37
それを聞いたエイリーンさんはピンと立てていたリス耳をふにゃ〜としおらせながらがっかりした顔になる。
「ああっ、ご、ごめんなさい」
色々お世話になったのに遅刻したり説明しなかったりとひどいことをしてしまったと反省し、猛烈に頭を下げる僕。本当に申し訳ないことをしてしまった。
「ウソじゃないでしょうね! ちょっと見せなさい〜!」
「えーっと、じゃあ、ティンダーっと」
すごんでくるエイリーンさんの前でティンダーを披露してみせる。
僕が魔法名を言うと同時に指先にぽっと小さな火が灯った。
「わわっ! 危ないじゃないッッ!!! って、おー」
僕のティンダーのすごさを知っていたエイリーンさんは目を見開いて身構えたが、魔法が正常に作動した事に気づき、関心の声を漏らす。
「ね、大丈夫でしょ?」
「本当だね〜。でもそれなら昨日の内に言って欲しかったわ。それならお昼までぐっすり寝れたわけなんだよね〜」
僕の自慢げな言葉にエイリーンさんは半眼で愚痴る。
返す言葉もない僕はひたすら頭を下げた。
「コラッ! お昼まで寝てたら講師の仕事どうするの!」
と思っていたら後ろにいた受付の女の子からツッコミが入る。
「おわっ」
ビクっとするエイリーンさん。
それに連動して大きなリス尻尾もビクンと反応する。
「昨日エイリーンさんと会った後、色々とあってすっかり忘れてしまってたんです。本当にすいませんでした」
僕は驚いて一時停止するエイリーンさんに再度謝った。
ちょっと不謹慎かもしれないけどビックリしたエイリーンさんがリス耳と大きな尻尾をピンとさせた姿はなんともかわいらしかった。
「んも〜、まあ許してあげる。じゃあ今日はこれから依頼をこなすのかな〜?」
「はい、その予定です」
「んじゃ、私も着いてくよ〜。完全に使いこなせているか見させてもらうよ? 本番で暴発させてたら意味ないからね〜」
「ええ!? 着いてくるんですか!」
今日の予定を答えるとなぜかエイリーンさんも同行することになってしまう。
「何〜? 着いてこられるとまずいことでもあるの〜?」
僕の反応にエイリーンさんは上目づかいにいたずらっぽく微笑み、顔を近づけてくる。そんなエイリーンさんの周りをまるで別のかわいい生き物のように大きなリス尻尾が揺れ動く。
「ないですけど……。依頼達成には協力してもらえるんですか?」
にじり寄ってくるエイリーンさんに僕はたじろきつつも質問する。
折角一緒に来るなら手伝って欲しいしね。
「ただ見てるだけじゃ退屈だから手伝うよ〜。その代わり報酬はちゃんと貰うからね」
「ん〜、それならいいか……。リリアンナに話して四人向きの依頼へ変更しないとな……」
どうやら一緒に依頼をこなしてくれるらしいので同行を承諾する。
予想外のところで戦力ゲットだ。
「じゃあ決定〜!」
と言いながら僕にひしっと抱きついてくるエイリーンさん。
「わ、わかりました。みんなに事情を説明してきますね」
慌てた僕はエイリーンさんを引き放しつつ、みんなとの合流を図ることにする。
…………
「と、いうわけなんだ。二人ともいいかな?」
「はいっ! よろしくお願いしますわん」
「了解です。むしろ戦力が増強されてありがたい位ですね」
コロとリリアンナに事情を説明すると二つ返事で了承してくれた。
やっぱり戦力増強はありがたいのだろう。
「じゃあ、よろしくね〜」
笑顔で挨拶するエイリーンさんに続いて皆の自己紹介が終わり、依頼をどうするかという話になる。
「リリアンナ、四人に増えたのですが依頼はどうしましょうか」
一人増えた分選択肢も広がるはずだろうと僕は尋ねた。
「そうですね……、戦力が増えたのは心強いのですが皆初対面に近い。だからお互いの事がわかっていないと思うんです」
「確かに。僕なんか四人で戦うこと自体はじめてですよ」
リリアンナの言う通り、僕達はまだ知り合ったばかりだ。
それに僕は多人数で戦った経験もない状態だ。
「コロもですわん」
僕の言葉にコロも頷く。
お互いこの町に来るまで戦闘経験は皆無だったのである。
「ん〜、少し難易度が低い依頼を選んだ方がいいかもね〜」
僕達の言葉を聞いて思案顔で発言するエイリーンさん。
リス尻尾は悩まし気に体に巻き付いていた。
「私もそう思います。というわけで三人でやろうと思っていたオークの討伐依頼でいこうと思うのですがどうでしょうか?」
エイリーンさんの言葉を引き継ぎ、リリアンナがオーク討伐を提案してくれる。
こうやって説明されるとその選択が一番無難な気がする。
「わかりました」
リリアンナの言葉に僕は頷いた。
「はいっ!」
「ん〜、いいと思うよ」
それに続いて、コロとエイリーンさんも了承する。
「よし、決まりですねっ」
腕組みして深く頷くリリアンナ。
と、いうわけで初パーティでの依頼はオーク討伐に決定だ。
「じゃあ早速受けましょうか。オークの複数討伐依頼ですね?」
と、リリアンナに確認し、依頼の紙を掲示板から取って受付へと向かう。
「ええ、お願いします」
「がんばりましょう!」
「まあ、ほどほどにね〜」
と、三人に見送られた僕は受付での手続きを済ませた。
受付を済ませギルドを出た僕たちは準備を整えて町を出ると、オーク退治に向かった。
…………
「ソルト、オークと対面したときの簡単な陣形を決めておきましょう」
「わかりました。といってもどうやって決めれば……」
道中、リリアンナの提案により、パーティ内での立ち回りを決めることになる。




