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「こ、これは……っ!?」
僕が恐る恐る尋ねるとおじいさんは驚愕の表情を見せて固まる。
「あ、あの? 買取不可なくらい質が悪いんでしょうか?」
「こ、こんな状態の核は滅多に見ない……。スライムを倒そうと思ったらどうしても核に傷がついてしまうものなんじゃ……。だが、これは……傷が一切ついておらん!! しかもこれ一つだけではない! これも! これも! これもそうじゃ! お主一体これをどうやって手に入れたんじゃ!?」
「え、えーっと企業秘密? で……」
どうやら持ち込んだ核が稀に見る状態の良さだったらしい。
まあ、確かに塩しか使ってないから傷なんてつけようもないしね。
でもその事は黙っておいた方が良さそうだったので誤魔化しておく。
「ま、まあ、そりゃ話せんか。まあいいじゃろう。一つ銀貨一〇枚だな」
「あ、はい。それでお願いします」
僕はおじいさんから買い取り価格分の銀貨を受け取る。
「また核が手に入れば持って来い」
「はい、その時はお願いします」
僕はおじいさんにお礼を言うとその場を離れた。
「終わりましたわん?」
するとコロが僕の服の裾を引っ張って聞いてくる。
「ん、終わったよ。でもついでに冒険者の登録もするからもう少し待ってね」
「わふっ!」
僕はコロの頭を撫でながらギルド内を見回す。
そして登録カウンターを見つけるとそちらへと移動する。
「すいません。こちらで冒険者の登録を行いたいんですけど」
「あらぁ、いいわよぉ。じゃあこちらに必要事項を記入してもらえるかしらぁ」
カウンターに座るお色気たっぷりなお姉さんに促されて必要事項を記入していく。
どうやらステータスにあった【いせかいごほんやく】の能力のせいか文字の読み書きもすらすらできてしまう。これはありがたい。
「できました。あとこの子の分もお願いします」
「ふぅん、ソルト君て言うのね。その子も冒険者になるの?」
「ええ、結構町の外に出るので通行料を浮かせようかと思いまして」
「ん〜、まあいいわぁ。じゃあ書いてねぇ」
自分の分が終わらせるとついでにコロの分もやってしまう。
お姉さんはちょっと考えるようなしぐさを見せたが問題なく手続きは進む。
「できました。これで大丈夫ですか?」
「はぁい。問題ないわぁ。じゃあ意思確認を行うわねぇ。町に危険が及ぶ緊急時にギルドからの強制召集がかかる場合があるけどそのときは指示に従うかしら?」
「ええと、どんな時に強制召集がかかるんですか?」
結構聞き逃せない質問だったので詳細を詳しく聞いておく。
「うふふ、ただ慣例で質問してるだけよぉ。最近だと台風が来た後の修繕作業に強制召集がかかったくらいねぇ。この辺りで危機的状況なんて起こらないから安心していいわぁ」
「じゃあ、従います」
「従いますわん!」
「はいわかりましたぁ。じゃあこれがマニュアルねぇん。あと登録料に一人銀貨三〇枚いただくわぁ」
書類のOKが出たところでマニュアルを貰い、料金を払う。
「じゃあお二人さん、これに血を一滴垂らしてもらえるかしらん?」
そう言いながらお姉さんは名詞くらいの大きさの金属板と針を取り出した。
「こうですか?」
「こう?」
二人指先に針を刺し、金属板に血を垂らす。
すると金属板が一瞬淡い光を放つ。
「はぁい。これでギルドカードのかんせーい。無くさないでね?」
お姉さんは僕とコロに今血を垂らした名刺サイズの金属板を渡してくれる。
「へぇ、これがギルドカードか」
「カード! ぴかぴかですわん」
二人でまじまじとカードを見つめる。
「これであなたも冒険者よぉ。一応マニュアルに全て書いてあるけどわからない事があればいつでも聞いてねぇん」
「はい、ありがとうございました」
僕は受付のお姉さんにお礼を言うと踵を返す。
「お待たせ、コロ。じゃあ行こうか」
「はい!」
じっと待っていてくれたコロの方へ視線を向け、二人でギルドを出た。
次は宿でも取りたいな、などと考えていると怒鳴り声と共に一人の男が僕の前に立ちはだかった。
「おいおいおい! ひょろっちい野郎がウロウロしてんじゃねえよっ!」
僕へ怒鳴ってきた男は鋲つきの肩パットを当て、薄着な服の間からは鍛え抜かれた筋肉が見え隠れしていた。
「あ、すみません。行くよコロ」
「わふっ!」
僕は肩パットの男に頭を下げるとその場を立ち去ろうとする。
「待てよっ!」
が、肩を掴まれて止められてしまう。
「何か?」
僕は恐る恐るといった体で肩パットの男を見上げる。
「お前さっき核を売ってタンマリ金を貰っていたよな? お前みたいなのが持ってても無駄遣いするのがオチだし俺が貰ってやるから全部よこしな」
男はこちらを見下ろしながらニチャリと唇を歪ませ、僕の肩を掴む力を強めていく。
(目を付けられていたのか……)
こんなヒョロヒョロの男と女の子が高額の買取をしていればカモに見えたのかもしれない。お金の事で頭がいっぱいでそこまで気が回らなかった。
正直、こんないかにもな外見の男に威嚇されると怖くて仕方がない。
レベルが上がっているので、もしかしたらそこそこいい勝負ができるのかもしれないがそういう段階まで自分の心境が到達していない状態だ。
つい、二日前まで不良に絡まれれば確実に縮み上がっていた僕がレベルが上がったからといって急に強気に出れるわけもない。
(に、逃げよう。コロを抱えて全力ダッシュすればなんとか……)
と、考えるも辺りにはこの状況を面白がった者達により、人だかりができつつあった。普通こういうときって見て見ぬフリをするか誰もいない路地裏に連れ込まれるのかと思ったらそういうわけでもないようだ。
「おい! さっさと金を出しな! その代わり先輩冒険者の俺様が色々と教えてやっからよぉ」
「く、クソッ!」
焦った僕は肩パットの男目掛けて塩を発射した。
掌からバッサァッと塩が勢い良く噴き出し、男の顔へと降り注ぐ。
「グ、グアアアッ! め、目がぁぁあっ!」
「これでも食らえ!」
僕は目を押さえて悶絶する男の手を引きはがし、更に塩を吹きかける。
「ふん! ふん! ふぅうん!」
そして掛け声と共に目に塩をすり込む。
「や、やめろおぉおお! 染みるうぅ!」
「もう金を寄越せと言わないか! ふん! ふん! ふん!」
「言わないいいい! だから止めてくれぇ!」
「よしっ!」