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「ん、OK。コロちゃんはどう?」
僕の言葉に頷いたエイリーンさんはコロの方へと視線を向けながら尋ねる。
「う〜……」
エイリーンさんの問いかけにお腹に手を当てて唸るコロから芳しくない返事が返って来る。そんな様子を確認したエイリーンさんは再び僕の方へと視線を戻した。
「じゃあ先にソルト君から魔法の練習に入るよ。コロちゃんは魔力を感じたら教えてね〜」
「わかりました」
「了解ですわん」
と、いうわけで僕から魔法の練習にはいることになった。
コロはお腹に手を当てながらうんうん唸っているのでしばらくかかりそうな感じだ。
「といっても、今感じた魔力を掌に誘導してから魔法名を言えばいいだけなんだけどね〜」
「掌に誘導ですか……、あ、魔法名を知らないです」
「そっか、ソルト君は何の魔法を収得したの?」
「生活魔法です」
「ん〜、生活魔法でポピュラーなのは着火の魔法『ティンダー』とか濡れたものを乾かす魔法『ウォームエア』だね。あとは掃除系のものが多いけどそっちは失敗するとびしょ濡れになったりしちゃうからその二つで試してみるといいよ」
「じゃあ、ウォームエアでいってみます」
「うむ。頑張るがよい〜」
僕の言葉に頭とリス耳で深く頷くエイリーンさん。
(掌に魔力を送って……、魔法名を言うんだったな)
僕はヘソの下にある、荒れ狂うような暴風の塊を掌へと移動させる。
魔力の勢いが強く、かなり手こずったがなんとか掌に集める事に成功する。
「よし! ウォームエアッ!」
そしてすかさず魔法名を叫ぶ。
ただ洗濯物を乾燥させるだけの魔法だが気分は大魔法使いだ。
するとボファッッ!! と、凄まじい突風が発生してしまう。
突風はその場に留まり、まるで竜巻のようになると轟音を立てて回転し続けた。
風の勢いは激しく、僕の眼前で事の成り行きを見守っていたエイリーンさんのローブが一八〇度反転し、下着が全開となってしまう。
下着は上下共に縞々でした。その縞々が体のラインに沿って絶妙に起伏していたのでした。
「あ、ごめんな……さ」
予想外の事故に謝ろうとするも意識がぼんやりとして言葉が出ない。
立っていることもままならずその場に膝を突く。
「ん〜、一気に魔力を消費しすぎたみたいだね。というか……生活魔法でそんな発動の仕方はできないんだけどなぁ……」
僕の状態を見て考え込むエイリーンさん。
「そうなんですか?」
ふらつきはあっという間に回復し、すぐに立ち上がれた。
立ち上がった僕は考え込むエイリーンさんへ視線を向けながら尋ねる。
「う〜ん……。試しにティンダー使ってみて」
「わかりました」
エイリーンさんが首を傾げる中、今度は着火魔法のティンダーを使ってみる事になる。
これは……、多分僕の生活魔法が超生活魔法になっていたことと関係があるのかもしれない。その事実を打ち明けるか迷いつつ再度掌に魔力を練る。
「いきますよ? ティンダーッ!!」
エイリーンさんが僕の背後に回り、正面に何もないことを確認してから魔法を発動する。
すると――
ッドオオオオオンンッッ!!! と、凄まじい音を立てて大爆発が起こった。
「着……火魔法……ですよ……ね?」
魔法を使った反動で朦朧としながらも僕はエイリーンさんに尋ねる。
「これじゃあ火を着けるどころの話じゃないね〜……」
エイリーンさんは呆れた表情で呟く。
「ソルト君」
僕の背後から回り込んで来たエイリーンさんはこちらへ真剣な表情を向けてくる。
「はい」
意識がはっきりとしてきた僕はしっかりと返事を返す。
「掌に送る魔力の量を調節できる?」
「やってみます」
エイリーンさんに言われて掌へ送る魔力の量を減らそうと意識してみる。
だが、ヘソの下で荒れ狂う魔力は一筋縄ではいかず、激しい勢いを制御する事は叶わなかった。掌に集まるのは先ほどと同量となってしまう。
「だめです……。すごく勢いが強くて強弱を調節するみたいな繊細なことはできない感じがします」
「むむ〜……。どうやらソルト君は元々の魔力総量が高すぎるみたいだね。そのせいで軽く集中しただけで大量の魔力が移動しちゃうみたいだね〜」
「それであんなにすごい事になってしまうんですね」
「うん、それだけじゃ説明できない部分もあるんだけどねぇ。生活魔法を他の人が使ったとしても魔力総量の大小であそこまで威力が変わることはないはずなんだよ〜」
「え、そうなんですか?」
「うん、とっても簡単な魔法だからね。だから本来は誤差も出にくいんだ。どうも君の生活魔法はピーキーになっているような気がする~」
「な、なるほど」
「……ウォームエアは目視で威力を判断しにくいからわかり辛かったけど、ティンダーの感じを見る限り一〇〇〇倍以上の威力が出てるね」
「ええええ!?」
「だって、小指の先っぽくらいの火を灯す魔法だよ? なんであんな大爆発になるのさ~」
「そ、そういわれてみれば……」
「しかもそんな無理な運用をした反動で使った直後にふらついてたでしょ?」
「……はい、なんか朦朧として立っていられなくなりました」
「多分、元々小規模な魔法を無理矢理大規模に発動させようとした反動だね〜。普通に中級魔法や上級魔法を発動させる方が効率がいいのに着火魔法であんな大爆発させるからそんな事になるんだよ」
「そう言われても僕には何がなにやら……」
「生活魔法使用禁止!」
「ええっ!?」




