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「ッ! これはッ!!!」
塩スープを一口飲み、目を見開いて驚きの声を上げるギンギンおじいさん。
「どうしましたわん?」
駆けつけるコロ。
「まず器を近づけただけで感じ取れるとてつもなく濃厚で芳醇な香り……、これはもしや……香りづけに塩が使われているのか!」
「その通りです」
遠巻きに見ていたリリアンナがふふん、と得意気に頷く。
ギンギンおじいさんはリリアンナの言葉に"なるほどそういう事か"と深く頷くと更にスープをすする。
そしてまたクワッ! と目を見開いた。
「そしてこの深い味わい! そうか! 出汁か! 出汁に塩を使っているんだな! それでこんなにも奥深い味が……」
「そうだよ〜」
うんうん、と頷くエイリーン。
ギンギンおじいさんはエイリーンの言葉に"やはりな"と予想が的中したことに満足そうな顔をして更にスープをすする。
そして今度はクワッ! クワッ! と目を二段階上げて見開いた。
「更に味が単調にならない様にアクセントとしてしっかりとしたスパイスが効いている……。これは…………、塩だな! 塩の風味が味を締めているんだ!」
「ふふ、どうですわん?」
満面の笑みでドヤるコロ。
ギンギンおじいさんはコロの言葉に"やりおるわ"といった表情で腕組みしながら唸る。
そして腕組みした状態で一拍置いた後、おもむろに口を開いた。
「こいつは…………うまい!」
塩スープを飲んだギンギンおじいさんの反応にざわつく客……。
ギンギンおじいさんはそんなざわつきなど意に介さずお椀に盛られた塩を手に取る。
「次はこの塩か……。一見ただの塩だが……」
次にギンギンおじいさんはお椀に盛られた塩をスプーンで一すくいして口へと運んだ。そして、咀嚼しじっくりと味わう。
その様を見てさっきまでざわついていた店内が一気に静まり返り、周囲の客の視線がギンギンおじいさん一点に注がれる。
「どうですか?」
と、僕が尋ねてみる。
「塩だ! まごうことなき塩だ! 純粋に塩のみだ! が、うまい! 箸が進むのが止まらん! ガツガツガツッ!!!」
そう言うとギンギンおじいさんはスプーンを往復させる速度を上げ、塩を貪り食いはじめた。ギンギンおじいさんがあまりに美味しそうに食べるせいでこっちもお腹が減ってくる。僕も後でこっそり食べようかな、塩を。
「あんまり急いで食べるとむせるよ〜?」
心配そうに声をかけるエイリーン。
「むぉぉおおお! 塩だけなのに異常にうまいぃいいっ! 止まらんぞおおお!」
若かりし頃を思い出したかのように猛るギンギンおじいさん。
「フフッ、そこでこうするわん」
そんなギンギンおじいさんの隣にいたコロは得意気な顔で塩を一摘み取ると塩へ軽く振りかけてみせる。
「なっ! 塩に塩を振り掛けただと!? それに一体どんな意味が……。――ッ! 甘いッッッ! 甘くなってるぞおおおおぉぉぉぉおおっ!」
口から炎を吐く勢いで塩が甘くなった事を報告するギンギンおじいさん。
そんなギンギンおじいさんの食事風景を見た他の客は騒然とする。
――くっそ、なんて旨そうに食いやがるんだ……。こっちは腹が減ってしょうがないっていうのによ。
――おい、こっちに塩と塩スープを頼む!
――なっ!? じゃあこっちもだ! こっちも塩と塩スープをくれ!
――俺も! 俺も頼む!
――クソッ! もうなんだっていい! こっちにも同じものを頼む!
ギンギンおじいさんの旨そうな食いっぷりを見た他のお客は我慢できずに競い合うようにして塩セットを注文しはじめた。
「は、はい。少々お待ちを」
オーダーを受けて慌てふためきながら塩を出す僕。
「はいはい、ですわん」
「少々お待ち下さい」
「順番だから待ってね〜」
僕が作った塩セットを受け取り、各テーブルへとみんなが運んでいく。
――うめえ……。
――どうなってるんだ……。
――おい! 追加だ! 塩の追加を頼む!
――ガツガツガツッ! ヒャーッ、ウメェエエエ!
――奥で縮こまってるあの子を見ながら塩を頬張る……。最高だなッッ!!!
――というかあの子、今手から塩を噴かなかったか?
――つまり塩噴きウエイトレスってことか……。
どうやら塩は好評のようだった。
だが僕の寒気は留まるところを知らない。風邪でもひいたのだろうか……。
そんな悪寒を感じながらもせっせと塩セットを作っているとリリアンナが吼えた。
「クッ、もう我慢できないッ! 私にも塩を……!!!」
どうやらリリアンナは周りで沢山の人が塩をドカ食いする光景に耐えられなかったようだ。わなわなと震え、お客のオーダー品を食べようと手を出す。
「だめ〜、仕事中だよ〜?」
今にも塩に飛びつこうとするリリアンナを羽交い絞めにして止めるエイリーン。
「ならこうすればいいでしょうっ!?」
リリアンナはエイリーンを引き剥がすとおもむろに服を脱ぎはじめた。
あまりの展開に呆然としてしまう僕。
制服であるメイド服を脱ぎ終わったリリアンナはいつものマイクロビキニ姿へと戻っていた。
そして――、
「仕事は辞めた。これで私もお客です! さあ、塩を! 私にありったけの塩をお願いしますソルト!」
――塩を注文した。
制服を脱げば問題ないと判断したのだろうか。




