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「はい! ぺろり、ですわん……。こ、これはっ!?」

 コロは快活に返事をすると人差し指を粉末の山にちょんとつけた。

 そして指先についた粉末を舐め、目を限界まで見開いてしまう。


「ふふ、どう?」

 僕は予想通りの結果に満足しながらコロに感想を聞く。



「か、革命ですわん!」


 目を見開き何かに目覚めたような表情で驚くコロ。

 コロ曰く、革命らしい。



「あはは、すごいよね〜。これ」


 そう言って僕も一舐めする。


 ぱっと見は塩と何ら変わりない外見をしているがこれは全くの別物。


 これは……、禁断の粉。



 そう、ハッピーダダーンの粉なのだ。


 自分でもよく再現できたと関心してしまう。


 止まらないんだよね、コレ。


「でも、リリアンナに知られたら一大事ですね」

 コロは人差し指を粉末の山と口の間で何度も往復させながらそんな事を言う。


 そして僕もその危険性に気付いてしまう。



「……確かに。これは封印だね」


 この粉、リリアンナに知られると大変なことになってしまうのは間違いない。

 そうなると、もう作るのは止めた方が良さそうだ。


「悔やまれますわん」


 耳をぺたんとつけ、しょんぼりとした表情を見せるコロ。

 そんな表情を見ているとリリアンナがいないときにでもこっそり作ってあげればいいかなとも思ってしまう。


 そんなこんなでシオについての検証が一段落着いた頃、食堂の方から何やら声が聞こえてくる。



「ん?」

 今はお客さんもいないはずなのにどうしたんだろうと、つい気になってしまう。


「何か聞こえますわん」

 それはコロも同じだったようで耳をぴんと立てて興味をしめしていた。

 僕達は顔を見合わせると食堂の方へと向かう。



 すると――


「あれは」

「ッ!? アイツは!」


 ――なんと食堂にはヒルカワがいたのだった。


 ヒルカワはテーブルの隅に座っていた男の子の傍で何かしている様子。

 目を凝らしてよく見てみるとクッコさんの長男であるケビン君に話しかけているようだった。


 ケビン君は椅子に腰掛け、テーブルに乗った料理をじっと見つめている。

 そんなケビン君にヒルカワが絡んでいるようなのだ。


「おーおー、いつまでそうやってんの? ゲヒャヒャ」

「父さんがこれを食べるまで遊びに行っちゃだめだって……。でも僕、これ嫌いなんだ」


 じっとテーブル見つめるケビン君の前にはピーマンの肉詰めが置かれていた。

 どうやらケビン君はピーマンが嫌いらしい。


「じゃあ、ずうっとそこでじっとしてるんだなぁ。俺はちょっと調理場を借りるぜぇ? ゲヒャヒャ」

 ヒルカワはケビン君にそう言うと厨房のほうへと向かってきた。


 これはまずい!


