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スキルセットを終えた僕は受付の女の子のスキルボードを返すとその場を離れた。
そして、これからどうするかを考える。
(超剣術スキルを試せなかったな……。テストだけなら大した時間もかからないしちょっと外でやってみようかな)
スキルを軽く試して帰って来るくらいなら充分な時間がある。
「コロ、ちょっと外で練習したいけどいいかな?」
「わかりましたっ!」
コロに了承を得ると早速ギルドから出る。
そして昨日壊れてしまった安物の剣を再度補充すると僕達は町の外へと向かった。
…………
「うし、この辺でいいかな」
「町は見えないですし、道からもかなり離れましたね」
町から遠ざかり、街道から少し離れた場所に移動した僕達は頷き合う。
丁度目の前には大きな川があってなんとも涼しげな雰囲気が漂っていた。
「うん。ちょっとどんな感じになるかわからないから人気がない方がいいしね」
「コロはどうすればいいですか?」
「しばらく僕が色々とスキルを試すからコロはモンスターが近寄って来ないか見張っててくれるかな?」
「わかりましたわん!」
「うん、よろしくね」
僕はコロに見張りをお願いすると、周りに被害が出ても大丈夫なように開けた場所へと移動する。
(じゃあ、超剣術からいってみますか)
ちょっとワクワクしながら剣を抜いて構えてみる。
するとなんとも不思議な感覚が全身を支配し、自然と体が動いた。
どう剣を持てばいいのか理屈ではなく、感覚でわかる感じだ。
その感覚に任せて剣を軽く振ってみる。
すると途切れのない流れる水のような動きで剣を振れてしまう。
この感じなら一日中振っていても疲れなさそうだ。
「ふむ……。こんな感じなのか……」
スキルに馴染んだ体の動きに違和感を覚えたがそのうち慣れてくるだろう。
とても不思議な感覚だったがどうにも今使っている剣に違和感を覚えるせいかあまり上手く振れている感じがしない。さすが安物といったところだろうか。
次に実際に切った感じを試そうと足元に落ちていた小枝を三本拾って宙へと投げた。そして枝を剣で切りつけてみようと構えを取る。
すると、切ろうと意識した瞬間、落下する枝がスローモーションのようにゆっくりと見えてしまう。スキルに支配された僕の体はとても自然な動きで宙に舞う三本の枝を的確に切ってしまった。
だが、枝を切ってもまだまだ余裕がある。
僕は流れに任せて六本に分かれて宙を舞う枝を更に半分に切る。
それでもまだスローモーションは続く。
一二本に分かれた枝を更に半分に切る。
……まだいけそうだ。
二四本の枝を半分に切る。
…………まだいける。
だが、そこで切るのを止めて剣を鞘に戻す。
するとスローモーションが解除され、バラバラになった小枝が一瞬で地面へと落ちた。
「すごいな……」
気分は剣豪だ。
これだけの技量があれば、そう簡単にモンスターにやられることはないだろう。
(よし、ここからが本番だ……)
剣術スキルの感じは掴めたので今度は魔力制御のスキルがうまくいったか試してみることにする。ぶっちゃけ、ここからが本番だ。
まず、魔法を発動せずに魔力だけを掌に送って強弱を調節できるか試してみることにする。
「ん……」
僕は軽く意識を集中し、ヘソの下から掌へ向けて魔力を移動させてみる。
(あれ?)
魔法を発動させず、魔力を移動させただけだったが、この時点で異変に気づく。
今までは嵐のように暴れまわって移動だけで精一杯だった魔力の感覚がまるで違ったのだ。
まるで水道の蛇口を捻るかのように強弱の加減が簡単に行えてしまう。
いや……、水道の蛇口どころではない……、むしろ電子顕微鏡を使わなければわからないレベルでの分量のコントロールができる感じがする。いや、電子顕微鏡どころでは済みそうにない。
そんなものをはるかに超えた領域での制御が可能だと実感してしまう。
(これなら……、大丈夫だ……)
そう実感できる。
試しに水滴一粒分くらいの魔力を掌に移動させ魔法名を言ってみる。
「ティンダー」
するとマッチをこすったかのような大きさの炎がポッと発生した。
「おお、できた……」
ちょっと感動だ。
これが本来の着火魔法なのだろう。
そして魔法を発動してみた事でわかったこともある。
訓練所で放ったのは魔力コントロールが不完全なだけだったのだと。
今の僕なら規模を大きくしても問題なく使える気がする。
今度は訓練所と同サイズの魔力を掌に移動させる。
そして……
「ティンダー!」
僕が魔法名を叫んだのと同時にドオオオンッ! という轟音を伴った大爆発が起こった。
だが僕はふらつかない。
魔法を使った後も意識が朦朧とする事はなかったのだ。
「ご主人様!?」
爆発音に驚いたコロが振り返ってくる。
「ああ、ごめんね。大丈夫だから」
「はいっ!」
コロに心配ないと返しながら自分の掌を見つめる。
(これは想像以上だったな……)
魔力制御のスキルは塩のコントロールに使おうと思っていたのだがそれ以上の成果となってしまった。とりあえず魔力の微細なコントロールが可能になったのは間違いないだろう。
それと同時にもうひとつの事にも気付く。
(全然疲れていない……)
本来、魔力を使うと疲労感のようなものを感じる。
この感覚でどの程度の魔力を消費したか実感できるのだがそれを全く感じないのだ。
多分魔力制御スキルの効果に魔力の消費を抑えるという説明文があった事に起因するのだろう。
僕のスキルには超の文字がついていた。
つまり魔力の消耗も限界まで抑えられていると考えて間違いない。
今の爆発するティンダーくらいならいくら撃っても魔力を消耗する事はなさそうだ。
(次は塩を試してみるか)
今度は本来の目的だった塩を試してみる。
今回は魔法を使うように魔力を掌に移動させてから発動させてみることにする。
魔法のように魔力を移動させたほうがより効率よく発動できる気がしたからだ。
大量に出すと厄介なのでまずはどのくらい小さい量で出せるかを試してみる。
限界まで絞った極小サイズの魔力を掌へと移動させ、声を張る。
「塩!」
が、掌には何も出なかった。
「お?」
少し魔力の量が少なすぎたのかもしれない。
コントロールが簡単に出来すぎてしまうため、まだ感覚が追いついていないようだ。次はもう少しイメージを明確にし、一粒だけ塩を出すように念じてみる。
「塩っ!」
すると掌の上には小さなゴミと見間違えてしまうほど極小サイズの塩が一粒のっていた。
「おお、うまくいった……。けど……」
もっと色々できる感じがする……。
超魔力制御のスキルはこの程度ではない。
そう感じてしまう。
試しに一摘み分の塩を出す。
そして……。
「ん……っ」
軽く念じてみると少量の塩は宙に浮き、一粒一粒を緩やかに回転させることに成功する。
「はっ!」
僕は調子に乗って両手から塩を噴き出し、それら一粒一粒を操り、竜巻のように回転させてみた。塩の粒は凄まじい勢いで回転し、雪原に現れた竜巻のようになってしまう。
「これは……」
すごいけど何の役に立つのだろうか……。
ちょっと気持ちよかったのでつい色々とやってしまったがティンダーで爆発を起こせる事が分かった今、あまり利用価値が見出せない。
「ふぅ〜、何かに使えるといいんだけどな……」
僕は塩の竜巻を消すと軽く息を吐く。
(ウォームエアでも何かできるかな)




