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「あれ……?」


 驚きの表情を見せる僕。

 軽く撃っただけだったのだがまさか一発とは……。

 僕が放心しているとエイリーンの声が聞こえてくる。



「というか……その魔法危ないよ〜。壁が切断されちゃってるよ〜」


 エイリーンは塩カッターが接触した壁に触れながら僕に注意してくる。


 実際、壁には工具で切ったのかと見紛うばかりの綺麗なラインが入っていた。



「禁止ですね」

「あぶないっ」

 エイリーンの側に寄り、壁を見て驚愕の表情を見せるリリアンナとコロ。


 確かに連発したら崩落の危険や壁の向こう側にあるものを傷つけてしまう恐れがある。これは使わない方が良さそうだ。



「ご、ごめん……。気をつけるよ」

 僕は慌てて三人に謝った。



(そういえばあれからステータスを確認してなかったけどどうなったんだろう……。正直今の感じからしてまずいことになってそうな……)


 今撃った感じだと、どうも以前より塩カッターの威力が上がっている気がする。

 しかもかなりスムーズに射出できてしまったしレベルが上がっているのは間違いないのではないだろうか。


 オークの巣を消滅させたときにレベルを確認していなかったがあの時結構上がってしまったのかもしれない……。


 僕は恐る恐るといった体でステータスを開く、すると――








 しおざわ そると LV132


 ちから 13200

 まどう 13200

 からだ 13200

 はやさ 13200


 いのう SIO


 いせかいご

 かんいかんてい

 あいてむぼっくす



「あああああっ! やっぱり……」



 あまりの結果につい大声が漏れてしまう。


 ……というかこの調子だと皆もかなりレベルが上がっている可能性がある。


 以前、僕と同行していただけでコロのレベルが上がっていたのを確認したし、あの時倒したオークの数からいって一緒に居た皆も相当上昇していてもおかしくない……。



「ご主人様!?」


「どうしたのですか?」

「大丈夫〜?」


 僕の言葉に驚く皆。


「あ、うん、ごめんごめん。ちょっとね……。さ、さあ行こうか!」

 僕は動揺したことを早口で誤魔化すと先を促した。


 レベルの事はうまく説明できそうもないし僕の胸の内にしまっておくことにする。




「変なご主人様ですわん」


「そうですね急ぎましょう」

「もうすぐ次の階層への階段が見えてくるはずだよ〜」


 皆、僕の言葉にいぶかしむも丁度下層への階段が近づいていたこともあり、そちらへ意識が向いた。やれやれ、危なかったな。


 ちょっとしたトラブルが発生したものの探索そのものはとても順調なのだった。


 …………


 それから更に数日後。


「これで何層目だっけ?」

 僕は確認の意味も込めてコロに尋ねる。


「いまで五層目ですわん」

 掌を開いて五を表しながら答えてくれるコロ。



 ダンジョン探索はとてもスムーズに進行していた。

 全てを見て回らなければいけないので一層にかかる時間はかなりのものだが問題らしい問題も起きていないので順調といえるだろう。


「随分と歩きましたがこれでちょうど真ん中ですね」

 と、リリアンナ。


 依頼は十階層までなのでこれでやっと半分だ。

 順調とはいえここまで進むと疲れも蓄積してきている。

 あと半分ともいえるし、まだ半分ともいえる微妙な状態だ。


「この階層で野営にしよっか〜」

 僕達の様子を見てエイリーンが休憩を提案してくれる。



「了解です。じゃあ地図のチェックを終えたらレストエリアに行こうか」

 僕はエイリーンに頷くと再度探索を開始した。


 ダンジョンは階層毎にモンスターが寄り付かない避難場所のようなものが存在する。そこで野営を行いながら下層へ向かうのがセオリーとなっている。


 僕達は一層を隅々まで回るという変則的な進行を行っているので野営のタイミングをとるのが案外難しいのだ。


 五層の探索は残り三分の一ほどになっていたのでこの層を仕上げたらそのまま野営することに決める。

 僕達は五層のチェックを進めるため再度歩を進めるのだった。


 …………


 無事五層のチェックを終えレストエリアへ向かう途中、僕はなんとなく皆に話しかける。



「もらった地図の完成度も高いし、モンスターとの遭遇も少ないけど結構日数が経っちゃったね」

 うまくいっているがそれでも時間がかかっているなと思ってしまう。

 体力には余裕があるが気疲れが出てきている気がする。



「そうですね。一層全てを回るのが意外に時間がかかってしまいますよね」

「わふ〜ん」


 しっかり休息を取りつつ進行しているとはいえ、僕を含めリリアンナとコロは初ダンジョンのせいか少し疲れの色が見えはじめていた。



「食糧には余裕があるけどどこかのタイミングで一度戻る〜?」

 そんな僕達の様子を見てエイリーンが一旦戻るかと提案してくれる。


「う〜ん、そうだね。期限があるわけでもないし一旦戻ってちゃんと宿で休もう。下り階段を一直線に目指すだけならすぐにここまで来れるしね」

 エイリーンの提案に頷き。一旦戻ることにする。


 こういうのは急がば回れってことだ。

 焦って進んでもいい結果には繋がらないだろう。

 依頼に期限がないわけだし、ここはそれを有効活用するべきだと思う。



「それを聞いてちょっとほっとしました。まだまだ余裕はありますが休みたい気持ちもあったので……」

「ベッドが恋しいかったですわん」


 僕の決定に安堵の表情を見せるリリアンナとコロ。

 やはり僕と同じく疲れが溜まっていたのだろう。


「じゃあ、いつ帰ろうか〜?」


「う〜ん、五層も終わった事だし軽く六層を見て回ったら帰りますか」


 丁度五層が終わったところなので最後に六層を下見してから帰ることにする。

 下見しておけば地上へ向かう帰りの道すがらに次回の計画なんかも話せるだろうと考えての事だ。


「わかりました。そうしましょう」

「戻ったら何かご馳走でも食べましょうわん!」

「じゃあ、今日はもう休もうか〜」


 と、皆からも賛同を得られ僕達はそのままレストエリアに向かい、野営の準備に入った。


 …………


 翌朝、片づけを終え六層への出立準備を終えた僕は皆へ声をかけた。


「じゃあ六層を軽く見て回ったら帰ろう!」


「「「おー!」」」


 三人共片腕を掲げて元気よく返事を返してくれる。


 帰ることを決めた僕達は意気揚々と六層へと下りる。

 すると正面に早速分かれ道があった。


 地図があれども右か左どちらから攻めるか迷うところではある。



「とりあえずは右に進んでみる? ん、コロ?」


 僕が分かれ道とにらめっこしているとコロの異変に気づく。

 なにやら左の通路の奥を凝視して固まっているのだ。


「むむっ、何か見えましたわん」

 と、通路の奥を指差すコロ。



「確かに。あれは……人?」


「ん〜? まだ一般解放されてないから今このダンジョンにいるのは私たちだけのはず〜」


 リリアンナの言葉に異を唱えるエイリーン。



 確かに今このダンジョンに入っているは僕達だけのはず……。




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