじまると思いますがその者達は身動きが取れなくなってしまいます。ですので皆様にはその者達の護衛をお願いしたいのです」


「わかりました」

 レイチェルさんの説明を受けた僕は頷く。


「心苦しいのですが護衛対象を減らすためにも私たちは宿の方に戻りますね」


「はい、後は任せて下さい」


 後は修理の者と僕達に任せて、レイチェルさんと従業員は一旦戻るとの事。

 居ても何もできないならそうした方がいいだろう。



「よろしくお願いいたします」

 レイチェルさんは深々と頭を下げると旅館の方へと戻っていった。



「とはいったものの……」


 レイチェルさんを見送った後、僕は腕組みして考える。


「ご主人様?」

 コロが首を傾げつつ僕の方を見つめてくる。


「いや、ちょっと待ってね……」

 僕は修理の人達の邪魔にならないように破損箇所の周囲を見てまわる。


 結界の破損箇所は大きく切られてはいるが横に薙いだのではなく、縦に振り下ろしたような傷痕だった。


 といっても人一人分が潜れるくらいの大きさなので大きいと言えば大きいが旅館半分がむき出しになってしまっているというわけでもない。



「ふむ、この位ならいけそうかな……。はぁああああっ! 塩っ!」


 僕はシオハルコンの壁を作り出し、目測で結界の破損箇所の周りを覆った。




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