「コロ、隠れるよ!」

「らじゃっ!」

 僕とコロは素早く物陰に隠れて息を殺す。


 そしてすかさずさっき出来あがったばかりのクッキーを出して二人で摘みながら様子を窺うのだった。


 ヒルカワは何を思ったのか冷蔵庫の中をあさって食材を取り出し、流しでそれらを洗いはじめた。そして洗い終えた食材をまな板が置かれた作業台の方へと運んでいく。


「オラオラ! 切り刻んでやんよーっ!」


 ヒルカワは手馴れた動作で野菜の皮をむき、手早く切り刻む。


「無残に刻まれたお前らは熱した鉄鍋に投入だーッ! 熱いかぁ? 熱いだろうな? ゲヒャヒャ! オラオラ満遍なく炒めつけてやんよー!」



 ヒルカワは熱した鉄鍋に油を引くと細かく切った野菜類をさっと手早く炒めてしまう。次に炒めた野菜を取り出し、細かく切った肉を投入して同様に炒める。

 そして肉の火が通るとまた取り出して一旦皿に移しておく。


 その後、再度鉄鍋に油を引くと卵を投入し手早く混ぜはじめた。

 卵に火が通りはじめ、ふわっとしてきたところで今度はご飯を投入する。


 そこからは手首のスナップを利かせながら卵とご飯が宙を舞うようにしてかき混ぜていく。


 しばらくするとあらかじめ炒めておいた野菜と肉を投入し更に混ぜる。


 全ての食材が満遍なく均等になるように宙を舞わせて混ぜていく。


 均等に混ざりはじめたのを見はからって味をつけ、更に混ぜる。


 ヒルカワの熟練されたテクニックにより鉄鍋の中の食材が華麗に宙を舞う。



「すごい手さばきだ……」

 ヒルカワのテクニックに見惚れてしまう僕。

「お米が宙を舞ってますわん」

 コロも同様である。


「オラァッ! 完成だ」

 ヒルカワの怒声とともに皿に料理が盛り付けられた。



「チャーハン?」

「光ってますわん!」


 それはどう見てもチャーハンだった。



 だがあのチャーハン……、只者ではない。



 ヒルカワは手早く後片付けを済ませ、洗い物だけを残した状態にすると完成したチャーハンを持ってケビン君の下へと向かう。


「旨そうなそいつは没収だぁ! ゲヒャヒャ!」

「あ……」


 ヒルカワはケビン君が見つめるピーマンの肉詰めを取りあげて食べてしまう。

 取りあげられた皿を目で追いながら驚きの表情を見せるケビン君。



「そしてお前にはコイツをくれてやるぜぇ。お前の大嫌いなピーマンがこれでもかというほど入ったチャーハンだぁあ。ゲヒャヒャ」


 そう言ってヒルカワは自作したチャーハンをケビン君の目の前に置くのだった。



「あ、いい匂いがする。食べていいの?」


 チャーハンを見てはじめは驚いていたケビン君だったが美味しそうな匂いに釣られたのか表情を綻ばせる。


「いいぜぇ。ただしこいつにはみじん切りにしたピーマンが大量に入ってるけどなぁ? ゲヒャヒャ」


 ヒルカワの言葉を聞き、恐る恐るといった体でチャーハンを少量スプーンにすくい、口へと運ぶケビン君。

 が、口に入れた途端表情が一変する。



「おいしい! おいしいよ、お兄ちゃん!」


 ケビン君はぱあっと満面の笑顔を作るとすごい勢いでチャーハンを食べはじめた。

 そして一気に食べ終えてしまい、とても満足気な表情で椅子の背もたれに身体を預けて一息つく。


 じっとケビン君を見守っていたヒルカワがその瞬間を待っていたかのように口を開く。


「肉詰めはピーマンの味がダイレクトにする大人の料理だからお前みたいな子供には食えないよなぁ。お前みたいなガキには味がわからなくなるくらい細かく切った状態じゃないと無理だよなぁ? えぇ? ゲヒャヒャ」


「た、食べれるもん! 子供じゃないもん!」


 ヒルカワの挑発につい反発してしまうケビン君。


 まずい! それはヒルカワの罠なんだ!

 と感じた僕とコロはクッキーを食べながら固唾を飲んで事の行く末を見守る。


 ヒルカワ……、なんて悪辣な奴なんだ……。



「ほんとかぁ?」

「次は絶対食べるからね!」


「無理すんなってぇ、今度も俺がチャーハン作ってやるよぉ? なぁ? ゲヒャヒャ」

「ちゃんと食べるもん! もうチャーハンいらない!」


 ヒルカワの挑発に乗り、好き嫌いせずにピーマンを食べる事を宣言してしまうケビン君。

 僕とコロは“あー、やっちゃったかぁ”と片手で顔を覆う。


「おーおー、そうなることを祈ってるぜぇ? チャーハン作って欲しくなったらいつでも呼べよぉ? ゲヒャヒャヒャ」


 ヒルカワはケビン君から食べ終えたチャーハンの皿を取り上げ、厨房へ向かうと全ての洗い物を片付けると食堂から去っていった。


「片づけをしようか」

「わふっ」

 そして、ヒルカワが去ったのを確認した僕達もクッキーの後片付けに取り掛かるのだった。



 と――


「ただいま帰りましたッッ!! ハァ……ハァ……。フー……フゥ……」


 ――なぜかリリアンナが凄まじい勢いで厨房に駆け込んでくる。



 全速力で走ってきたのか全身に汗が滴り、息づかいが荒い。


「ど、どうしたのリリアンナ? そんなに息を切らせて」


 心配になった僕はリリアンナの方へと駆け寄った。



「帰って……、帰ってこないと何かを逃しそうな気がしたので!」



 くわっと目を見開き、何かに呼ばれたかのように予言めいた事を言うリリアンナ。


「あはは……」

 まさか、例の粉の気配を嗅ぎつけてここまで来たのだろうか……。


「塩の気配が……」

 得物を狙う殺人鬼のような形相で厨房を舐めるように見回すリリアンナ。


「き、気のせいだよ、うん」

 僕はそんなリリアンナの肩に触れ、落ち着かせようとする。



「く、不覚。どうやら何もないようですね……。では、訓練に戻ります!」


 何もないとわかるとリリアンナはまた訓練所に戻っていった。



 ……僕はそんなリリアンナの後ろ姿を見送りながら、あとほんの少し早く着いていれば大変な事になっていたなと冷や汗をかくのだった。






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