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 その後、僕達は薬を買い終え、ギルドへ向かう途中に教会のような建物の前を通りかかる。


 他とは違うデザインだったため僕は歩く歩調を緩め、その建物をなんとなく見つめてしまう。



「へぇ、こんな建物もあるんだ」


「あれは孤児院ですわん」

「ふぅん、そうなんだ」


 どうやら教会のような建物は孤児院だったらしい。



「コロも故郷で少しの間お世話になりましたわん」

「あ、ごめんね」


「何がですわん?」


 コロに悪い事を聞いちゃったなと思ったら案外ケロっとしていた。


 僕達が話をして足を止めた瞬間、孤児院から男女の怒鳴りあう声が聞こえてくる。何事かと目を凝らすと言い争う男女が中から出てきた。

 二人は入り口でそのままケンカを続け、道行く人の注目を買っていた。


「ん、あいつは……」

「あっ!!!」


 そんな口論を続ける二人の男の方に僕は見覚えがあった。

 たしか、ゴリアテ……。

 僕がギルドで得た報酬を奪おうとした男だ。


(止めた方がいいのかな……、でもなんか……)


 僕のときのように女の人がゴリアテに詰め寄られているのかと思ったが様子を見ると逆だった。


 女の人がゴリアテに強く当たり、ゴリアテは困った様子でたじたじといった体である。


「もうこんな事はやめて!」

「いや、でもな……」

 女の人にしぼむ様な声で反論するゴリアテ。


「また誰から脅し取ったお金なんでしょ!」

「ち、違う……、違うんだアリシア! これはちゃんと依頼をこなして得た金だ……」


 女の人に詰め寄られ弁解するゴリアテ。

 どうやら女の人はアリシアさんと言うらしい。

 アリシアさんとゴリアテの間には小さな皮袋があり、それを二人で押し合っていた。


「ウソ! この間も新人冒険者からお金を巻き上げてたんでしょ!?」

「あ、あれは……失敗したし……。これは本当に違うんだ。それに金がいるだろ?」


「お金なら国から援助されるから大丈夫よ。だから酷いことしないで」

「確かに援助はあるけどこんだけ子供がいるんだ、急な出費だってあるだろ?」


「そ、それはそうだけど……」

「この金は大丈夫だから。な?」


 そう言って再度皮袋を差し出すゴリアテ。



「いらない!」


 だが、アリシアさんは差し出された皮袋を手で払いのけてしまう。

 皮袋には硬貨が沢山入っていたのか地面に落ちるとジャラジャラと独特な音を放つ。


「おいおい……」


 ゴリアテはちょっとしょんぼりした表情で皮袋を拾っていた。


 一連の会話を聞く限り、ゴリアテは孤児院へお金を送るために色々やっていたようだ。



(それならそれであの時ちゃんと話してくれれば半分くらい渡してもよかったのに)

 と、思ってしまう。


 こうやって見ているとゴリアテはちょっと粗暴で不器用な性格の持ち主のようだ。強引なところが直ればきっといい人になるのになあ、と思ってしまう。町の人たちもゴリアテの事情をある程度知っていてあまり強く言えないのかもしれない。知らなかったのは町へ来て間もない僕たちだけだった可能性もある。



