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が、それよりも……。
(ひ、人を襲うってやばいじゃないか!)
簡易鑑定の結果を信じるなら眼前のゼリー状の物体は人を襲うらしい。
まだこちらには気付いていないみたいだし、ここは逃げた方がいいだろう。
そう考え、足音を立てないようにと少しずつスライムから距離を空ける。
と、またもやガサガサと茂みの中を移動するような音が後方から聞こえてくる。
まさか……、と振り向けばもう一匹増えていた。
そんな事実に固まっている間も物音が止む事はなく、気が着けば周囲はスライムに完全包囲されてしまった状態へと変化する。
(うそだろ……)
異世界にやってきて数秒でモンスターに包囲とかありえない。
どうやってこんな状況から脱すればいいんだ……。
(そ、そうだ! 異能を使えば!)
と、異能のことを思い出す。
だが僕の異能は【塩】だ。
白い部屋で自分の異能が【塩】で喜んだのは単純に節約生活できると思ったからで戦闘に使えるとはこれっぽっちも思っていなかった。
今、この状況でその【塩】がうまく機能するとも思えなかったが他に頼れる手段も思いつかない。
「くそっ! これでも食らえ!」
僕は心の中で何度も塩、塩、塩と念じながら右手を眼前のスライム目掛けて突き出した。
するとバッサァッ! と勢い良く掌から塩が噴き出る。
……なんか土俵入りしている気分だ。
噴射された塩はスライムへと降り注ぐ。
そして……。
「お! しぼんだ!」
スライムがナメクジに塩をかけたときのように見る見るしぼんで消えてしまったのだ。残されたのは核の部分のみとなる。
(これはいける!)
手応えを感じた僕は両手を広げてその場でグルグルと回転する、そして――
「うおおおお! 塩、塩、塩、塩、塩おおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおッッ!!」
と叫びながら両手から塩を噴射した。
塩スプリンクラーと化した僕はひたすら塩を撒き散らし続ける。
「ハァハァハァ……、やった……か?」
途中で気持ち悪くなった僕は塩の噴射をやめ、両膝に手を着いて息を整える。
そして顔を上げると周囲にスライムの影はなく、辺り一面塩まみれになっていた。大成功だ。
僕が戦果に安堵するのとピコーン! という例の音がするのが同時になる。
何ごとかとステータスを開くと、【もんすたーをたおした。もんすたーをたおした。もんすたーをたおした。しおざわはれべるがあがった。もんすたーを……】とログが埋め尽くされていた。
ちょっと音がうるさいので消音にしておく。
そして肝心のステータスの方はというと――
しおざわ そると LV3
ちから 300
まどう 300
からだ 300
はやさ 300
いのう SIO
いせかいご
かんいかんてい
あいてむぼっくす
――レベルが二上昇し、ステータス値も上昇していた。
「おお、案外早いな……」
スライムを数匹倒しただけでこんなに上がるものなのかと驚いてしまう。
(一応核っぽいのも回収しておこうか……)
スライムを倒すとその核らしきものが残る。
こういう時、モンスターの部位をお店なんかに持ち込んだりすると換金してもらえるのがファンタジー物あるあるなので一応回収しておく。
僕は山盛りの塩をかき分け、核を手に取るとアイテムボックスを起動させて収納していく。
「へぇ、ポンポン入るなぁ」
アイテムボックスに制限のようなものはなく、お手軽に入っていく。
数量制限や使用制限なんかも検証した方がいいのかもしれないが今は適当にやっておく。
(ちょっと、狩ってみようかな……)
核を回収し終わって一息つくと、そんな誘惑に駆られてしまう。
はじめて異能を使ったとき、ステータスを開いたときと同様、感覚的にどういったものかがわかった。その感覚でいうと異能の使用限界まで全然余裕がある。
まだまだ無駄撃ちし放題の状態だ。
一刻も早く森を出て人里を見つけるべきなのは重々分かっているがゲーム好きの男子としてはこの状況は美味し過ぎる。
幸いまだ日は高い、少しぐらいはめを外しても大丈夫だろう。
「やっちゃうか!」
僕は意気揚々とスライム狩りをはじめるのだった。
…………
(ステータスオープンっと)
僕はおもむろにステータスを開き自分の状態を確認する。
しおざわ そると LV20
ちから 2000
まどう 2000
からだ 2000
はやさ 2000
いのう SIO
いせかいごほんやく
かんいかんてい
あいてむぼっくす
と、いうわけでこれが今の僕のステータスだ。
あの後、ひたすらスライムを狩りまくった結果がこれだ。
なんか結構強くなった感じがするのは気のせいだろうか。
止めようかなと思ったタイミングでレベルが上がってしまうので異能の使用限界が来ず、ついつい遅くまで狩り続けてしまった。なんていうかRPGの序盤あるあるだ。
とりあえずスライム狩りは森が雪原かと疑ってしまうほど塩塗れになってしまった段階でやめた。
そして、狩りすぎたせいで夜になってしまった……。
「もうどうしようもないな……」
周囲に明かりのない状況では何も見えない。
これはもう、今日この森から出るのは諦めて野宿でいくしかないだろう。
(お腹減ったしご飯にしようかな)
そう思った僕は早速異能の【塩】を使い、茶碗一杯分の塩を出す。
そして貪り食った。
ご存知の通り、塩は完全栄養食なのでこれさえあれば食事にも困らない。
そういう意味でもこの異能には感謝している。
ちょっとしょっぱいのが難点だが何も食べれないよりマシだ。
「ふむ……、寝るか」
と、僕はその場にゴロンと寝転がった。
…………
「ん、もう朝か」
目が覚めると視界一杯に青空が広がっていた。
「ん?」
制服についた土を払いながら立ち上がると何やらかみつかれたような跡が全身にちらほらある。まあ、安眠できていたわけだし特に問題ないだろう。
僕は朝食に茶碗一杯分の塩を出してささっとかきこむと今日の予定を決める。
昨日はイレギュラーな出来事のせいで予定が狂ったが今日は森から出たい。
その後、できれば道を見つけて人里を目指したいところだ。
昨日スライムを追い掛け回したおかげで森の中は大分把握できた。
多分道を見つけることも難しくないと思う。
(よし、行こうか!)
僕は森を抜けるべく、一歩踏み出した。
「お?」
そしてしばらく進むと森が開けて大きな道のようなものが見えてくる。
(やった! 森から出れそうだぞ!)
嬉しくなった僕は自然と駆け出していた。
すると道の方から何やら大声が聞こえてくる。
「ん?」
僕は木の影に身を隠しながら様子を窺う。
盗賊とかだったら嫌だなと思いながら目を凝らす。
すると、中年の男と女の子が言い争っているのが見えた。