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振り向くと受付の女の子がこちらへと向かって来るところだった。
「どうしました!? あああああっ!」
受け付けの女の子が異常に気づいて駆けつけてくれるも訓練所の惨状に絶叫する。
「すいません。なぜか訓練所に穴を開けてしまいました」
「ごめなさいですわん」
「な、なぜこんなことに……」
「スキルの練習中に木剣で地面を叩いたらこんな事に……」
僕は受付の女の子に大人しく事情を説明する。
「ま、まあ仕方ないです。ここまでの損傷だとこちらで修繕費用を全額持つわけにはいかないので後で請求書を出しますね」
「はい……」
「ご主人様ごめんなさいっ」
僕にしがみ付いたまま涙目になるコロ。
「いや、気にしなくていいよ。それよりすごい威力だったね! こんな力があるなら頼もしいよ!」
「わふーん……」
僕はコロの頭を撫でながら励ますもあまり効果はなかった。
コロは自分がやってしまったことが相当ショックだったようで僕の胸に顔をうずめたまま動こうとしない。
しかし、すごい威力だった。
僕もあんなことができるのだろうか……。
(ん、もしかして……)
改めて考え直した僕はそこでコロの凄まじい力に引っかかりを覚えた。
これはもしかしてスキルに膂力上昇を三本セットした効果ではないだろうか。
確証はないがそんな気がする。
それにしてもここまでの威力ならすごい切り札になりそうだ。
だがコロは自分がやってしまったことで僕に迷惑がかかってしまったことにしょんぼりしてしまっていた。
耳はペタンと頭にくっつき尻尾もダラリと下がってしまっている。
これはいけない。
「お舐め」
僕は指先に塩を出す。
「はふん」
コロは言われるがままに僕の塩をペロリと舐めた。
すると落ち込んだ表情はスキッリと晴れやかなものへと一瞬で変わる。
ご存知の通り、塩には落ち込みを解消する成分も含まれているのでこういうときは重宝するのだ。
「大丈夫、気にしてないから元気だして。そんな沈んだ顔を見ていると僕も落ち込みそうだよ」
「わふっ! 大丈夫ですっ。修理代もコロが稼ぎますわん!」
「うん、修理代は二人で頑張ろうね」
塩を舐めて元気になったコロと笑顔を交わす。
「とりあえず、これじゃあ訓練はできないから受付に戻ろうか」
「はいですわん」
こうなってしまっては訓練の継続は不可能だし一旦受付に戻る事にする。
そこへ受付の女の子が書類を抱えて駆け寄って来た。
「ソルトさん、こちらが請求書になります。金額が金額ですし支払い期限は半年後に設定してあります」
「おお、結構長いんですね。助かります」
「ええ、事故みたいなものですしね。次からは気をつけて下さいね」
「ご迷惑をおかけしました」
「ごめんなさいっ!」
「いえ、訓練中の事ですし問題ありません。ただ、お金だけは払って頂きますけどね」
「はい、なるべく早いうちに全額払います」
「頑張ります!」
結構盛大に破壊してしまったがギルド側の寛大な処置により支払い期限を長めに設定してもらえた。これならなんとかなりそうだと胸を撫で下ろす。
「よろしいっ! なんてね。お金も大事ですが命も大事です、期限の延長などは相談に乗りますので今回の事であまり無茶な依頼を受けたりしないようにして下さいね?」
「ありがとうございます」
「わふっ」
僕達は受付の女の子に再度頭を下げる。
そして頭を上げた僕は受付の女の子に向き合うとある事を決心した。
「あのすいません、スキルの設定を行いたいんですけど」
「いいですよ。はいどうぞ」
とスキルボードを手渡してくれる。
(はじめはのんびりいこうと考えていたけど予定変更だ)
僕はそう考えながらスキルボードを手早く操作していく。
(ここは一気に行こう……)
まずホルダー追加を二回行い、最大ホルダー数の七にしてしまう。
そして空いた二つのホルダーに魔力制御のスキルを二つセットした。
セットしたスキルを確認してみると……。
【スキル】
●【異世界語】(語学が堪能になる)
●【簡易鑑定】(簡単な判別が可能)
●【アイテムボックス】(アイテムを収納できる空間を作れる)
●【超生活魔法】(家事に関する魔法が超使える)
●【超剣術】(剣の扱いが超うまくなる)
●【超魔力制御】(魔力の制御が超うまくなり、魔力消費を超抑える)
●【超魔力制御】(魔力の制御が超うまくなり、魔力消費を超抑える)
相変わらずセットされたスキルには超の文字がつき、なにやら怪しげな雰囲気が漂う。
生活魔法のスキルを消して構成を考え直すという手もあったと思うがここはあえて魔力制御のスキルを収得した。
そしてコロの様子から同じスキルを複数セットした方が効果が上がると判断し、一気に二つ同時にセットしておいた。
これで残りのスキルポイントを全部使ってしまった形となる。
なぜこんな選択をしたかといえば一つの考えがあったからだ。
そう、異能の存在である。
はじめて異能を使ったときから使用限界がどの程度なのかなんとなくわかっていた。そして異能の使用限界や一度の最大出力はレベルが上がるにつれ、ドンドン上昇していくのが実感できた。更に今日魔法の講習を受けて異能の元となっているのが魔力とはっきりわかったのだ。
あの塩の素は魔力で間違いない。
生活魔法を使う際は『超』生活魔法になったためか制御が難しいが塩のときはそんなこともない。一摘みから大津波まで自由自在だ。
そんな現状でさらに魔力が制御できれば攻撃手段として用いれると考えたのだ。
超生活魔法を試した感じとコロの膂力上昇複数セットの感じを見る限り、かなりの効果が期待できるんじゃないだろうか。僕は攻撃魔法が使えないので何とかなってほしいところではある。
これで駄目だったとしても塩を使ってスライム狩りを続ければ問題ないだろうし、まだ試していない超剣術もある。今回の選択が失敗に終わってもこの二つがあれば充分なんとかなるはずだという打算もあっての選択だ。
「よし、ありがとうございました」
「はい、それではお気をつけて」
スキルセットを終えた僕は受付の女の子のスキルボードを返すとその場を離れた。
そして、これからどうするかを考える。