「ご主人様っ! あれ!」


 と、コロが僕の袖を引っ張って指差す。

 指差した先にはヒルカワが二人の方へと向かって来るところだった。


「隠れるよ、コロ!」

「かしこま!」


 僕達はすっと物陰に隠れる。


「今日は何がはじまるんだろうね」

「楽しみですわん!」


 今日はこれから一体なにが起こるのだろうか。

 ヒルカワに気づかれないようにしながらじっと事の行く末を見守る。


「あ、これ食べる?」

「わふっ」


 僕は塩を出し、コロに渡す。

 よし、観賞準備は万全だ。



「おーおー、通行の妨げになるから痴話げんかは道の隅でやるんだなぁ。ええ? ゲヒャヒャヒャ」


「て、てめえはヒルカワ!」

「ヒ、ヒルカワ!?」


 ヒルカワを見て、怯えの表情を見せるゴリアテとアリシアさん。

 やはりヒルカワの悪名は町中に知れ渡っているのだろう。


「何? その皮袋いらないのか? なら俺が貰ってやろうかぁ? ゲヒャヒャヒャ」


 ヒルカワはゴリアテが持つ皮袋に目を付ける。


「なっ!? こ、これはダメだ!」

 ゴリアテは慌てて皮袋を大事そうに抱え込んだ。


「なんだぁ? 何が入ってるんだ? ちょっと見せろやぁ」

 そんなゴリアテの必死な様子にヒルカワは逆に興味をそそられたようで皮袋をじっと見つめていた。


「な、何も入っていない! 金……、金だけしか入っていない!」

 ゴリアテはヒルカワに怯え、数歩後退る。



「ふぅん……。っと、いただきぃっ! ゲヒャヒャヒャ」

 しかし、ヒルカワはゴリアテの行動を嘲笑うかのようにあっさりと皮袋を奪い取ってしまう。Fランク冒険者の僕でも見逃してしまうほどの早業だ。


「あっ!?」


 数瞬遅れて皮袋を取られたことに気付くゴリアテ。




「おーおー、溜め込んでるなぁ? どんだけカツアゲしたんだ? ゲヒャヒャヒャ」


「ち、違う! もうそんな事はしていない! 俺は心を入れ替えたんだ!」

 ヒルカワに金の出所を疑われ必死で反論するゴリアテ。

 その目は反論しながらもチラチラとアリシアさんの方を見ていた。



「へー、殊勝な心掛けだなぁ? それでぇ……、そんな心を入れ替えてぇ、金を渡してぇ〜……何がしたかったのかなぁ? おっと……、こいつは何かなぁ。ゲヒャヒャヒャ」


 皮袋をあさっていたヒルカワは何かを見つけて取り出す。

 眼前に掲げられたそれはちょっとこ洒落たデザインの小さな箱だった。



「おい、よせ!」


 表情が一変し、異常に焦り出すゴリアテ。


「小さな箱だなぁ……。なんだろうなぁ?」


「おい! 返せ!」

 ヒルカワが嘗め回すように小箱を見る中、ゴリアテが飛びかかる。

 が、ヒルカワはゴリアテの方を見ることもなく容易くかわしてしまう。



「何か言えば返すぜぇ? 言わないと潰しちまおうかなぁ? ゲヒャヒャヒャ」


「ゆ、指輪だ! もういいだろ返せ!」


 ヒルカワの脅しに屈し、小箱の中身を告げるゴリアテ。

 どうやら中身は指輪らしい。



「へぇ? 指輪……、ねぇ。おー、これはただの指輪じゃないんじゃないかなぁ? ゲヒャヒャヒャ」


 小箱を開け、中から指輪を取り出すヒルカワ。

 ヒルカワの言った通り指輪はとても豪華な作りで綺麗な宝石が散りばめられていた。



「くっ! おい返せって言ってるだろうが!」


 尚も諦めずヒルカワへ飛びかかるゴリアテ。

 だが、ヒルカワはその全てを難なくかわし続ける。


「それは……」

 指輪のデザインに思い当たる節があったのか今まで黙っていたアリシアさんが呟く。



「何の指輪だろうなぁ? ちょっと考えないとわからないなぁ。なあ、ゴリアテはこの指輪、何の指輪だと思う? ちなみにお前が言わないと俺が答えを思いつきそうだぜぇ」

 ニヤニヤと意地の悪い笑顔を張り付かせるヒルカワ。



「こ、婚約指輪だよ……。ここでプロポーズするつもりだったんだよ!」


 観念したかのような表情でゴリアテが開き直って叫ぶ。


「ゴリアテ……」

