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「ええ〜……」
釈然としない僕はその場に立ちつくしてしまった。
「さあ、行った行った〜」
そんな僕を見て出入り口の方へ移動するよう、手を振るエイリーンさん。
「行きましょうご主人様っ!」
そして僕の背を押してくれるコロ。
僕は二人に連れられるようにして受付へと戻った。
ついでに受付で昼から訓練所の予約を入れ、エイリーンさんとはそこで別れることになった。色々とお世話になったので二人でしっかりとお礼を言った後、隣にいるコロの方へと向き直る。
「じゃあご飯にしよっか」
「ご飯っ! お腹ぺこぺこです」
僕の言葉にぱあっと顔を輝かせるコロ。
「外に移動するのも面倒だしギルドで済ませちゃおうか」
ギルド内には飲食スペースもあるので予約時間まで時間を潰しながら昼食を取ることにする。
「わかりましたわん」
「じゃあ行こう」
「わふっ」
というわけで僕達は注文カウンターで二人分のハンバーガーとポテトに飲み物のセットを頼む。
注文の品をカウンターで受け取るとキョロキョロと空いている席を探しながら移動する。お昼時というのもあって僕達以外にもここで昼食をとろうと考えている人は多いようで飲食スペースはかなり混雑していた。
丁度窓際に空席を見つけ、そちらへと向かい、テーブルに料理が載ったトレーを置くと席に着く。
そして僕はおもむろにポテトの側に盛り塩を出す。
この間食べたときにここのポテトが薄味だったのを覚えていたのでこれは必須だ。
「よし」
まずは一つ。
そして次にハンバーガーのバンズを外し、パテに適量の塩を振る。
パテが真っ白に染まったのを満足気に確認するとバンズを閉じた。
「よし」
そして二つ。
次に人差し指と親指を擦り合わせるようにしながら飲物へ塩を振る。
「よし」
準備完了だ。
ふと視線を正面へと戻すとキラキラと瞳を輝かせたコロがバンズを外して待ち構えていたので同様の処置を施す。やれやれ、コロの美食家ぶりにも参ったものだ。
「食べよっか」
「はい、いただきます!」
僕の言葉を合図に二人してハンバーガーにかぶりつく。
「ん、いいね」
「わっふぅ♪」
ばっちりの味加減だ。
この世界に来てからこの異能のお陰でどれだけ助けられたか枚挙にいとまがない。
そんな楽しい昼食タイムを見ていた周りの連中からざわめきが聞こえてくる。
「塩だ……」「塩を振りやがった……」「噴くんじゃないのか……」「あんな微量じゃ塩噴きとは言い難いな……」「全く尾ひれのついた通り名だぜ……」「塩噴き男ってあいつなんだろ……」「塩のくせに……」「俺だって塩くらい……」
などと僕の一挙手一投足を見て反応が返ってくる。
ふぅ、ちょっと困ったことになっちゃったな。
そんな外野の声はなるべく気にしないようにしながらコロとの食事を楽しむ。
「美味しかったね。そろそろ訓練所へ行ってみようか」
「はい、ご馳走様でした。今度は剣術の稽古ですね」
食べ終わって一息つくころには予約時間が近付いていた。
僕たちはトレーを持って食器類を返却するとそのままスキルカウンターを通って訓練所を目指す。
「うん。稽古って呼べるほどのものになるか疑わしいけどね」
「ご主人様ならズババーン! ですよっ!」
「なにそれ?」
「すごいかっこいいって事ですわん」
「あはは、せめてこけないように気をつけるよ」
などと話している内に予約しておいた訓練所に到着する。
僕は壁際に立てかけてある木剣を手にとってしげしげと見つめながら呟く。
「へぇ、これが木剣かぁ。はいコロ」
「ありがとうございますっ!」
コロに木剣を渡すと自分の分を取り、訓練所の真ん中へと移動する。
「えーっと……、マニュアル、マニュアルっと」
「ふんふん。特に意識しなくても使えるみたいに書かれていますね」
マニュアルによると剣術などの近接攻撃系のスキルは収得した時点で対象となる武器を装備さえすれば難なく使えると書かれていた。魔法のスキルのようにコツが必要というわけでもないらしい。
「うん。軽く振ってみたら感じがわかるかもね」
僕はコロに相づちを打ちながらマニュアルをしまう。
「ご主人様っ! やってみていいですか?」
木剣を持ったコロは尻尾が全開でブンブン振れていてワクワクが隠せていなかった。
「どうぞどうぞ」
「はいっ」
僕の言葉にコロは笑顔で頷くとトテテテと訓練所の中央まで行き、剣を構える。
「ほっほぅ」
そんなコロの構えがすごく様になっていて思わず声を漏らしてしまう。
「とりゃーっ!」
かわいい掛け声とともに振るわれた剣の動きは目を見張るものだった。
動きに素人っぽさがなく、全ての動作に意味があるのではと感じてしまうほどだ。
「おお! すごいよコロ! 全然素人に見えない」
「ふっふーん。トドメですわんっ!」
僕の言葉に調子付いてしまったコロは大仰に構えを取ると大きく振りかぶって地面を叩いた。
すると――
ッドオオオオオンッ! と、ちょっと前に着火魔法の発動で聞いたような轟音とともに木剣が粉々に砕け、土の地面にクレーターができた。
できてしまった……。
「ええええ!?」
驚く僕。
「ええええええええええええええっっ!?」
驚くコロ。
やった本人が一番驚いていた。
「どどどどどどうしましょうご主人さまーっ!」
訓練所に大穴を開けてしまい、ガタガタ震えながら僕へとしがみつくコロ。
「あやまろう」
真顔の僕。
これだけ派手にやるとごまかしようもない。
あやまるしかないだろう。
そんな事を考えているとパタパタとこちらへ向かって来る足音が聞こえてくる。
振り向くと受付の女の子がこちらへと向かって来るところだった。




