57
「ちょっと持ってみるか?」
僕の言葉に気を良くしたローザさんがそう言って剣を差し出してくる。
「いいんですか!?」
「特別だぞ? もし壊したら弁償な」
「は、はい、気をつけます。ッ…………!!! これは!!」
僕はローザさんの言葉にブンブンと首を振って頷き、恐る恐る剣を受け取る。
――剣を持ってわかる。
これはすごい、と。
今まで使っていたのが安物の剣ということもあるのだろうが比較のしようがない。月とスッポンとかってレベルではなく、もはや別のものと表現した方がしっくりくる。
「どうだ? スキルを取ってるなら凄さがわかるだろ?」
ローザさんが得意気な顔で見つめてくる。
「すごい、これが本物の剣……」
今まで持っていた剣が剣でないと思えるほどの代物だ。
「もういいか? 一応オーダー品だからな」
そろそろ返してくれと手を差し出してくるローザさん。
が、僕はもう少しこの剣に触れていたかった。
「魔力は通さないんで少しだけ振ってみていいですか? こんな機会きっともうないと思うんで……」
普段ならこんなとき素直に返したと思うのだがあまりの魅力につい粘ってしまう。
「気をつけろよ。さっきも言ったが少しでも傷がついたら弁償だからな」
ローザさんはしょうがないなといった顔で頷いてくれる。
自慢の逸品を褒められてちょっと気を良くしてくれたのかもしれない。
「はいっ、ありがとうございます!」
僕はローザさんに深く頭を下げると、少し広い空間があるところまで移動して軽く剣を振ってみる。
だが、軽くといっても超剣術スキルの影響で目にも留まらぬ速度になってしまう。
しばらく振って慣れてくると不思議な感覚を味わう。
(すごいな……)
やはり今まで使っていた剣とは段違いに身体を動かせる。
まるで手足の延長線上、身体の一部のように剣を振れてしまう。
これが本物の剣ということなんだろう。
「まあ、お前みたいな新人冒険者に扱える代物じゃないけど……な……ッ!?」
僕の素振りをみて驚愕し、固まるローザさん。
「ふぅ、やっぱりすごいなぁ。あ……、ありがとうございました」
僕は素振りに満足するとあんぐり口を開けて固まるローザさんの手に剣を返した。
「お前、一体……。ほんとに新人か? すげえ腕じゃねえか」
剣を受け取ったことも忘れて驚くローザさん。
「スキルのお陰ですよ。少し前までへっぴり腰で振り回してましたしね」
僕は頬をかきながら照れくさそうに答えた。
ほとんどスキルの力なので実力かどうか疑わしいところだ。
「そ、そうかよ……。で、今日は何のようだ?」
ローザさんは動揺しながらもオリハルコンの剣を大事そうに仕舞うと用件を聞いてきた。
「実はダンジョンに潜る事になったので予備の剣をもう一本買っておこうかと思って」
「また安物を一本買うのか? 言っちゃ悪いがそんなもんいくら買っても折れるぞ?」
剣を一本補充に来たことを告げると買っても折れると言われてしまう……。
「あなたの店ですよね……? 自分の店の商品を悪く言うんですか?」
「悪くは言っていない、安物だからすぐ折れると言ってるんだ。分相応の代物ってこった」
ニヤニヤしながらそんな事を言うローザさん。
確かにそう言われればそうなのかもしれない。
オリハルコンの剣を触った後だとことさらそう思ってしまう。
安いのにはそれなりの理由があるってことなんだろう。
むしろ商品に対して正直に言ってくれるから好感が持てるし安心できる。
それがこの店を利用している一番の理由だったりする。
「仕方ないですよ。もう少し出世したら良い物を買わせてください」
だけど今の所持金では安物しか買うことができない。
いつか報酬をがっぽり貰えるようになったらさっきのオリハルコンの剣とか装備してみたいものだ。
「お前ダンジョンに行くんだろ? ならレンタルはどうだ?」
と、ローザさんがレンタルを勧めてくれる。
「そんなサービスもあるんですか?」
この店に来てはじめて言われたがそんなサービスがあったなんて聞いていない。
「いや、信用できる奴だけだ。お前は見るからに馬鹿正直そうだしな。でもただの馬鹿正直ってだけじゃあダメだ。死んじまったら回収できないからそこそこ強くないとな。その点お前はさっきの剣の振り方を見る限り資格ありってやつだ」
どうやらレンタルは信用できる者のみのサービスのようだった。
そして僕はその眼鏡にかなったらしい。
「じゃあ、ダンジョンへ潜る間だけのレンタルってできますか?」
早速、ダンジョンへ行っている間だけでもレンタルできないか聞いてみる。
ずっと借り続けるとお金がかかっちゃうしね。
「おう、任せな。お前にお勧めはコイツかな。この間買っていった奴よりグレードが三つほど上の商品だ。破損した場合は分割払いで買い取ってもらうってことでどうだ?」
「わ、わかりました。じゃあそれをお願いします。あ、もう一本いいですか?」
と、いうわけでローザさんお勧めの品をレンタルする事にする。
ついでにコロの分もレンタルさせてもらおうと交渉する。
「なんだ一本じゃ不安か?」
「違います。この子の分もお願いしたくて」
「ご主人様―っ」
ひしっと抱きついてくるコロ。
「そいつも腕は立つんだろうな?」
じっとりとした視線をコロへ向けるローザさん。
「剣術スキル持ちなので大丈夫だと思います」
「そうかい、なら同じものを持っていきな」
ローザさんはあっさりレンタルを了承してくれた。
これは助かる。
「ありがとうございます」
「ありがとうございますわんっ!」
僕とコロはお礼を言いながらレンタルの剣を受け取った。
「お代はちゃんといただくからね」
「はい」
「生きて帰ってきてその報酬でアタシにいい武器を作らせな」
「か、考えておきます」
僕はローザさんへ改めて頭を下げると店を後にした。




