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「これです!」
鞄から探し物を見つけ当てたリリアンナが“バーン!”という効果音が似合いそうなポーズで新装備を掲げた。
「え……」
が、それを見た僕は固まってしまった。
完全硬直である。
僕に抱きついていたためコロとエイリーンも驚いて固まっているのが伝わって来る。
一瞬でその場の空気が凍りつく。
……そんな装備だった。
新装備はマイクロビキニだった。
だが、
しかし、
そのマイクロビキニは元々小さい布の部分がハート型に大きくくり貫かれていたのだった。
「穴が開いていますわん? 不良品ですわん」
尻尾をクエスチョンマークにしながら首を傾げるコロ。
「わ、わわっ……。わ〜……」
真っ赤になった顔を両手で覆いつつも指の間から凝視するエイリーン。
「違う! これは匠の手により限界まで軽量化が施された逸品なのです。これで更に敏捷性が上がること間違いなし!」
“バババーン!”という効果音が似合いそうなほど自信ありげに装備の性能についてドヤ語りするリリアンナ。
「上がらないよ!? 敏捷性がどうとかって話じゃないからね!?」
僕は反対意見を述べる。
「ふふ……、ソルトが疑う気持ち、分かります。ですからここで証明してみせます。これを装備した私が目にも留まらぬ動きでソルトに密着してみせましょう!」
僕の言葉を聞いて何度も深く頷いてくれたリリアンナはとんでもない事を言い出した。
「何でそうなるの!?」
慌てる僕。
「そのためにもまずは着替えなければなりませんね」
リリアンナが今着用しているマイクロビキニに手をかけ、脱ごうとする。
「ダメだからね!? させないよ!?」
僕はコロとエイリーンを振りほどくと素早くリリアンナの傍まで行くと抱きつくようにして新装備を取り上げた。
「ふふ、ソルトから密着してくるとは早速効果が表れたようですね。やはり店主の言う通りだった……。ちょっとどころではない羞恥心と戦いましたがそれだけの価値はあったのです!」
どこか満足気な微笑を浮かべるリリアンナ。
……一体何がしたかったんだろう。
「これは処分しておくからね!」
こんな物を着て町を練り歩かれてはさすがにまずい。
これは僕が責任を持って処分しておくべきだろう。
「そんな!?」
悲壮な顔で目を見開くリリアンナ。
「今もすごいのに……、これはダメだよ……」
今だってマントを羽織らなければ往来を歩けないというのに……。
「くり貫いた布の方を貼っても軽量化できるんじゃないですわん?」
が、コロが新たな発想を見出す。
「それです!」
くわっと開眼するリリアンナ。
「それじゃない!」
開眼を阻止する僕。
「えへへ、い、今の内に独り占めしちゃう」
と言ってエイリーンが僕へと抱きついてきた。
「させません!」
ダッシュから僕へ飛びついてくるコロ。
「あああっ! 放れるのです! やはり新装備がないと貴方たちに太刀打ちできない!」
覆いかぶさるように僕へダイブしてくるリリアンナ。
「み、みんな、放れて。苦しいよ」
三方から抱きしめられ、もう何がなんだかわからない状況になってしまう。
というわけで突発的に発生した混乱の渦が収まる気配はしばらくなさそうなのであった。
…………
なんとかみんなの密着攻撃を引きはがした僕は男湯へと逃げ込んだ。
各部屋にも風呂はあるがここの名物の一つは露天風呂。
ならば入らないわけにはいかない。
僕は体を洗って湯船につかるとふぅっと肺の奥から深い息を吐いた。
「ふぅ、リリアンナが暴れ出して一苦労だったな。でも、こうやって一人でお風呂に入るとなんだか落ち着くな〜」
浴槽の縁に背を預け、ぐっと伸びをする。
露天風呂は名物というだけあってとても広い。
また、外に面している方は衝立などがなく、広大な景色を眺められる仕様になっていた。
なんとも解放感あふれる風呂である。
しかもなぜかは知らないが他に利用客がおらず貸しきり状態になっていた。
今の時間帯なら他にお客さんがいてもおかしくないはずなのに誰もいないのだ。
「まあ、一人でのんびりできるのはいいよね〜」
これはラッキーだったなぁと思いつつ湯を堪能する。
と、しばらくすると足音が聞こえてきた。
貸切状態は束の間の楽しみだったようである。
新しく来たお客さんが扉を開けて風呂場へと入ってくる音が聞こえる。
「ほうほう、ここが男湯ですね」
――新しいお客さんはコロだった。
「コロ!?」
驚いて振り向く僕。
「あ、ご主人様〜!」
大きい風呂場なので少し距離があるせいか僕を見つけて手を振ってくれる全裸のコロ。湯気が濃くてはっきりとは見えないが全裸なのは間違いない。
「隠して! 色々隠して!」
「問題ありませんわん!」
僕の割とまともであろう意見は却下され、体を洗い終えたコロが湯船へと入り、隣に座ってくる。
「あ、あるよ!」
僕はコロに視線を合わせることなく、正面を向いたまま答える。
「そうですわん?」
が、コロが正面に回ってくる。
「コ、コロ!」
僕はすかさず背を向ける。
「わふ!」
しかし回りこまれてしまった。
「女湯は隣だから!」
と、目を閉じる。
だがここで脱衣所の方から新たな足音が聞こえてくる。
(わわっ、他のお客さんが来ちゃったよ!? どどどどどどうしよう)
と、僕が慌てる中、風呂場の扉を開ける音が聞こえた。
「そうですよ。私のように水着を着れば問題ないのです」
――と、入ってきたのはマイクロビキニ姿のリリアンナだった。
リリアンナの顔はお酒の影響かほんのり赤く、上機嫌である。
「あるよ!? ここ男湯だからね!」
僕は女性が男湯に入ることは問題があることだとリリアンナに告げる。
この意見、間違ってないと思うんだ。
「う、ううう〜。わ、私もは、入る〜」
そんなリリアンナの隣には大きめのバスタオルを巻いて体を隠したエイリーンが扉の陰に隠れるようにして立っていた。バスタオルからはみ出た素肌は湯に入ったわけでもないのにもれなく真っ赤である。
「エイリーンは無理しないで!?」
なぜみんな男湯に……。
ここは本当は女湯で、自分が間違えたのではないかと段々自信がなくなってくる。
「仲間はずれになっちゃう……」
全身を真っ赤にしたエイリーンはぷるぷると震えながらそんな事を言う。
「他のお客さんが来たらどうするの! みんな出て行って〜!」
僕は異能の塩を津波のように噴き出し、皆を男湯から更衣室へと押し返した。
「わわっ」
「ソ、ソルト〜」
「……はい」
なんとか納得してくれたみんなは大人しく着替えて女湯に行ってくれた。
やれやれである。
ちょっと惜しいな、と思わなかったと言えばウソになってしまうが止むを得ないのであった。
…………
一悶着あったが無事入浴を終えた僕達は部屋へと戻る。
風呂に入る前に連絡しておいたので部屋に戻れば布団がしかれているはずだ。
布団で寝るのは久しぶりなので少し心が躍ってしまう。
ベッドもいいけど布団も恋しかったのだ。
「じゃあ寝ようかな…………っと」
と、部屋の扉を開け、中に入る。
すると――