 その言葉を聞いたアリシアさんが驚き、両手で口元を覆う。


「ふぅん、じゃあ振られたんだな。ご愁傷様だなぁ。ゲヒャヒャヒャ」

 ゴリアテの体当たりをかわし続け、笑うヒルカワ。


「まだ振られてないからな! 気付かれてもいなかったんだ!」


「でも皮袋ごと地面に叩きつけられるようじゃあ望み薄だよなぁ? 諦めた方がいいんじゃないかぁ? ええ?」


 気付かれていなかったとしてもあんな仲じゃどうせ無理だろうと笑うヒルカワ。

 そしてヒルカワはゴリアテがしつこく体当たりをしてくるのに飽きたのか指輪を小箱に戻すと皮袋に入れて投げ返した。


「うるせえ! 見てろ!」

 ゴリアテは皮袋を受け取るとヒルカワに啖呵を切り、小箱を取り出す。。


「おーおー、見ておいてやるよぉ。ゲヒャヒャヒャ」


「くそっ……、ア、アリシア」

 ゴリアテはヒルカワに取った態度からは想像できないほどおどおどしながらアリシアさんへ向き直る。


「何よ……」

 普段からは想像できないゴリアテの態度に言いよどむアリシアさん。


「色々段取りがくるっちまって恰好悪いったりゃありゃしねえけどよ、ここで諦めるわけにゃあいかねえ。……諦めきれねえ」


 ゴリアテはアリシアさんの方へ近づくと何かを思い出すようにゆっくり話し出した。


「お前のことは一緒に孤児院で育ってきたから兄妹みたいな気分でいたし意識することなんてなかったんだ。だけど、お前が院長の跡を継いでここを切り盛りしてる姿を見てたら……、放っておけねえっていうか……。今まで自分は何やってたんだって気分になっちまってよ」


「……それで?」

 言葉少なくゴリアテを見据えるアリシアさん。



「それからはその……、時々ここの様子を見に来てたんだ。そしたら見てられねえっていうか……。俺にも何か出来ないかって気分になっちまって……、でも上手くいかなかった」


 ゴリアテの言葉にアリシアさんは言葉を返さず、じっと見つめていた。



「お前の力になりたいのに何の力にもなれない自分が情けなくてやけになって悪さしちまって……。金の出所がバレてお前に散々言われてすっげえ落ち込んで気付いたんだ。俺はお前が好きだってことに」


 ゴリアテはアリシアさんの前に片膝を着くと指輪の入った小箱を突き出す。



「だから、変わる! 悪さは二度としねえ! お前に嫌な思いも悲しい思いもさせない! お前のことが好きだ! 一緒になってくれ! 頼む!」



「…………」


 アリシアさんはゴリアテの言葉を聞いても腕組みしたままその場から動かない。

 だが表情に冷たさはなく、やんちゃな弟を見て困った顔をする姉のような表情だった。



「アリシア?」


「約束よ……。でも、それはあなたが一人で変わるべきことじゃないわ。一緒になるなら二人で変えていくべきことよ。あなただけでなく私も変わる、あなたに嫌な思いも悲しい思いもさせない。あなたが道を踏み外しそうになったら私がぶん殴ってやるんだから覚悟しなさいよね!」


 ゴリアテをキッと睨むアリシアさん。その頬は朱に染まっていた。


 アリシアさんが照れ怒っているのも無理はないだろう、なぜなら一連の騒動を聞きつけて二人の周りには大きな人だかりが出来ていたからだ。



「アリシア! じゃあ……」


 破顔し目を見開くゴリアテ。



「さっさと指輪を寄越しなさい!」


 アリシアさんは顔を真っ赤にしながら指輪の入った小箱をひったくった。



「うおおおおおおおお!」


 絶叫し飛び跳ねるゴリアテ。

 どうやらプロポーズは成功に終わったようだ。


 周りに居た人だかりからも拍手が上がる。




「おーおー、めでたいねぇ。式には呼んでくれよぉ? じゃあな。ゲヒャヒャヒャ」


 二人を見てフッと軽く笑ったヒルカワは祝福ムードが漂う喧騒に背を向けるとその場を去っていった。




「行こうか」

 と、僕はコロに声をかける。




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