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なし崩し的にドンドン話が進んで行く。
だが、事ここに至っては否定的なことを言っても話が長引くだけだ。
それならさっさと話を進めてしまった方がいいだろう。
「話が早くて助かるぜ。そこのお嬢ちゃんたちも一緒にいいか?」
僕の両肩を掴んだままコロ達の方へ視線を向けるクッコさん。
「もちろんですわん!」
「心得ました」
「いいよ〜」
コロ達はこれをあっさり了承。
めでたく四人で店の手伝い決定である。
「よし、これで店を開けることができるぜ! とりあえずアンタたちは制服に着替えてきてくれ、更衣室はこの奥だ」
ガッツポーズして大喜びのクッコさん。
そしてカウンターの奥にある更衣室を指差した。
「どんどん話が進んでいくなぁ……」
「ご主人様行きましょう!」
呟く僕の背を押して一緒に更衣室へと向かうコロ。
「これは言うなれば塩屋……、なんて夢のような響きなんでしょう」
「はいはい、行きましょうね〜」
恍惚な表情で固まるリリアンナの背を押して更衣室へ向かうエイリーン。
僕達は制服に着替えるべく更衣室へと向かうのだった。
…………
「あれ?」
更衣室へ到着し、ロッカーを開けた僕は疑問の声を上げた。
「どうしましたわん?」
僕の声を聞きつけてコロが衝立を越えて近寄ってくる。
「わわっ、服、服着てコロ!」
が、僕の傍へやって来たコロは下着姿のままだった。
僕は両手で目を隠しながら慌てふためく。
「慌てなくても今着ますわん。シュバッ!」
「早着替えだね〜」
「こ、これでは敏捷性が落ちてしまいますね」
僕が恐る恐る手をのけてまぶたを開けるとメイド服調の制服に着替えた三人が眼前に居た。みんな制服が似合っていてとてもかわいい。
「いや、リリアンナはそれ位しっかりとした服を着て欲しいんだけど……」
リリアンナの呟きを拾ってついツッコんでしまう。
服っていうのはそれくらいの布面積あった方がいいと思うんだ。
「で、どうしましたご主人様?」
「いや、男物の制服がないみたいなんだよね」
コロに問われて僕が声を上げた理由を答える。
そう、ロッカーの中には男物の制服がなかったのだ。
どこを探しても女物ばかりなのである。
よくよく思い出してみると食事をしていたとき店内を回っていた店員さんはみんな女性だった。男性の店員は店主のクッコさん以外見たことがない。
これはもしかして男物の制服がないのではないだろうか……。
「大丈夫ですわん。ご主人様なら何でも似合いますわん」
サムズアップし、バッチーン! とウィンクするコロ。
これは……、励ましてくれているのだろうか。
「いや、そういう事じゃなくて……」
僕は困惑しながら返答する。
「どうやら男物はないようですね」
「これは仕方ないね〜」
「わふっ、仕方ないです!」
三人は示し合わせたように頷き合い、ニヤリと口角を吊り上げる。
「ちょ、ちょっと! なんでみんなこっちに寄ってくるの!?」
両手をわきわきさせながら僕の方へにじり寄ってくる三人。
皆笑顔のはずなのになぜか全身に悪寒が走る……。
危険を感じた僕は近寄られた分だけ後退ってしまう。
だが、しばらくすると壁にぶち当たり身動きが取れなくなってしまった。
それでも三人は前進を止めず、こちらへじりじりと寄って来る。
「大丈夫怖くないですよ」
笑顔のリリアンナ。
「脱ぎ脱ぎしましょうね〜」
笑顔のエイリーン。
「お着替えを手伝うのもお仕事ですわん」
笑顔のコロ。
みんなとびきりの笑顔だった。
笑顔を張り付かせた三人の魔手が僕へと迫る。
「え? え? イヤーーーーーッ」
そして僕は三人の手により、服を全て脱がされてしまった。
それと同時に悲鳴を上げてしまう。
「大丈夫です。私に身を任せて」
「へぇ〜、こんな風になってるんだ〜」
「む、かわいいですわん」
服を脱がされ一糸纏わぬ姿になった僕を眺めて皆がそれぞれの感想を述べる。
そんな中、コロが何かの準備をはじめていた。
それを見た僕は目を見開く。
「うう、なんでこんなことに……。って、コロ! 何持ってるの!?」
「ブラですわん?」
“知らないのですか?”といった感じのきょとんとした表情で答えるコロ。
「いや、いらないから! 必要ないよね!?」
僕の胸部には必要のない物だと訴えかける。
「ソルト、ああ見えてあれは大胸筋矯正サポーターという可能性もありますよ」
「間違いない〜」
リリアンナとエイリーンが適当な事を言ってくる。
「いや、コロがブラって言ったよね!?」
「目一杯綿を詰めるのでお待ち下さいわん」
僕がリリアンナとエイリーンに声を上げている間にコロが着々と準備を進めていく。
「メガ盛りわん」
「コローーーーーッ!?」
綿を詰めたブラを見て満足気に頷くコロ。
しかし出来上がったそれは胸の上部にスマホが乗りそうなほどたわわになってしまっていた……。
「それでしたらこれもどうでしょうか」
「いいね〜。似合いそう」
僕がコロに絶叫している頃、リリアンナはどこからともなくピンクのロングヘアーのウィッグを取り出していた。それを見て黒いストッキングを出してきたエイリーンが満足気に頷く。
「え? ちょっと……何もそこまでしなくても」
あまりの展開に言葉を詰まらせる僕。
僕は一体どうなってしまうのだろうか……。
「ソルト。むしろこれをつけたほうが誰か分かりづらくなると思いますよ?」
「そうそう〜」
ピンクのウィッグを抱えたリリアンナがニッコリと微笑み、黒いストッキングを手に取ったエイリーンがニッコリと頷く。
「よし! 被るよ!」
僕は頷いた。
バレにくいというなら了承するほかない。
「そうこなっくちゃね〜」
そんな事を言いながら粛々と僕に女物の制服を着せていくエイリーン。
……完成は間近だ。
「うう……、何かがおかしい」
ギリギリ理性を保っていた僕はそんな台詞を呟いた。
「似合っていますよ。……本当に似合っていてかなり庇護欲を掻き立てられてしまいますね」
完成した僕の姿を姿見に映しながら妙に顔を赤らめるリリアンナ。
「お揃いだね〜」
隣に立って一緒に姿見に映るエイリーン。
「ぴらッ!」
なぜかスカートをめくるコロ。
「コロ!?」
「よしっ!」
「何がよしなの!?」
「コロとお揃いですわん。見ますか?」
「いや、いいよ!? さっきも不慮の事故で見ちゃったしね!?」
「やっぱり着るなら全部女物に統一しないとダメですわん」
「うう……」
僕はコロの言葉に何も返すことが出来なかった。
「それではお店の方に戻りましょうか」
「だね〜」
「れっつごーですわん!」
三人は何とも楽しげな雰囲気で僕の背中を押し始める。
「え? え? 冗談だよね? ギャーーーーッ」
抵抗も空しく、女物の制服を着た僕はお店へと連れ出されるのであった。
…………
「よぉし、準備できたみたいだな。で、肝心の塩の貯蔵は十分かソルト?」
「うう…………なぜこんなことに……」
クッコさんの言葉も耳に入らず、グチグチと独り言を言ってしまう。
「おい!」
「大丈夫ですよっ!」
クッコさんの大声に僕は開き直ったかのような大声で返した。
「じゃあ店を開けるぞ! 開店だぁっ!」




