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「服を買いに行きましょう!」
やっぱりマイクロビキニは何かとまずい。
ここは僕が服を一着買って贈るべきだろう。
「は、放してください!」
と、言うも抱き上げられたリリアンナは身じろぎ一つしなかった。
「放しませんよ? 服を買うまではね!」
僕は顔を赤らめつつ大した抵抗もしないリリアンナにウィンクを返す。
「ご主人様―!」
なぜかコロが感激して僕に抱きついてくる。
やれやれ、困ったものだ。
「わ、私は……こんな……、君だってお金に困っているはずなのに……、こんなに良くされて……、私は君に一体どれだけ返せばいいというのです……」
「気にしないで下さい。放っておけなかっただけなんで……」
宿を出て、服屋へ向かう途中、リリアンナは何かモゴモゴと言っていたが僕は自分の気持ちを正直に告げる。
「ッ! そ、そうか……」
僕の腕の中で言葉を聞いたリリアンナはなぜか全てを悟ったような晴れやかな表情へと変わる。
そう……、ちょっとした覚悟みたいなものを感じてしまうほどに。
「さあ、着きましたよ。とりあえず好きな服を一着選んで下さい」
「いや……、ですが……」
服屋へ到着しリリアンナを促すもまだ決心がつかないようだった。
「遠慮しないで下さい。これから一緒にパーティを組む仲間じゃないですか」
僕はもう一押ししてみる。
結局服を買わないとそのままだしね。
「仲間! そ、そうですね……。ですが、服はさすがに気が引けます。だからこのマントをお願いします」
「え? それでいいんですか?」
が、リリアンナが選んだのは服ではなく、マントだった。
「ええ! なんせこの恰好は動き易いですからね!」
自分に言い聞かせるように声を張るリリアンナ。
「わ、わかりました」
僕はリリアンナの勢いに押し切られる形で納得した。
まあ、いいんじゃないかな。
「助かります!」
そう言いながらリリアンナは会計の済んだマントをマイクロビキニの上からファサッと羽織った。
「やっぱりお仕えするんです?」
コロはマントを羽織ったリリアンナをじっと見つめながら問いかける。
「くっ、仲間だ! た、ただのパーティメンバーです!」
「食客ですわん?」
コロの攻めの姿勢は揺らがない。
「違う! ……いや、だが……私は……」
「はいはい、行きますよ」
僕は言葉に詰まるリリアンナの背を押して服屋を出た。
そして店の外へ出るとおもむろに走り出す。
「ごーっ!」
そんな僕に楽しそうに並走してくるコロ。
「待って、聞いているのですか!」
僕達二人が駆け出したのをみて慌ててついてくるリリアンナ。
僕はそんな二人と一緒にワイワイと騒ぎながらギルドへ駆けた。
(そういえば朝食を食べ損ねちゃったな……)
などと考えながら僕はふーふーと息を吐きつつ、走って痛む横っ腹を手で押さえた。
…………
「さて、じゃあギルドで依頼探しをしますか。僕はまだ依頼の良し悪しがわからないのでリリアンナが便りです」
「お願いしますリリアンナっ」
冒険者ギルド前へと到着し期待の視線をリリアンナへ送る僕とコロ。
「ま、任せなさい! それよりちょっと花を摘んできます。す、少し待ってください」
そう言って路地裏へと入り込んでいくリリアンナの手にはしっかりと塩が握られていた。
「あ、はい」
「いってらっしゃい!」
……ギルドに入るのにも緊張するのだろうか。
そんな事を考えながらコロと二人で手を振って見送る。
そしてリリアンナを目で追っていると不意に気になるものが目の端にひっかかった。
「ん、あれは」
「あいつは!」
リリアンナとすれ違うようにしてヒルカワが見えたのだ。
それを僕と同時に気付いたコロも驚きの表情を見せる。
僕達の視線は自然とヒルカワを捉えていた。
「おい、テメエこんな朝っぱらから何走ってんだ! ああ?」
「ヒィッ! こ、これは……、ちょっと最近お腹が気になってきたので朝にジョギングを……」
どうやらヒルカワは側を通りかかったジョギング中のおじさんに突っかかっている様子。
上下スポーツウェアっぽい物を着てやる気満々だったおじさんはヒルカワに凄まれて怯えながら答える。
「そいつは朝からご苦労な事だなぁ! 俺様が協力してやるよぉ? なぁ? ゲヒャヒャ」
「ヒイィィッ! お許しをっ!」
ヒルカワはニヤニヤとした表情でおじさんに近づくと胸倉を掴んで体を引き上げてしまう。おじさんは驚いて手足をばたつかせ、何とかその状況を脱しようとしていた。
「あいつーーっ!」
そんな二人の様子を見て怒り心頭のコロ。
犬歯をむき出しにしてグルルッと吼える。
「そんな熱心に走りこむお前に俺様からのプレゼントだぁ! ゲヒャヒャヒャッ」
「な、何を!?」
そしてヒルカワは身動きの取れないおじさんの首に妙なデザインの首輪をはめた。
突然の事に戸惑いを隠せないおじさん。
「もう我慢できないーーっ!」
限界を迎えたコロが飛びかかろうとする。
「待って」
僕はそんなコロの肩を掴んで止める。
「その首輪はなぁ、走行時、およそ時速八キロを保ち、最大心拍数の五〇%程度をキープしないと、肩部に低周波が発生するんだぜぇ。低周波ってのはなぁ、呪いだぁぁアッッ!」
「ヒィイイッ!」
「いいかぁ? 早すぎても遅すぎてもダメだからなぁ? さっさと家に帰ろうとしても無駄だぞ? じっくりと走るんだぁ。有酸素運動は二〇分以上しないと効果がでないからなぁ。ちゃんと走らないと殺すぞオラアアアッッ!」
「ど、どうか命だけはぁあっ! 毎朝ちゃんと走りますうぅぅ」
「よぉし、試しに走ってみろ、オラアッ! ちゃんと速度が出たらポンポン! て音がするようにしてあるからな! 走れオラァッ! どんな音がするか言いながら走れえッ!」
「ヒィィ! ポンポン! ポンポン! ポンポン! ポンポン! ポンポン!」
「ちゃんと腕と膝も上げろよぉ? 全身をしっかりと動かすんだ。後、走る前は柔軟体操をすることも忘れるなよぉおお? その呪いの首輪は体脂肪率が一九%以下になるまで絶対外れないからなぁ! 残念だったなぁああッッ! ゲヒャヒャヒャ」
「ああぁっ!! 毎日走って痩せないと大変なことにぃぃいっ」
などと言いながらヒルカワは走り終えたおじさんを氷風呂に放り込んでアイシングを施した後、体を入念に揉みほぐし、関節部に異常がないことを確認すると雑踏の中へと消えていった。
「行こうか」
「わふっ」
全てを見届けた僕はコロの肩を掴んでいた手を放してギルドへと向かうのだった。
……リリアンナはしばらくすれば追いついてくるだろう。




